41●ファンタジーの原点回帰:1966年から1969年、この三年間に集中する猛烈エネルギー、鉱脈はここにある。
41●ファンタジーの原点回帰:1966年から1969年、この三年間に集中する猛烈エネルギー、鉱脈はここにある。
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虫プロダクションは1969年の『千夜一夜物語』に続く「大人(青年)向け劇場アニメ」として、翌1970年に『クレオパトラ』を公開しました。
しかし柳の下にドジョウは二匹おらず、ヒットには至りませんでした。
まあ当然と言えば当然で、ハリウッド映画の超大作『クレオパトラ』が七年前の1963年に公開されていたからでしょう。
タイトルも同じ『クレオパトラ』(1963)。
ウィキペディアによると「製作費は4400万ドル(現貨換算で3億ドル以上)」ということは、現在の400億円以上? ……ということで、その出費ゆえに20世紀フォックスの屋台骨を倒産寸前にまで傾かせたという、世にも恐ろしい超大作ですね。
『ベン・ハー』(1959)の制作費が1500万ドルらしいので、『クレオパトラ』の豪華絢爛ぶり、推して知るべしです。いやはや、カネゴンなパトラ様でした。
それから七年が経過したとはいえ、なにしろエリザベス・テイラー様が演じたクレオパトラ、あまりに美貌すぎて実物以上ではないかと。そこへアニメ顔のクレオパトラが出張っても、かないっこありませんでした。
さらに虫プロは1973年に文芸指向の強い、アーティスティックな表現を極めた、ロマンティック路線の作品『哀しみのベラドンナ』を公開します。
美しい作品、しかし美しすぎました。美しさを優先するあまり、庶民には退屈だったのです。芸術的な評価は高かったのですが、ドラマに痛快さは皆無で……
この作品が興行的に失敗したことで、虫プロダクションの倒産の原因になったといわれます。いやはや、こちらもカネゴンなお嬢様だったのでした。
ということで、1969年の『千夜一夜物語』が、その表現の斬新さ、性的描写の赤裸々さ、ドラマの波乱万丈度の高さでインパクトがありすぎたのか、それ以降の「大人(青年)向けアニメ」の定着にはつながらなかったようです。
結果的に『哀しみのベラドンナ』の翌年の1974年に『宇宙戦艦ヤマト』が放映されたことで、「大人(青年)向けアニメ」に新しいベクトルが与えられました。
要するに若者たちの要望は「エロよりもSF」だったのですね。
1977年(日本公開は1978年)の『スター・ウォーズ』もあいまって勃興した、宇宙SFの大ブームと合わさって、アニメは「子供向け」を脱皮して、青年男女の層へと拡がってゆくことになります。
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それにしても……
小学生以下から「中高生以上」へと観客層を広げた『太陽の王子ホルスの大冒険』が1968年。
その翌年の1969年に、アダルト感覚満載の「大人(青年)向けアニメ」として『千夜一夜物語』が登場。
東映動画の『太陽の王子ホルスの大冒険』は、ディズニーアニメなど本家本元が採用したフルアニメーション(一秒24コマ)を基本とした高品質の正統派作品。十年後の『未来少年コナン』を経て、いわゆる“宮崎アニメ”、そしてジブリアニメの歴代名作につながってゆきます。
一方、虫プロの『千夜一夜物語』は、『鉄腕アトム』など国産TVアニメ用に開発したコスト節約型のリミテッドアニメ(一秒8コマ程度)を発展させた感のある、新方式の作品。私の主観ですが、『ルパン三世』や『ワンピース』などにおける、欲望丸出しで無責任なキャラ造形の歴史的原点にもなったように思われます。
そこに加えて、「大人(青年)向け」を狙った劇画調の作風が印象的な傑作アニメ、『佐武と市捕物控』が1968~1969年にTV放映されました。モノクロ作品ですが、その特徴を逆手にとって、水墨画風の背景画が素晴らしく幽玄な効果を上げています。アニメの歴史遺産として、じっくり観賞する価値ありですよ。
ストーリーには21世紀の今ではTV放映不可能なアダルト表現が含まれているので、これもDVD等で観るしかありませんが、オープニングで佐武が放った分銅付きの縄がブルブルと震えているだけなのに、ビュッと左右真一文字に飛んでいるかのように見せる場面など、動いていないのに動いているように見せる魔法的な技法も注目です。細部のディテールに妙にこだわる昨今のテレビアニメには見られない、大胆な省略とトメの見せ方はむしろ潔くて斬新。
そういうことで……
『バンパイヤ』(漫画1966-69)
『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968)
『佐武と市捕物控』(1968-69)
『千夜一夜物語』(1969)
この、1966年から69年までの三年間で、この国の先進的クリエイターたちはアニメ・漫画作品に強烈なシフトチェンジ……偉大な変革と変動を引き起こしたのではないか……という気がするのです。
それも、これまでにないエネルギッシュな進化が。
ラノベ・ファンタジーの原点を考えるうえで、注目に値する年代だと思います。
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ちなみに、1966年から69年頃の映像作品を振り返ってみましょう。
『ドクトル・ジバゴ』(1965)日本公開は1966。
『ウルトラQ』(1966)
『サンダーバード』(TV人形劇1965-68)国内放映は1966~67年。
『原潜シービュー号 海底科学作戦』(TVドラマ1964~)国内放映は第2シーズンが1967~69年。
『ミクロの決死圏』(アイザック・アシモフ原作 1966)
『砲艦サンパブロ』(スティーブ・マックイーン主演 1966)
『クレージーだよ奇想天外』(谷啓主演の珍作SF 1966)
『ウルトラマン』(TVドラマ1966-67)
『ウルトラセブン』(TVドラマ1967-68)
『キャプテン・スカーレット』(TV人形劇1967)国内放映は1968年。
『宇宙大作戦 スター・トレック』(TVドラマ1966~)国内放映は1969年~
『宇宙家族ロビンソン』(TVドラマ1965~)国内放映は1966年~
『タイムトンネル』(TVドラマ1966~)国内放映は1967年。
『冒険者たち』(アラン・ドロン主演 1967)
『日本のいちばん長い日』(1967)
『007は二度死ぬ』(日本が舞台 1967)
『プリズナーNo.6』(TVドラマ1967-68英)国内放映は1969年。
『マイティジャック』(TVドラマ1968)
『クレージーメキシコ大作戦』(クレージーキャッツの爆笑超大作 1968)
『黒部の太陽』(石原裕次郎主演 1968)
『2001年宇宙の旅』(アーサー・C・クラーク原作 1968)
『猿の惑星』(チャールトン・ヘストン主演 1968)
『ロミオとジュリエット』(オリビア・ハッセー主演 1968)
『北極の基地 潜航大作戦』(アリステア・マクリーン原作 1968)
『怪奇大作戦』(TVドラマ1968~69)
『空軍大戦略』(1969)
『日本海大海戦』(三船敏郎主演 1969)
『SОS北極 赤いテント(レッド・テント)』(1969)
『空中都市008』(小松左京原作 TV人形劇1969-70)
おまけに『戦略大作戦』(1970)
並べてみると、やはり、凄いです。
1966年から69年頃の範囲で、ギッシリと詰まった大作、名作、SF映画。
高評価の傑作が目白押しですね。
2023年の今から見て、半世紀以上も昔の作品群です。
なのに、今観ても全然古くない、むしろ観るたびに新しい。
21世紀の今に至るまで語り草となり、DVDとかBDなどが販売され続けて、多大な影響を残し続けている作品の多いこと。
この年代、ラノベ的な視点からとらえても、「大衆SFの原点爆誕期」と言ってもいいのではないでしょうか。
この時期にこそ、SF作品を中心に、漫画やアニメも含めて、巨大な進化のシフトチェンジが実行されたのではないかと、そんな気がします。
この時代の創作者のエネルギー、半端ない。
現代のラノベとは比較にならないほど、凄い。本質的にパワーがケタ違いです。
ここへ原点回帰、する価値が大いにあります。
この時期の作品群にこそ、21世紀の私たちがすっかり忘れていて、これからの未来に通じる、すばらしい発想が埋もれているのでは?
埋もれているアイデアを掘り起こし、そのままではなく、変形し発展し、現代の新しい情報と結合して磨きをかければ、今の時代のラノベを凌駕する作品の素ができるかもしれませんね。
おそらく、鉱脈は「1966から1969」、ここにあるのです。




