9話
別サイトではありますが……カクヨムにて日間PV12900越えを達成しました。なろう版でも多くの方々から読まれている状況です。皆様からの期待を胸に今後も頑張っていきたいと思います!
静かな朝、チュンチュンと何かが鳴く音が響く。
天井の少し下辺りにある小窓から差す光は外とは違い弱く、小屋の内部を照らしていたのは未だに消えていないランタンの灯り達だった。だが、ボウと輝きは残っているものの全てを見せる事は出来ずにいる。
フワリと小窓から風が入り、壁へと当たってから室内全体を包んでいく。弱くなり始めていた灯りは一瞬で消え去り、春の暖かさだけが広がり続けていた。その心地良さから長い眠りについていた幼子もようやく薄らと目を開く。
「……何やってんの」
「眺めてた」
「ふぁあ……暇人だね」
最初に見えた景色は最高のものだった。
ヴィルの顔には光が差す事は無かった。それは目の前にいる少女が長い事、彼の真横から覗き込むように眺めていたからに他ならない。昨日、想いを伝えたばかりの守るべき存在が確かにいる。その右手は名残からか繋がれたままで春と似たような暖かさを感じさせた。
「おはよ、シャロ」
「ん……よく寝ていたね」
「……もしかして、寝過ごしたか」
シャロは首を縦に振って体を起こしたばかりのヴィルのシャツの襟を直した。フワリと香る匂いは外の光とは違うものであり、ヴィルの鼻腔の奥を微かに刺激する。同時に昨日の会話を思い出してしまい、ふと頬を赤くしてしまったが既にシャロは立ち上がって出る準備を整えていた。
「行こ。ダンさんが待っているよ」
「……別にもう少し休んでも」
「甘え過ぎは動きたく無くなるだけだから駄目」
ヴィルの両頬を軽く引っ張ると顔を近付けた。
薄い陽のもとでは彼女の可愛らしさを最大限まで表現する事は出来ないだろう。だが、その行為自体は諸刃の剣でもあった。ヴィルが見せた真っ赤な顔はシャロにとっても珍しいものであり、それを独り占め出来ている現状がただただ彼女の羞恥心をより強めていく。
両手を離し、顔を背けてしまうのは必然だった。
だが、彼女の背中に柔らかい感触がする。甘い香りが彼女の鼻へと伝わり、前へ踏み出そうとした足を戻す。そのまま腹部で回された両腕にそっと手を当てると和かに笑った。どこにも行かないという意思、無意識的に動いた体にヴィルも驚きはしたが返された行動に喜ぶしかなかった。
「ごめん。早く行こ」
「ん……」
最後に一度だけ抱き締めてからヴィルは離れた。
余程、離れたくなかったのか、ゆっくりゆっくりと腕が解けていき、その後も名残惜しさからシャロを一瞥すらせずに身嗜みを整えている。その様子にクスリと笑顔を浮かべるとヴィルの手を取った。ヴィルも静かに強く握り返して小屋から足早に出た。
「……はぁ、眩しいなぁ」
「ん……中が暗いのが悪いと思う」
「仕方無いだろ。明るくすると他の作業で面倒になるんだ。それとも何もしないでいてもいいのか」
意地悪い言葉ではあったがシャロは笑い返した。
遠回しな優しさ、誰も手から零したくないという思いが確かに含まれていたのだ。そしてヴィルなりの自嘲でもある。自分如きですら遊んでいられない世の中への最大限の嘲笑……近くで見ていたからこそ、シャロには分かってしまう。
「おい! 近いって!」
「意地悪言った罰……しっかり受けて」
「……しょうがないなぁ」
左肩へ頭を乗せて身を委ねるシャロ。
そんな愛らしい姿にヴィルは半ば呆れながらも嬉しそうに受け入れながら、百数程度の少ない歩数を静かに、それでいて確かに味わいながら進んだ。湯気が立ち良い香りすらもする家の中、その扉へかけた手を離そうとしたのは今の時間を楽しみたいからかもしれない。だが、薄らと聞こえた声に覚悟を決めて静かに開く。
「遅い出迎えだね。ヴィル」
「来るのが遅過ぎなだけだ。ノーグ」
テーブルの一端に腰を下ろしている一人の青年。
ヴィルを見て立ち上がった体躯は百九十を越えていてスラリと体も細い。着ている防具すらも魔物の皮がメインである事から、普通の存在では無い事だけは誰が見ても分かる事だった。ヴィルを一目瞳に映した瞬間に色を変え、その端正な顔立ちをクシャリと崩す。
「愛らしい少女と共に来るとは随分と心地よい眠りについていたみたいだね。本当に君らしくなくて笑えてしまうよ」
「うるさいなぁ……柔らかかったんだよ、馬鹿」
「ん、ヴィルは私にメロメロだから当たり前」
何が、とは口にしなかったがヴィルは肯定した。
それがノーグには心の底から嬉しかった反面、半ば複雑な心底を金の短い髪を触る事で抑えていた。先に大人となった相手に何と返すべきなのだろうか、クルクルと指で回した前髪を眺めてようやく定める。
「ははは、そうか、そうかい。そりゃあ、よかったよ。君の事だから無茶の一つや二つは平気な顔をして行いそうだったからね。ゆっくり眠れたのなら嬉しい限りだ」
「お兄様、私はシャロを許せませんが」
ノーグの隣でコップを口に付ける少女がいた。
見た目からしてヴィルとシャロの間程度の年齢、だが、その見た目はノーグと酷似しており、違いがあるとすれば長い髪と性別くらいだろう。だが、当の少女は明確に怒っており、軽く言葉を発しただけで多くの魔力が一気にヴィルとノーグへとぶつけられた。
「んー、でも、それは斥候を選ばなかったアリアの問題だろ。得意不得意はあっても努力すれば近接戦闘職も出来た可能性が」
「言葉を挟むけどノーグの主観で言葉を口にするのは良くないよ。人によって出来る事と出来ない事があるんだ。それは得意不得意の話ではない」
「……私すらも超える君がそれを言うのかい。独裁者君」
それは明確な挑発ではあったが苛立ちは残る。
ギュッと掴んだ感触が無ければ間違いなくヴィルは目の前のノーグへ向かっていっただろう。だとしても、今いる空間は恩ある大切な師匠の家族が住む空間だった。そして目の前の青年はたしかに大切な仲間でもある。
だからこそ、返したのは明確な殺気だけ。
本気で潰すという意志を込めた強烈な威圧、アリアの嫉妬心とは比べ物にならない程のものだ。ヴィルが与えられた二つ名『雷炎の独裁者』……それは騎士を目指していた彼への最大の侮蔑の言葉でもある。
「よかった……腕は落ちていないみたいだ」
「……馬鹿にしてんのか」
「怖いね、騎士らしくない……いいや、知っているさ。私相手だから見せられる姿だとね。前に言った通りじゃないか。やっぱり、殺した方が良かった」
威圧に当てられて尚、表情すら変えない。
ヴィルはノーグを殺したりしない……それは口喧嘩を見て何もしていなかったシャロとアリアが証拠となるだろう。パーティは組んでいないとはいえ、どちらも明確な相手への敬意があるのだ。少なくとも嫌っているのであればノーグとアリアの身に付ける防具が白で統一など、されていないだろう。
「それは……僕の矜恃にあっていないな」
「なら、即答するべきだよ……ね、僕の親友君?」
「……はぁ、ウッザ。そういうとこだぞ、キショ男」
殺すべき……それはノーグの経験則からだった。
だが、それを是とすれば争いの火種が残り続けるだけ。どれだけ恨もうと、苦しみを与えてきた存在だろうと手を出さなかったのは……彼が未だに本当の騎士でいようとしたからに過ぎない。その心を擽ってくるノーグへ、ヴィルは大きく溜め息を吐きながら満面の笑みで口にした。
「久し振り、元気そうで嬉しいよ」
「お互いに、ね」
含みのある笑顔、だが、ヴィルは手を下ろした。
宜しければブックマークや評価、いいねや感想などよろしくお願いします! 作品制作の意欲に繋がります!




