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23話

「つまりは、SSランク冒険者パーティが三つあると考えていいって事か。即席とはいえ、確かにアリアの力は俺達にも効果を及ぼすからな。そこにヴィルも加わるとなれば……いけるのか」

「いいや、無理だよ。無理だからズルをする」


 チラと視線を向けられ、ノーグは笑った。

 ヴィルは確かに倒すための算段がある、と口にしたのだ。それは、もしかしたらSSランクの魔物と戦ってみたいという興味からなのかもしれない。それでも倒さなければいけない相手である事に変わりはなかった。


「ノーグ、五階層を終えたら帰るつもりだ。これは僕達で済ませられる案件ではない。僕が直々にライアン宛に鳩を飛ばすよ。それと」

「構わないさ。続きは倒してからにするよ。要は本気で戦って欲しいって事だろ。して、相手は誰にすればいいのかな」


 ニコリと微笑む姿にヴィルの表情が和らぐ。

 否定される等とは考えてもいなかっただろう。それでもノーグが力を使うという事は相応の問題も抱えるという事である。禁忌とまでは言えずともアリアと同様に人前では使いたがらないものである時点で、その了承を得られた今がとても有難かった。


「僕とダンの二人だ。詳細は今から伝えるから勝手に理解してくれ。少なくとも作戦の要はノーグ、お前だよ」

「信頼とは重いものだねぇ……俄然、腕が鳴るよ」


 勝てない相手を下すための要は自身である。

 その言葉がただ只管にノーグには嬉しかった。力を求めた結果が、戦い続けてきた今までが少しずつ報われていくような……微かな幸福感がジワリジワリとノーグの体を満たしていく。その様子を見てヴィルは安心したように座って全員に向き直した。


「まず持って、既に僕はシャロの記憶からサジタリウスの戦い方を見ている。それを前提にして話すとなれば敵は本当の意味での化け物だ」

「……ドラゴンとどちらがヤバい」

「ダンの気持ちは分かるよ……その上で強さの方向が違うだけの同格だと言っておきたい。サジタリウスは環境次第でドラゴンすらも超える実力がある」


 少なくとも、シャロの戦闘の才能は抜けていた。

 ボス部屋等のタイマンを張る意味が無い場合を除けば、単独でSランクの魔物を倒した事も少なくない。その彼女が為す術もなく自身の分身を殺されるしか手が無かったのである。それはヴィルを含めた白の角蛇の全員を容易に絶望させるものでもあった。


「そうだね……何も知らずに入っていれば勝率なんて無かったんじゃないかな。多分だけど最初にシャロが殺されて、次にダンが殺される……その時点で逃げの手しか取れなかったと思う」

「って事は、勝てるって事だな」

「だから、問題無いって。作戦さえ固めてしまえば今の面々で簡単に倒せるよ。特にノーグの火力が必要になってくるけどね」


 二つ名、独裁者は何も強さからだけでは無い。

 独断即決、それを成し遂げられる程の戦闘への理解度がヴィルにはある。他人からの意見を聞き入れる事の無いダンとギネも静かに首を縦に振った。絶大的なヴィルへの信頼は他の面々を、餌を待つ雛鳥かのように先に続く言葉を待たせるだけであった。


「それじゃあ、作戦を伝えるよ」


 ヴィルの言葉に全員がただ俯いた。








 ◇◇◇








「……本当に現れているとはな」

「ああ、それも含めて……異質なんだろうね」


 人一人が通れるだけの隙間、その先に敵はいた。

 扉の先の空間、本来であれば中に足を踏み入れる事で敵が現れるはずであった。だが、暗闇の中には六メートルはある大きな影がおり、その二つの眼光だけが鋭く輝いている。薄く差し込んだ光では全体までは見えずとも、異様な雰囲気だけが彼等の精神を蝕んでいく。


 シャロの見た景色、その時も同じであった。

 一体の分身を残して十体のシャロが中へ入ったのだ。その結果は完全な敗北、薄らと見える大きな弓によって放たれた大量の矢が容易く彼女を貫いた。その間、僅か二十秒の中で行われた虐殺は客観的に見れなければタネなど分かる由も無い。


「分かっていると思うけど……ここから先は僕の命令が命よりも絶対だ。誰かが勝手をした瞬間に他の誰かが死ぬ、そんな事は僕が許しはしない」


 短な人生、その中で学んできた事があった。

 誰もが優秀、それは全員が身勝手という事でもある。高ランクの冒険者と何度も関わってきたからこそ、ヴィルには分かっていた。今のパーティメンバーは最高とも言える程に強く、連携が可能な代わりに個々の我が強過ぎるのだ。


「この僕に、独裁者に命を捧げろ。代わりに僕が君達を幸福なままでいさせてやる。その命を最大限に扱ってやるよ。だから、安心して羊として生きるといい」

「デケェ口を聞くようになったじゃねぇか!」

「やるぞ。時間が勿体ない」


 盲信、ヴィルが求めていたのはそれだけである。

 普通であれば誰も許しはしないものではあったがダンとギネは違った。自身の力を劣っているだのと考えている訳ではない。むしろ、彼等の中にあるのはヴィルよりも強いという一心である。だからこそ、その強さに、そして大切な弟子の心に泥を塗りたくは無かった。


「白の角蛇……ようやく、揃ったんだ。 本当の意味での一歩を踏み出す事としよう。本来の、野蛮な荒くれ者共としての僕達を見せる番だ。さっさと敵を殺して幸福を味わい直そうじゃないか」

「ん!」

「はい!」

「ああ!」


 その時をどれだけ待ち望んだだろうか。

 殺しあった時から今にかけて、ノーグの胸の中にあるのは四人で一つの冒険者パーティであった。角蛇、それは伝承の中にある自由に空を飛び回る魔物の名であり、白は正義を志すヴィルを表したものである。組んだ時には無かった新たな色は今の時を待ち望んでいたからこそのものであった。


 故にノーグは、腰に差した剣を強く睨む。

 今ある夢の景色を費やさぬように、美しい白色が汚れぬように……そんな半端とも思える心が強く揺らめいていた。甘え、彼がいれば問題ない等と考えていた自分への決別でもある。目の前の大切な人が望むからこそ、求められるからこそ、手を抜く事など出来やしないのだ。


「ダン、準備をして。僕はもう出来ているから」

「問題ねぇ……やるぞ」


 ダンの言葉にヴィルは笑みで返した。

 瞬間、ギネが一気に中へと入り、敵との距離を詰める。その後塵を拝するように入口付近からランタンが灯っていく。それでも先に進んだギネには追い付けず、全体が灯るのと同時にサジタリウスの胴へ大きな十文字の傷が入った。


 だが、その一撃を喜ぶ者は誰もいない。

 異形の化け物……ダンとギネの二人がかりで倒したSランクの魔物、ミノタウロス。下半身は四足の馬そのものであり、上半身には三対の人間の腕が付いていた。その背には大きな翼があり……薄らと見える尾は鬣ではなく蛇である。ミノタウロスと代わりのない牛の頭、だが、それは誰が見ても被りモノでしかなかった。


 神秘的にも思える異様な姿形にただ見蕩れる。

 その最上位種としての威厳と威圧が全ての者の心を一瞬で射抜いてしまったのだ。それは一度、見ていたはずのシャロですらも同じであり、瞬間、五メートルはある大弓が一気に引かれる。


 見た事のある、感じた事のある絶望であった。

 ただ、シャロだけで戦った時とは明確に違う事がある。それはヴィルという同様に化け物が既に動いていた事であった。引かれた瞬間に大きな魔法陣が構築される。放たれた万にも及ぶほどの小さな矢の数々……だが、それらは魔法陣を通ってサジタリウスの背後を奇襲した。


「ツーツー……理解不能」

「へぇ、喋れるなんてさすが高ランクの魔物だな」


 土煙が舞う、それでも聞いている素振りはない。

 その事実が只管にシャロの恐怖を駆り立てる。彼女に当たれば即死級の矢ですら、サジタリウスには大したダメージにはなっていないのだ。言葉通りの化け物、その片鱗を肌身を通して感じたからに他ならない。


 だが、待つ程の優しさは魔物には無かった。

 即座に構え直された大弓、その前方の空中には無数の穴が空き始める。嫌な予感……過ぎった時には既に遅く先程と同等の矢が降り注ぐ。時が止まったような空間ではあった。逃げるという手段を取るにも四方から放たれた矢から抜け出す術は残されていない。


転砂球ウィンド・サンド!」


 それらを防いだのは大量の波打つ砂であった。

 いいや、砂とするには不自然な程の強度がそれにはある。見てくれだけで言えば確かに砂ではあるものではあったが、それらが流動する姿を見てシャロは静かに理解した。小さな鉄鉱石の塊であるという事を……。




 そして、それらが絶えず彼等を半球状に包んで矢を流す事によって、少したりとも攻撃が届きはしなかった。矢の回数や密度は段々と高まっていく。それでも表情すらも変えずにダンは攻撃を流し続けた。


 瞬間……その攻撃がピタリと止む。




「俺を無視とはな!」


 サジタリウスの意識がヴィル達へ向いていた間。

 時間にして三十秒程度の隙の中で自由となったギネは九つの鎖、吸魔の鎖を頭部へ刺していた。本来であれば刺した対象の魔素と魔力を吸い出していく魔道具である。だが、今し方、使用したものはギネの特別製のものであった。


 頭部に刺さった九つの鎖、それらが破綻する。

 小さな穴が、徐々に徐々に大きくなっていき、その内部へと侵食を強めていく。咄嗟にサジタリウスは牛の被りものを脱ぎさるが一足だけ遅かった。手に残っている瞬間に大きな爆発が響き、一番上の左腕が共に吹き飛んでしまう。


「……敵と認定。殲滅を開始する」


 流暢な言葉、それでもどこか人らしくない。

 被りモノを捨て去った顔は確かに美しい金髪の青年そのものであった。だが、やはり、人とは確実に異なる敵を前にしてヴィルは右指を弾いて笑った。同時にサジタリウスが大弓を構え始めたがそれも一手だけ遅い。


「返してやるよ。バーカ!」

「ガァ……ッ!」


 サジタリウスの顔面を囲むように現れた穴。

 そこから放たれたのは間違いなく自身の放った矢であった。先程のダンが流していた矢、壊す事に躍起になっていた影響で気が付けなかったのだ。その攻撃こそがヴィルの求めていた行動であるという事に……。

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