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ラノベ残酷物語  作者: 秋山完
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25/54

25●『ドリームチャイルド』『ロスト・チルドレン』『フェアリーテイル』『秘密の花園』、その美しさ。

25●『ドリームチャイルド』『ロスト・チルドレン』『フェアリーテイル』『秘密の花園』、その美しさ。




 そのほか、ファンタジーへの「心の原点回帰」を感じさせるおススメ映画をいくつかご照会します。



       *


 貴重な一作、『ドリームチャイルド』(1985英)。

 ルイス・キャロルから「不思議の国のアリス」のお話を聞かされた、実在の少女アリス。それから月日は流れて1932年、80歳の老嬢となったアリスは、米国の大学で開催される「ルイス・キャロル生誕百年祭」に招かれて大西洋を越えます。このことは史実。

 ただしこの「現実世界のアリス」は、ルイス・キャロルの人物像を“活舌の悪い変なおじさん”といった程度にしか覚えておらず、「不思議の国のアリス」の童話にも全く興味を持たない合理主義ガチガチの老婆なのでした。

 が、米国での体験を通じて、少しずつ過去を回想して、少女だった自分を心の中で再体験してゆくことになります。

 作中で合唱される「にせウミガメの歌」の素晴らしいこと。この歌を決定打に、老嬢アリスは人生にとって無意味でしかないと蔑視してきたファンタジーの価値を悟ることになります。80歳となり、老いを痛感するようになり、もはや間近に孤独な死を自覚するからこそ、ファンタジーが心の救いとなることを、そしてキャロルの無私の愛の尊さを……

 少女時代のアリスを演じるアメリア・シャンクリーは、これぞ決定版アリス! と喝采したくなるほどキュートでコケティッシュな美少女っぷり。お母さんがハラハラしそうな、危なげな可愛さに目が離せません。他の出演作品は『小公女』(1986)だけど、どうやら劇場作品でなくTVドラマ、なんとビデオテープしか出ていないようです。求むDVD化!


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 『ロスト・チルドレン』(1995仏)

 ディストピアな未来らしき、うらぶれた港町。子供たちを次々と誘拐し、その幼い心の“夢”を盗むグロテスクな盗賊集団が徘徊します。奪われる夢のモチーフにクリスマスとサンタのイメージが使われています。

 主人公はサーカスで力芸を見せる怪力青年。子供の夢を奪い取る盗賊団に幼い弟をさらわれ、救出を決意。その作戦に、街一番の不良美少女が手を貸します。

 この作品、画像的には結構グロいのですが、生理的にオエッとなる直前に寸止めでカットを切り替えているような……。主人公の青年も、ラノベ的美男子とは真逆の、あまり賢くないけれど気のいい怪力男、生身のフランケン君ってところでしょうか。しかし醜く汚れた近未来風世界にあって、どこかに純粋な心を備えているところ、『シベールの日曜日』のハーディ・クリューガーを思わせます。

 美少女役のジュディット・ヴィッテは『クレオパトラ』(1963)を主演したエリザベス・テイラーの再来とも讃えられる神々しさで、まさに「神子役」。この作品の直後に引退して作品を残しておらず、それだけでも御尊顔拝観の価値ありです。

 この二人の心の交流が、グロテスクで不正に満ちた世界観の中で唯一、純粋な清らかさを放ちます。

 二人ともチートな強さには恵まれていない、ごく普通の非力なヒーローとヒロインなのですが、そこが最大の魅力ですね。熱意と工夫と運の良さで頑張ります。それもまた、ファンタジーの立派な主人公ではないかと。たとえば『天空の城ラピュタ』の二人の少年少女にしても、最後の「バルス!」を除けば、だいたい普通の男の子と女の子だったのですから。


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 以上、パトリシア・ゴッジ、アメリア・シャンクリー、ジュディット・ヴィッテの三少女は、出演作品が希少でもあり、20世紀の“幻の三大美少女”って印象です。

 『ドリームチャイルド』はウィキペディアに項目が立っておらず、激レア感がありますが、ネット動画や配信でご覧いただければと思います。


       *


 『フェアリーテイル』(1997米英)

 1917年、第一次世界大戦下の英国ヨークシャーの片田舎コティングリー村に住む12歳と8歳の仲良し少女は妖精の存在を信じていた。

 二人は7月のある日、父親の写真機を持ち出して、近所の清流で妖精たちとのツーショット写真を撮影。ひょんなことからこの写真が、当時、英国の心霊研究の第一人者として名をなしていたアーサー・コナン・ドイル卿の手に渡り、彼は写真の真贋を調査して、自著の名探偵ホームズの如く断定します「本物だ」と。

 戦時下の非常時でありながら、この事件はマスコミを騒がせて全国に知れ渡り、コナン・ドイルの旧友であり世界的な魔術師のフーディニまで巻き込んだ大騒動に発展してゆく……

 史実である「コティングリー妖精事件」を幻想的に脚色した、あくまでフィクションですが、フーディニの魔術に秘められた神秘性、そして物語冒頭の劇場で演じられる「ピーター・パン」の公演で「人間が妖精を信じなくなると、そのたびに妖精は死んでしまう。信じる君たちは拍手して!」とピーター・パンが呼びかける場面、そして戦地から引き揚げてきた兵士の凄惨な描写などが隙の無い伏線となって、心あたたまる秀作に仕上がっています。

 悲惨な戦争と幻想的な妖精たちの、心理的な対比が見事。戦争という現実のおぞましさから人の心を救うために、妖精たちは姿を現すのかもしれません……


 名探偵ホームズの作者コナン・ドイルを演じるのは、老境のピーター・オトゥール氏。作中の年代が1917年だけに、同じ年の同じ7月のアラビアでは若きオトゥール演じるトマス・エドワード・ロレンスが現地部族の軍団を率い、ラクダを駆ってアカバ港を奇襲している真っ最中……と、史実を照らし合わせてみるのも楽しいですね。


 「大事なものは、目に見えない」という、ファンタジーの原点をくっきりと浮き立たせてくれる、忘れがたい作品でもあります。



       *


 『秘密の花園』(1993米)

 19世紀末あたり、インドで両親を失い、英国の叔父に引き取られた少女。家族の愛に恵まれず心を閉ざしていた少女は陰気な荒野にそびえる大邸宅に隠棲いんせいさせられてしまうが、あるとき、壁に囲まれて放置されていた“秘密の花園”の鍵を手に入れたことで、友達となった二人の少年と共に、荒れ果てた庭園の復活に取り掛かります。

 花園に草花が蘇るにつれて、子どもたち同士が喜びを共有し、また、お屋敷の人々や当主の伯爵の冷え切った心も開かれていく……

 バーネットの世界名作を、名画のような美しさで再現した秀作。

 厳密にはファンタジー作品ではないけれど、よみがえる英国式庭園の優雅さは、やはりファンタジック。少女たちのヴィクトリア朝後期あたりのファッションも目の保養ですね。色彩もデザインも、渋い。

 それに超厳格な石頭家政婦を演じるマギー・スミス女史は、ほぼ十年後にホグワーツ校で教鞭を執ることになるマクゴナガル先生の転職前のお姿にしか見えないわけで、それだけで魔法的な雰囲気が存分に漂うことになりました。

 趣味の園芸って、やはり魔法なんですよ。


       *


  【次章へ続きます】




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