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ラノベ残酷物語  作者: 秋山完
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21●ファンタジーの本質:「Yes, Virginia, there is a Santa Claus.」

21●ファンタジーの本質:「Yes, Virginia, there is a Santa Claus.」



       *


 近代以降の古今東西のファンタジーで、至高の作品をひとつだけ選ぶとすれば……


 あります。

 天頂の北極星ポラリスのように、あらゆるファンタジーの中心にほんのりと光を放ち続けている、特別な一篇がありますね。ご存じの方、多いと思います。それは……


『1897年9月21日付けの米国の新聞「ザ・サン(ニューヨーク・サン)」紙に掲載された社説:「Is there a Santa Claus?」』


 当時、「ニューヨーク・サン」紙の新聞社に8歳の少女ヴァージニア・オハンロン(1889生-1971没)が素朴な質問の手紙を出しました。それに対して同社論説委員のフランシス・ファーセラス・チャーチ(1839生-1906没)が執筆した回答を、社説の欄に掲載したものです。

 ヴァージニアの質問書簡とチャーチ氏の回答文は、『サンタクロースっているんでしょうか?』(偕成社1977-)に邦訳されています。


 ウィキペディアに引用されている少女の質問状は……


       *


 編集者さま  私は8歳です。

 私の何人かの友だちはサンタクロースはいないと言います。

 パパは「サン新聞が言うことならそのとおりだ」と言います。

 どうか私に本当のことを教えてください、サンタクロースはいるのでしょうか?

             ヴァージニア・オハンロン  115 西95番街


       *


 「Is there a Santa Claus?」という、少女の問いかけに対して……

 「Yes, Virginia, there is a Santa Claus.」

  (そうです、ヴァージニア、サンタクロースはいるのです)

  ……と、論説委員フランシス・チャーチ氏は明快に答えました。


       *


 チャーチ氏は、続く回答の一節にこう記しています。

「The most real things in the world are those that neither children nor men can see. 」


「この世界でいちばんたしかなこと、それは、子どもの目にも、おとなの目にも、見えないものなのですから。」

  (前述の『サンタクロースっているんでしょうか?』より、中村妙子氏 訳)



※回答の全文は、「Is there a Santa Claus?」等で検索したら、紹介しているサイトが出てきます。


       *


 21世紀の今にいう、「神回答」ですね。

 ある種の奇蹟が生んだ一文といえるかもしれません。

 120年以上も昔に、チャーチ氏が「Yes, Virginia, there is a Santa Claus.」と答えた、そのフレーズに込められたゆるぎない自信が、二つの世紀を超えて力強く響いてくるかのようです。


 これはフィクションでなく、実話。

 現実の世界の、現実の人間、それも牧師さんといった宗教者の説話でなく、事実に基づいて真実を報道することを旨とする新聞社の論説委員が、責任ある立場で語ったことに、大きな意味があると思います。


 相手が8歳の少女だからといって、“子供だまし”の戯言ざれごとを返したのではなく……

「そう、本当に、サンタクロースは実在するのだよ」と。その理由として……

「この世で最も確かなことは、目に見えないのだから」。


 これは、サンタクロースに関する一つの解釈にとどまるものではありません。

 この世のありとあらゆるファンタジーの、本質を言い当てたものと思います。

 チャーチ氏のこの回答文には、近代以降の古今東西の全てのファンタジー作品を束にしてもかなわないほどの、「現実の重み」が備わっているのではないかと……


 ファンタジーでなく、正真正銘の事実としての回答。

「Please tell me the truth. …本当のことを教えてください」と願う少女に、チャーチ氏は心から「本当のこと」を答えたのですね。


 チャーチ氏の回答文を読むにつけ、涙腺が緩みます。

 氏の回答文は世界中の、貧困などの理由でクリスマスのプレゼントをもらえない、圧倒的大多数の子供たちに対しても、心ある福音となっているからです。


       *


 このときチャーチ氏は年齢60歳近く。

 人生経験豊かな高齢者として、8歳の少女の思いを軽んじることなく、真摯に答えられたのでしょう。

 このチャーチ氏の社説は、ファンタジーの本質を単純明快に語ったとともに、まさに「ファンタジーの原点」と位置付けられるのではないでしょうか。


 ならば、「ファンタジーって何なのだ?」と疑問に思ったとき、私たちが立ち還るべき、最も基本的な原点……ゼロ座標こそ、ここにあるのです、きっと。



 ファンタジーの作家と編集者で、この出来事エピソードを知らない人は一人もいない……と思います。

 もしも、知らない編集者さんがおられたら、ちょっと失礼ながら、モグリですよと指摘してあげてもいいのでは……。


       *


 チャーチ氏の社説のフレーズにかなり意味が近い言葉が、こちらのファンタジーにも出てきます。

 サン・テグジュペリ(1900生-1944没)氏の名作。


「One sees clearly only with the heart.

 Anything essential is invisible to the eyes.」

(ものごとは心でしか見ることができない。大切なことは目には見えない。)

  ……『プチ・プランス』:星の王子さま(1943刊)邦訳はグラフ社版P100より


「心で見なければものごとはよく見えないってこと。大切なことは目に見えないんだよ。」……と、王子さまの友だちになったきつねが別れぎわに「秘密の贈り物」として語った言葉ですね。


       *


 また、画家の名言として……

「芸術の本質は、見えるものをそのまま再現するのではなく、

 目に見えないものを見えるようにするものである。」

     パウル・クレー(Paul Klee,スイス 1879生- 1940没)


 人間の目には見えないはずのものを、見せてくれる、それがクレーの絵画。

 人の目には見えないのに、やさしい曲線で、まるで一筆書きのようにシンプルに描かれた愛らしい天使の数々は、谷川俊太郎氏の詩集『クレーの天使』(2000)に紹介されています。


       *


 大切なものは、目に見えない。

 だから「幸せ」というものは、目に見えない。


 それでいいのに、それをなんとかして計算できるデータに変換して、必死で自分の手につかもうとして、人々は争っている。そんな感じもいたします。

 たとえば、目に見えない「幸せ」の価値を「ポイント、スペック、ランキング……点数、性能、順位」で表わそうとしてはいませんか?





   【次章へ続きます】


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