10話
戦闘回と言っていましたが間に合いませんでした!
恐らく次回から戦闘回になると思います!
「随分、騒がしいと思ったらヴィルか」
「……ごめん、ダンさん」
「いんや、喧嘩も無しにいられる方がおかしなこった」
ギイと開いた扉から静かにダンが入っていく。
少し呆れた顔をしながらも何かを言う事もせずに普段から座る自身の場所へと腰を下ろした。先程まで仕事に打ち込んでいたのだろう。その体には土汚れが多くついており、多少の金属の香りが周囲へと漂っていた。
「本当に仲の良いこったなぁ」
「……僕と対等で居られる存在が今ので臆していたらとっくに関わっていないよ。僕には僕の考えがあるのと同時に、相手には相手の考えがあるからね。それを口に出来ない存在なんて利敵以外の何物でもない」
「へぇ、悪くない正論だな」
それはダンなりの気遣いであった。
ヴィルの考えは確かに間違っていないだろう。だが、それを是とすれば意見を言えない者達は総じて敵という事となってしまうのだ。全てを認める事は出来ないが、かといって、認められる事は肯定する。それはヴィルの性格をよく理解しているからこそなのだろう。
「それさぁ、何度も言ってくるけど僕の意見ってどれだけ聞いてくれたのかなぁ。シャロやアリアの言葉は聞くのに僕のは聞かないなんて……うぅ……」
「キショいぞ、クソ男」
「うん! やっぱり! 酷いよ! 僕への扱い!」
瞳を濡らす姿にヴィルは溜め息で返した。
面倒臭い相手、ヴィル視点でのノーグへの評価はその一点に限る。何をするにもグダグダと自分のペースを押し付けてくるような相手、扱いが酷くなるのもそれが理由だった。だが、その一方でダンは静かに安堵していた。その関わり方は間違いなく彼本来の素だったのだ。他の人には見せないような言動を行っている時点で笑みが漏れてしまうのも仕方の無い事なのだろう。
「はっはっは……信用しているんだな」
「アイツの前で言わないで欲しかったんですけど」
「だけどな、どっちも気がついているんだろ。互いに任せられる分野が違うって。言葉を聞かないとは言うが意見を聞かないとは言わないあたり、どうせ、取り入れるところは取り入れていると用意に察せられる」
ふんぞり返りながらガハガハ笑うダンの姿にヴィルとノーグは見合わせた。相手に対してどのような感情を持っているのか等、言わずとも分かる事ではある。それでも明確に言語化されてしまった影響からヴィルは咄嗟に視線を落とした。
甘えがあるからこそ、酷い言い方をしてしまう。
相手を信用しているからこそ、自分の意見を強く言えるのだ。良くない考えである事はヴィルもよく分かっている。だが……と、大きな音に釣られて海底から意識を取り戻す。
「へぇ、そんな御高説を賜っている暇があるのなら手を洗って欲しいものだがね」
「……あー、それは……」
「やれ。さっさとしな」
「……はい」
ダンは感じた。その後ろには鬼がいる、と。
良くて半殺し、最悪は首が胴からサヨナラしてしまうだろう。その脳内に浮かぶのは若さ故に犯した過ちだった。Sランクになりたての頃に高まった自尊心から夜の街へと飛び出した事がある。結果は半殺しで済んだものの彼の体はその恐怖を未だに覚え続けていた。
「アンタも少し意地が悪いんじゃないかい」
「これが私の性分なので……と、この茶美味しいですね。是非、銘柄を教えて頂きたいのですが」
ズズと口にした茶は既に無くなっていた。
言葉通り、美味しかったとも感じられるがジーナの向ける視線は妙に鋭い。ヴィルへ向ける感情と自分達へ向ける感情が大きく相違しているのだ。会って少ししか経っていないのだから当然と言えば当然なのかもしれない。だが、おどけて見せながらもダンへ向けていた視線は確かに鋭かったのだ。
「そこらにある粗茶だよ」
「まっさか、私は金稼ぎだけが得意なのですよ。良い物を多く口にした自信があります。だというのに、この茶は……そこらの名高い料理人の物よりも高く上にある」
「そうかい、そりゃあ、よかったね」
その言葉や態度がどこまで真実なのか。
測る事が出来ないという事実がジーナには恐怖でしかない。多くの人達を見てきた彼女ですらも分からないという判断を取るしか出来ないのだ。優しさは確かに残してはいるものの、その内面には非情なまでの冷たさがある。茶を飲むだけの一挙手一投足すらもジーナには恐ろしかった。
「美味いよな、ジーナさんの茶の味」
「……ん、どれも美味しく感じたよ」
「だそうです。コイツ、言い方が悪いせいで信用されにくいんですよ。もし、気に障るのなら本音かどうか聞いてください。少なくとも……素直に感想を口にした時には嘘は何もありません」
ヴィルの真意は一瞬でジーナに伝わった。
ヴィルが一言、口にした瞬間に漂っていたはずの異様な雰囲気は鳴りを潜めたのだ。ジーナがノーグ相手に警戒していたように、ノーグも同様にジーナの為人を測っていた。それが彼なりの礼儀でもあったのだ。
「……すまないね。アンタ、見て分かるくらいには強いから気にしてしまったよ。もしも、ヴィル達の敵ならどうしようか、なんてね」
「いえいえ、よくよく慣れた事です。……まぁ、初めて死ぬかとは思いましたが。ああ、貴方達がヴィルを大切に思うように、私も大切に思っていますよ」
スンと美しい顔から表情だけが抜け落ちる。
先程まで沸騰していたはずの水は静かになり、奥にいたはずのダンもジーナの隣に来ていた。だが、気にした様子もなくノーグはニコリと笑みを見せてからヴィルへと視線を向けた。それを見てヴィルは大きな溜め息を態とらしく吐いて、額に右手中指を弾いてぶつける。
「な! 何でそんな酷いことを!」
「ああ、僕の大切な人に威圧を向けた罰だよ。シャロが言うから会う事を許したというのに……喧嘩を売っていいとは言っていないんだけどな」
「そう言う割には怒りはしないんだねぇ。ういうーい、ヴィール! 僕が君を思っている事が分かってそんなに嬉しかったか!」
軟化した表情、既に敵意等はどこにも無かった。
ヴィルへ抱き着いてその頬を相手の頬へと擦り付ける姿は、愛おしい弟に溢れんばかりの情をぶつけているようにしか見えないだろう。それと同時にジーナはノーグへ微かな憐憫の思いを抱いた。その思いが本音であるのならば余計に、ノーグの見せる偏った歪な愛情は彼の過去を容易に感じさせるものでしかないのだ。
「悪かったね。アンタの事、勘違いしていたみたいだよ」
「いえいえ、よくある事ですので。それにヴィルからここまで愛されていると分かっただけでも十分です。ただ」
「そうさね……もう少し考えて動く事とするよ」
ジーナはようやく理解する事が出来た。
何もノーグは最初から敵意を見せていた訳では無かった、と。ダンがいる前では偏愛を見せるだけで意地の悪い言葉は向けていない。自身とダンの違いがあるとすれば一点だけであった。それは目の前の相手を測ろうとしたかどうかだけ。その行動自体が信用出来ないという意味合いも含まれていたのだ。だからこそ、ジーナは笑って新しく茶を出した。
「ん……やっぱり、美味しいですね」
「そりゃあ、アタシが入れたからね!」
「ええ、本当に……最高です」
ノーグはただ静かにそれらを一気に飲み干した。
宜しければブックマークや評価、いいねや感想などよろしくお願いします! 作品制作の意欲に繋がります!




