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ラノベ残酷物語  作者: 秋山完
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48●『NieA_7』貧乏な君たちはどう生きるか?:貧乏な主人公はどう生きるか?…本当のラスボスはどこにいるのか。

48●『NieA_7』貧乏な君たちはどう生きるか?:貧乏な主人公はどう生きるか?…本当のラスボスはどこにいるのか。




       *


 「貧困テーマ」に並んで、昨今のラノベに、決定的に欠けている要素があります。

 「巨悪を成敗する痛快さ」です。

 じつは昭和の昔の子供たちのヒーローは、みんなそうでした。

 「悪い奴らをやっつけろ!」という、シンプルなポリシーです。

 月光仮面も少年キッドも、ナショナルキッドも怪傑ハリマオも、鞍馬天狗も隠密剣士も黄金バットも、悪い奴らをギャフンと言わせる正義の味方でした。

 1979年のガンダム以降、正義と悪の対立は相対化されて、登場人物の善悪があいまいになってしまったのは、やむを得ぬ時代の流れではありますが……


 それにしても、悪を亡ぼす正義の味方こそ、「貧困と格差」に苦しむ21世紀の大衆が心の奥底で望んでいるヒーローだと思いませんか?


 だって「貧困と格差」が徹底的に世襲化されているのですから。

 政治家や大学教授、官僚に実業家、芸能人やTVキャスターやコメンテーターといった、“おいしい職業”の皆様を見れば、なんとなく想像がつきますね。


 自分が自堕落な生活を送ったから貧乏になったのなら仕方ありませんが、親がリッチかボンビーか、それだけの違いで、孫子まごこの代まで「司法・医療・教育」の面で天地の格差が引き継がれてしまうという、現代社会。

 自分がソーリなり有名権力者の子息だったら、交通違反をもみ消してもらえたり、病院では患者さんが並ぶ名医にファストパスで真っ先に診てもらえたり、望みの学校へは裏口直行できるかもしれない……と、期待したりしませんか?

 実際にどうであるかは、ネットやらで調べてみるしかありませんが、少なくとも、駅前でクルマを暴走して人を轢き殺しても、その場で逮捕されずに済む……という期待は具体的にできそうな感じがしてしまいますね。


 自ら招いた「貧困と格差」ならともかく、親から「貧困と格差」を生前相続させられてしまうのならば、いわゆる“上級国民”との恒常的な世襲格差をうらやむようになっても無理からぬことと思わざるを得ません。

 ましてや、世襲格差の上位に胡坐あぐらをかいて平然と悪事を行ってはばからず、公的な富と権力を私物化して横暴な権勢をふるう奸物のたぐいは、成敗したくなるのが人情というもの。まるで時代劇の世界ですが。


 古くは、『ロビン・フッド』『怪傑ゾロ』『三銃士』がそうでしたね。

 21世紀の今になっても、それら「スカッとする古典」の輝きは衰えていません。

 国産ドラマでは『水戸黄門』『必殺仕事人』『半沢直樹』、それぞれのシリーズがそうですね。

 

 いや、これこそラノベの世界だと思うのですが。

 「貧困と格差」を私たちにもたらす巨悪の根源すなわち悪のラスボスを、エイヤッと小気味よくやっつけてくれる主人公ヒーロー、現れてもよさそうなものだけど……


       *


① 学園内で魔法や超能力を競う。

② 剣と魔法の世界で冒険者として魔物を狩る。

③ 軍事エリートに転生し、チート力で無双して戦争に勝利。


 そんなパターンの物語が目白押しのラノベ世界。

 しかし、なにか決定的なものが欠けていると思いませんか?


 「真のラスボス」です。

 “闇の生徒会長”とか“魔王様”とか“狡猾な敵将軍”なんてのは、よくある「普通のラスボス」。真のラスボスは、それらの上位にあって、しかも、「善人の仮面」を被っているものです。

 考えるまでもないでしょう。

 本物の悪者は、「いかにも悪役です」なんて醜い顔をしているはずがありません。世間的には巧みに善意の仮面を被って上流の人々に尊敬され、正義の頂点にムフフと君臨している……のではありませんか?


 あのヒトラーだって、1945年に戦争に敗けるまでは、天才的な政策で国難を救った偉大なヒーローとして、日本国民から大絶賛されていたことを忘れてはいけません。クレージー映画の『大冒険』(1970)で植木等氏がヒトラーのことを「おれたちが若い頃の英雄だよ」と不機嫌に評したのが印象的でした。


       *


 具体的には……


① 闇の生徒会長どころか、その上の先生や校長よりも上の学園理事長、あるいは所管の大臣。しかも尊敬される存在。(そいつが、いたいけな生徒たちを戦わせて高みの見物をしている。戦いに勝ち抜く優秀なスーパースチューデントを輩出すれば、学園ブランドの株が上がる。魔法アメフトの学生寮でヤバい植物片や錠剤が発見されても逮捕されることなくもみ消してもらえるとか?)


② ありきたりな魔王様のさらに上位に位置する、“神”の一柱。あるいは、冒険者たちを取り仕切っている悪魔討伐ギルドの大元締めとそのスポンサーが悪者だとか。(普通にズル賢いギルド経営者だったら、裏で魔王様と手を結びますね。「魔王様は殺させません」と。魔王が滅びなければ、ギルドは永遠に商売ネタを失わずに繁盛するのですから。悪を育ててこそ、正義の需要が生まれます)


③ 敵の将軍と戦う主人公の上位に位置する味方の将軍とか、味方の政治的トップ。(これも裏では敵将軍や敵大統領と密約していて、「永遠に戦争を続けることでガッチリ儲けましょう」と目論んでいます。かつてポーランドを食い尽くしたヒトラーとスターリンみたいなものですね)


 「真のラスボス」を設定するなら、そういった位置づけの人物になるでしょう。

 見た目は真っ白な正義だが、腹の中は真っ黒黒という、真打ちの黒幕です。


 2023年現在でも、いくつかの国に、そんな大物独裁者や、前独裁者、あるいは独裁者に返り咲こうと画策している人物とか、いるかもしれませんね。彼らはみな例外なく、正義の旗を掲げているはず。


 しかし昨今のラノベ作品では……

 学園内で生徒同士がバトルして主人公が勝ってスクールカーストをのし上がると、そこに新たな挑戦者が現れて、また戦って勝てば新たな挑戦者が、とか、

 魔王を倒したら、次なる魔王みたいなものが現れるだけとか、

 次々と新たな敵国家が現れて、いつまでも戦争が終わらない、

 といった繰り返しが延々と続いているような……。


 高校野球で、なぜかいつまでたっても準決勝までしか行けず、決勝戦だと思って出場したら一回戦になっていて。そんな、「気付けばフリダシに戻っている」パターンで、いつまでたっても決勝戦が見られなくて観客をやきもきさせる物語とか。(じつは関係者全員が“結論を出すのが怖い”性格だったのが原因だったとか。あ、ソーリのことじゃないですよ)

 ……そうだ、これ作品にできないかな。「永遠無限甲子園」とか。



 シリーズの最後まで、なんだか「かゆいところにもう少しで手が届かない」ままフィナーレを迎えてしまうラノベ作品、けっこう多いのではありませんか?




  【次章へ続きます】



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