49●『NieA_7』貧乏な君たちはどう生きるか?:貧乏な主人公はどう生きるか?…「反旗・反逆・反乱」と「自由への脱出」。
49●『NieA_7』貧乏な君たちはどう生きるか?:貧乏な主人公はどう生きるか?…「反旗・反逆・反乱」と「自由への脱出」。
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たとえば、ラスボスな独裁者に支配された国で、「貧困と格差」に苦しむボンビーな少年か少女が、ラノベの主人公になったとしましょう。
貧乏のどん底にあえぐ主人公は、たいてい、兵士に就職しますね。
そんなラノベが実際にヒットしました。超長距離の海洋翔破に挑む天才的な空戦パイロットとか、天才的な多足歩行戦車の操縦士とか、また、不幸な女の子はアサシンなスナイパーになるのがトレンドです。同志少女が敵を撃つみたいに。
しかし、それぞれの主人公はそれぞれの職場で命をかけて戦うものの、貧困と不幸を自分にもたらした「真のラスボス」を探索して撃滅しようとはしません。与えられた体制の中でお行儀よく戦って成果を挙げ、周りに褒められるにとどまります。
この点、主人公はとても“よいこ”なのであり、上官にとって、実に使いやすい忠勇の兵士です。
なぜか、上司に対して、常に模範的であり続けます。
しかし自分に貧困と不幸(屈辱)と過酷なブラック労働をもたらしたのは、ほかならぬ上司であり、自国の軍隊であり政府を支配している「真のラスボス」ですね。
主人公が反乱を起こしても不思議はないのですが、不思議とおとなしく従順なまま、ストーリーが進みます。
どうやら主人公は、「真のラスボス」を突き止めて反逆することをやめて、「貧困と格差」が横行するこの社会の秩序を受け入れ、その中で頭角を現して「成り上がる」道を選んだように見えます。
激しい不満はあれど、現状を肯定して、上位のカーストへ、のし上がろうと努力するわけです。それも一つの処世術でしょう。
ただし、もともと不本意な社会の現状を、本心に反して肯定する生き方ですし、そもそも「貧困と格差」が横行する社会で、貧乏な自分が上級カーストの人々を打ち負かして成り上がることは、普通に考えて不可能です。上司に利用されるだけ利用されて、あとはポイされることも覚悟しなくてはなりません。
そのような生活の中で自分を支えてくれる信念はやはり、「貧しくとも心豊かに」ということでしょう。そう信じて理不尽なブラック稼業を耐え抜くのです。
そして貧しい主人公が「貧困と格差」の社会で成り上がる唯一の道は……
“玉の輿”もしくは“逆玉の輿”なのですね。
権力を持つ王族のお姫様といい仲になったり、直属上司である軍人貴族のご令嬢のハートをつかんだり、といったことです。
そういったロマンスによって、「貧困と格差」に打ちひしがれていた主人公の心は救われてゆきます。(ほんとに救われるかなあ? ちょっと心配)
しかしその反面、読者としてはなんだか物足りない結末となります。
「上司とか、そのはるか上に君臨する“真のラスボス”がそれほど憎いなら、なぜ下剋上しないのだ?」と。
ミツヒデ君だってやったじゃないですか。結局、麒麟は来なかったかもしれませんが、彼なりの信念と決意があったのでしょう。
それにミツナリ君も、関ヶ原でボロ敗けしたとはいえ、家康の策謀に対する反逆の決意には、並々ならぬ正義感がありますね。
失敗しても、それはそれで歴史に不可欠なドラマです。戦国時代のあの時期を描くドラマ、悪役にされがちとはいえ、ミツヒデ君とミツナリ君、この二人の名バイプレイヤーあってこそ、五百年を経た今、大衆はハラハラしつつ大河ドラマを観るのですから。まあ、最後に笑うのは視聴率を稼ぐNHKですが。
しかしここは空想のラノベのお話です。しょせん現実でなくフィクションなんだから、もっと自由に劇的に暴れて展開してもいいのでは、と。
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たとえば、自分が勤務している会社の社長が、保険詐欺や器物損壊や、街路樹を勝手に枯らすなどやりたい放題でセコい悪事を重ねてボロ儲けしている。たいていの社員は逆らわずにヘイコラとシゴトして、靴下にゴルフボールを入れてクルマを殴って給料をもらっている。しかしそれを見かねた主人公は、半沢直樹的に内部告発して、マスコミを味方につけ、社長と悪徳幹部の辞任を含めた体制刷新を実現していく……といった物語ですね。
一言でいうと、「半沢直樹の空想ラノベ化」です。
つまり、「正義の反乱」。
反乱、というドラマ、あってもいいでしょう、ただの空想ラノベなんですから。
現実の現行政府を転覆するテロリストの話ではありませんし。
史実としては「226事件」がありました。失敗したものの、その反乱の根幹には、兵士たちの悲惨な貧困がありました。ある意味、やるせない悲劇です。
また、多少動機が異なりますが、最近では「プリゴジンの乱」もありましたね。何をしたいのか、よーわからん反乱でしたが。ニッポンにも昔、「加藤の乱」がありました。こちらも何をしたいのか、よーわからん反乱でしたが。
大戦中では、正義の反逆として「ヒトラー暗殺計画」もありました。
ものすごく古いケースでは、奴隷の身分をよしとせずにローマ帝国に反旗を翻した「スパルタカスの反乱」があり、1960年に大作映画にもなりました。しんみりとした哀しい結末です。
あ、そうだ、国内では『忠臣蔵』、赤穂浪士の吉良邸討ち入りも、ある意味一種の反逆ドラマですね。しかも国民的大人気のエピソードです。
また、いちおうフィクションだけど限りなくリアルで、現代にもそのまま通用する(そのことを嘆くべきでしょうが)優れた反逆文学作品が『蟹工船』(1928)。
こちらもフィクションですが、映画で『ケイン号の叛乱』(1954)がありました。ハンフリー・ボガートの異色の演技にも着目、“成功した反乱もの”として、これ必見です。
20世紀末前後のアニメ作品で、「反旗・反逆・反乱」を思わせる劇的展開を見せてくれたのは『少女革命ウテナ』が一番に浮かびますね。しっかりと「真のラスボス」を暴きます。
『スクラップドプリンセス』、『クロノクルセイド』『そらのおとしもの』には、絶対者である“神”に対する反旗が翻ります。
また、『新世紀エヴァンゲリオン』『THE ビッグオー』『ノワール』では「真のラスボス」の探索が、結局はややあいまいに終わったものの、ストーリーの底流をなしていると思います。
「反旗・反逆・反乱」を完璧なほどテクニカルに描ききった名作が、TVドラマの『プリズナーNo.6』(1967-68)です。主人公が毎回戦う“日替わりラスボス”は“ナンバー2”ですが、最終話に至ってかなりしっかりと、真のラスボスたる“ナンバー1”に肉薄して、チラッとですが正体を暴く展開が、もう最高のカタルシス。
哲学的なほど意外な結末なのですが、理屈はきっちり通っているところが凄い。「そうか、そうなのか、自分をがんじがらめに縛り付けて自由を奪っていた最大の敵は、アレなんだ!」とわからせてくれます。
つまり「結論明快な最終回」。
これも、現代のラノベ、いや、たいていの作品に欠けている要素と言えるのかもしれません。なんかみんな、もやもやと終わっちゃうみたいで。
「反旗・反逆・反乱」……このあたり、これから、ラノベ作品の一つのキーワードになるかもしれませんね。「真のラスボス」をあぶりだし、国家や社会の在り方を抜本的に改革する戦いを挑む主人公です。
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とはいえ……
「反旗・反逆・反乱」というものは、成功率が極めて小さいものです。
ハイリスクのハイリターン、バクチの典型。
およそ、コスパの良い生き方とは申せません。
『忠臣蔵』の実行者は全員ハラキリでおしまいですし、「226事件」も全員死刑、『蟹工船』では、信じていた軍隊に裏切られてボコボコにされます。
反乱が失敗したらどうするか、身の振り方を用意しておかねばなりませんね。
どうするか。
逃げることです。
自分を保護してくれそうな他国へ亡命する、変装して別人になりすまして、遠隔地へ逃亡する……といったことですね。
すなわち「自由への脱出」。
これも、貧乏主人公のラノベの結末のひとつとして、十分にあり得る姿です。
落ち武者的で情けない……と、ソッポを向かれる方もおられるでしょうが、そんなこと言っていると、官憲に捕まって死刑にされるだけです。
堂々と開き直って、逃げるしかありません。
反逆に失敗したんだろ、ならば逃げて当然じゃないか、なにか問題でも? と。
なりふりかまわず、スタコラサッサと逃げる、これも正しい人の道なのです。
逃げて逃げて、したたかに成功へと返り咲いた人物の一例が、作曲家のリヒャルト・ワーグナー。三十代半ばの1849年、王政に反逆するドイツ三月革命に参加、わりと積極的にアジったりしていたようです。
しかし革命は失敗。命からがらスイスへ亡命しています。
でも挫折はしません。スイス国外に出られず、にっちもさっちもいかないこの時期に、彼は歴史的超大作『ニーベルングの指輪』の執筆にとりかかります。
まあ、ワーグナーはそれ以前に夜逃げが得意でした。二十代から借金取りに追われ続けていたとのことです。贅沢三昧して浮名を流し、ヤバくなったらトンズラする、
どこか本質的に無責任な人格であったのではないかと想像されます。
責任感重大な人格でしたら、のちに王様のルートヴィヒ二世を誑し込んで自分専用劇場をバイロイトに建設するなんて、できなかったでしょう。それらと引き換えにルートヴィヒは破滅したのですから。
ということで、貧乏主人公の波乱の物語、その掉尾を飾るのは「自由への脱出」ということになります。
華麗なる脱出劇。
これも、2023年現在のラノベにはみられない、痛快な物語になると思いますよ。
超定番の「異世界への転生」にしてからが、「現実のこの世界から逃げ出したい」という「自由への脱出」の願望を暗喩しているのではありませんか?
【次章へ続きます】




