15話
鋼鉄の破壊者、一人の男が与えられた名前だ。
二つ名を与えられる程の存在、ましてや、その者は単独で最高ランクであるSSSの依頼を成し遂げた過去を持ち、その身のみでSSランクへと至った化け物であった。単独であれば出来る人はいたであろう。彼の名前を知らしめる理由となったのは職業故だった。
最弱職に名を連ねる非戦闘職……錬金術師。
もし、自身が錬金術師であったなら……そんな問いをすれば多くの者が表情を歪める程だ。ステータスはどれだけレベルを上げても代わり映えせず、唯一の強みと言えば鉱石系統を自由に操作出来る事や薬草関係の調合へ有利を持つ程度であった。だが、前者であれば鍛冶師が、後者であれば薬師が存在しており、やはり不遇な職業としか言いようがない。
そのような職業を持ちながら前線を張る、当然の事ながら前代未聞の事態であった。噂が流れても信用されず、職業だけで判別された事すらダンにはあった。それでも彼は自身の職業に対して少しの嫌味も感じた事は無い。
代わり映えのしないステータスは鍛錬で補い、職業からなる魔力精度の低さに関しては多くの経験を積む事で上達していった。魔力を限りなくゼロまで使う事で上達するのに時間はかからなかったのだ。とはいえ、それは命に関わる行為に他ならない。助けてくれたのは他でもない少し後ろを歩いている友人であった。
「少し暴れ過ぎだな」
八つの剣が未だに見えない奥へと飛んだ。
ギリィという呻き声がしたかと思うと剣が戻ってくる。それらには確かな真紅の紋様が描かれており、先程まで染まるだけの何かを吸っていた事は見て分かる事だった。一瞬で行われる必殺に近い攻撃は白の角蛇の皆を恐れさせると共に、冒険者としての心を昂らせていく。……本当の意味で生き残れる可能性が目の前にあるのだ。
「ヴィル、指示は任せるぞ。今、この場にいる全員の特性を知っているのはお前だけだ。多少は勝手をするかもしれないが」
「ああ、大丈夫だよ。そこは僕が何とかするから」
「信頼している。って事で、ダン!」
「あいよ。道は作ってやる」
ダンジョンの地面に手を付けるのと同時に十二の魔法陣が展開される。調魔の篭手、魔力制御が苦手な彼を補助するためにギネの手で作られたグローブの効果だった。中身は魔道具内に五十まで魔法陣を事前にストック出来るというもの。
この世界において魔法陣は魔法の補助を担う。
魔力の無いものであっても、魔道具があれば魔法を行使出来るのは同じ原理である。魔力の代わりを魔法陣が担い、その結果だけを顕現させてみせるのだ。とはいえ、事前に済ませなければいけない弱点はあるものの、五十もの魔法陣をストック出来る魔道具など、作成出来る者の方がおかしな話ではあるが……。
「チッ……面倒だな、このダンジョン。魔力を流したっていうのに少しも動きやしねぇ。やっぱり、他のダンジョンとは違うみてぇだな」
ダンの声には落胆と苛立ちが入り交じっていた。
仕方の無い事だろう。彼が本気で魔力を流した結果は変わらない通路であった。本来であれば鉱物である時点でスキル【錬金】によって変容を開始していたはずだったのだ。だが、結果は触れたところだけを少し凹ませた程度しかない。
「……これ、魔塞石だよ。名前は知ってる」
「知らねぇ……が、名前からして良い効果は無さそうだな。感覚として吸われている気もするから、通りが最悪に上手くいかないってところか」
ニヤリと笑って右腕を地面へと振り下ろす。
ドゴ、と大きく鈍い音が周囲に響き、直径三メートル程度のクレーターを作った。その端に散らばる白い地面の欠片を手に取ると一気に魔力を流す。変化は少しもありはしないが……その石から魔力が漏れ出す事は少しも無い。ふいにピキりと嫌な音がするのと同時に爆ぜ、ダンは満面の笑みで大口を開けた。
「おお! やっぱり、そうじゃねぇか!」
「はぁ……本当に荒い奴だな」
「こんな良い石は持ち帰りたくなるだろうが。武器にしても良し、魔道具にだって使えんだろ。なら、お前は要らねぇんだな」
意地の悪い笑みにギネは小さく溜め息を吐く。
子供過ぎる行動に構っている暇はない、現にダンが大声をあげた影響で多くの魔物の鳴き声が近付いてきていた。そう、石を集めている余裕等、少しも無いのだ。だからこそ、ギネは大量の魔力を手に流して剣を持ってみせた。狙う先は……。
「要らないとは言っていないな」
「おい! 俺より多く取っただろ!」
「待て! それではお前の方が多いだろ!」
地面を大きく抉ったギネの顔は満足気だった。
だが、それに対して多くの石を手にした事実はダンにとっては許せる事では無い。初めて見た鉱石であり、その価値は計り知れないものであった。大量の魔力を吸い込めるという特性だけで二人には幾つもの魔道具や武具のイメージが湧いてしまうのだ。
「ねぇ……アレが伝説の人達なの……?」
「緊張感無いでしょ。でも、アレが二人の平常運転なんだ。何なら今ので少し遊んだだけだよ。手を抜いていない状態なら多分、とっくに三階層まで着いているから」
シャロの言葉にヴィルは右頬を軽く掻いた。
ヴィルがいたとしても白の角蛇のメンバーだけでは常時、気を張り続けなければいけなかっただろう。現に魔物が迫って来ているというのに石に意識の全てを任せている二人がいる。ヴィルが知覚できているのもギネが探知しているからであり、共有されている時点でどちらも分かっているのだ。だというのに、少しも石集めから抜け出そうとしない。
「ノーグ、次は二人で戦闘を行ってくれ。どうせ、石に夢中で戦闘なんてしないだろうからさ」
「ま、待ってくれよ。こんな姿を見せられた後でアリアと戦うなんて無理だろ。シャロや……君だっていないんだぞ」
周囲に響く程の大きな溜め息が一つした。
矢先、その眼前へ一体の黒い狼が現れ、牙を最前線にいたノーグへと誘うと飛ぶ。剣は抜いていたものの既に構える余裕はなく、かといって、ガードの体勢を取る事すら賭けとなってしまう。最悪は、と噛まれる事を覚悟したが……牙は空中の何かに刺さって阻まれていた。
「安心しろ。二人の支援くらいはしてやれる」
「お兄様は弱気の風に吹かれていますね」
「いいや……今し方、覚悟は出来たよ」
一瞬で展開された結界……優しさからだった。
初めから誰にも怪我はさせまいと打てる手立ては打っていたのだ。ノーグには分かっていた。ダンとギネが騒ぐ程の石が周囲にあるならば結界を隠して空気中に残しておく等、不可能である、と。その目には既に闘志が宿っており、剣を持つ力は何時もよりも強かった。
「絶対に手は抜くなよ」
「誰に言ってんだ」
先に来ていたブラックウルフの首が飛ぶ。
その後ろを二匹の新たなブラックウルフが現れるが気にした様子もなく、顔面を掴んで地面へと叩き付けた。恐怖……それは何かあるのかもしれないというダンジョン特有の未知数から来るものである。だが、今となっては誰よりも信頼出来る者の支援を受けているのだ。その炎に少しの揺らぎも起こりはしない。
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