第57話 大魔女さえも退けた小さな存在
王城付近の草原。
昼。
「さっさと死ね!」
「死んでたまるか!」
俺、御剣 響夜は覚悟を決めて太子に立ち向かうものの。
ご覧の通り防戦一方。
俺の力だけでは到底歯が立たない。
「チラッ」
戦闘の最中、仲間達を横目で見るが。
皆、目先の相手の処理で手一杯なご様子。
押しているとはいえ、とうせん坊もキングも俺を助けるだけの余裕はない。
他の仲間も同様。
助けは期待できない。
「こうなりゃ、アレを使う! 皆の者、散れ!」
もはやこれまでと悟った俺は“奥の手”を使うと決断する。
予告済みなので、皆言葉の意味を瞬時に理解して散らばる。
そしてできるだけ遠くへ逃げる。
「忍法《バッタ跳び》! からの《収納魔法》出し!」
五メートルジャンプすると収納魔法で収納してた“ある物”を出す。
それは貝殻模様の直径一メートルぐらいあるボール型の物体。
それを地面目掛けて投げつける。
「こ、これは!?」
驚く太子。
それが何か気づいた様子。
「気づいたようだな。そうよ! キイロスズメバチの巣さ」
投げつけたそれはキイロスズメバチの巣。
この戦闘が開始される前に予め用意したもの。
入手経路について簡単に説明しますと――
◆
魔王軍と王国軍にドンパチさせる一日前。
故郷の世界。
同じ町内の山川さん家に、でっかいスズメバチの巣が作ってしまって困ってると聞きつけたので。
俺は即座に見に行く。
「スキル《千里眼》! 種はキイロスズメバチか……」
向かう途中、ブンブン飛ぶ蜂を発見したので、スキル千里眼にて遠方から種を視認。
それがキイロスズメバチだと判明。
できれば日本最大最強のオオスズメバチがよかったが。
そこら辺は妥協しよ。
「おぉ! でかい」
歩くこと数分。目的地である山川さん家に到着。
塀越しから見た巣の大きさは直径一メートルぐらい。
庭に入って早々に、家屋の軒下に営巣するそれを見つけれた。
でも予想よりも大きくて、ちょっと気後れ。
しかし巣が大きければ大きいほど中の蜂の数は多くなる。
このサイズの巣だと、千匹は堅実だな。
これは個人的に嬉しい誤算。
思わずにんまり。
「うおっ! 気づかれた」
油断大敵。
キイロスズメバチが俺に気づいて向かってくる。
そういえばキイロスズメバチは攻撃性が非常に高く、巣から十メートル以上離れていても威嚇行動を取ることもあるらしい。
そもそも威嚇なしにいきなり集団で攻撃をしてくる事も多いとか。
これは危ういかもしれん。
迅速に決めねば。
「先手必勝!」
覚悟を決めると同時に山川家の庭に突入。
巣に向かって全力疾走。
一気に距離を詰める。
「《収納魔法》入れ!」
巣に急接近すると。収納魔法を使って巣を取り去る。
収納魔法は収納したい対象物が十メートルぐらいまでなら離れてても収納が可能。
普段はそうでもないが、こういう時には便利なもの。
お陰で難無く事が運ぶ――
「イデエッ! ちょっと刺された」
――なんてことはなく。
数匹取りこぼし、右腕を刺されてしまう。
ちょっと油断したよ。
「《ストーム》! 《解毒魔法》!」
風魔法でキイロスズメバチを吹き飛ばしつつ。
慌ててスキルで中毒を治療。
アナフィラキシーショックで死にたくはないからね。
「ふぅー」
解毒魔法は無事成功。
事なきを得る。
ひと段落し、ほっと一息。
っと、同時に。目的が達成された瞬間でもあった。
「おい、お前何してる?」
「あっ! ヤベッ」
一息ついてると、背後からおっさんに怒鳴られる。
それは家主である山川さんだ。
「すいません。あの、これはですね――」
その場の勢いで、無断で敷地に入ってしまってた。
アポををとらないで訪問したのを謝りつつ。
事の次第を説明。
「じゃあ、スズメバチを駆除してくれたのか?」
「はい」
「ありがとう!」
はじめ、怒ってた山川さんだったが。
スズメバチの巣がきれいさっぱり 無くなってるのを見ると、態度をコロッと変えてニコニコ顔。
俺の手をギュッと掴んで、感謝の意を表す。
「でも、なぜに危険を冒してまで駆除を?」
「それは同じ町内の仲間なんだから助け合わないと……的な」
「素晴らしい考えで!」
さっさと済ませて帰る予定だったから受け答えがたどたどしくて不自然。
我ながら不確定要素に弱いな俺。
しかし、山川さんは俺のぎこちない表情に気づくでもなく。
おべんちゃら。
「……」
感謝されるのは悪い気はしないが。
あからさまな手のひら返しは頂けん。
得体の知れない相手を疑うも、自分に利があると媚び諂い。
大人って打算的で嫌だなぁ。
とはいえ、人間ってのはちょっとしたきっかけでコロッと変わってしまう“ちゃらんぽらんな性質”の生き物。
そいやって考えると、人間とは――本当に愚かな存在なのだ。
だから常に正義をふまえ。正直に謙虚にふるまわねばならんのだ。
――これがキイロスズメバチの巣を入手するまでの一部始終である。
◆
「ヒエエエッ! なんだこれは!?」
「寄るな! あっちいけ!」
俺、御剣響夜が地面に投げつけたキイロスズメバチの巣は砕け。
ブーン、ブーンと羽音を立てながらキイロスズメバチの大群が出てきて、あっちゃこっちに散らばり総攻撃。
これには王国軍も魔王軍も大騒ぎ。
どうやらこの世界の住人はスズメバチを知らないらしく。混乱して、慌てふためく。
それこそ読んで字のごとく“蜂の巣をつついた”ように。
「ギャアーッ!」
「アモス隊長が突然倒れたぞ!」
王国軍の隊長格と思われる男がキイロスズメバチに刺されてぶっ倒れる。
下級兵五名が駆け寄り、様子を見る。
「死んでるぞこれ……」
「どうなってんだこれ!?」
毒耐性が弱かったのか。アモスとかいう男はコロッと押っ死ぬ。
これを見た王国軍は大パニック。
ほとんどの者が冷静さを失う。
一目散に逃げだす者。
両手で必死に追い払おうとする者。
大声で泣きわめく者。
もはやまともに戦える状態ではなかった。
「やはり俺の予想は正しかったか……」
死因はアナフィラキシーによるショック死に他ならない。
この世界の住人も俺の世界の住人同様にアナフィラキシーショックを起こすことがわかる。
生まれた場所は違えど体の基本構造は同じ。
たぶん、生物の分類上では同じか、近縁の間柄。
だから身体機能という面では大差ない。
それこそ、西洋人と東洋人ぐらいの違いでしかないだろう。
「クソッ! なんでキョウヤ一味は襲われないんだ!?」
「全身に殺虫剤と防虫剤をたっぷりと塗りたくったからな。今の俺に近寄れる昆虫は存在しない!!」
「グッ!!」
俺と仲間達がキイロスズメバチに襲われないのに気づく者が一人。
なのでネタばらし。
また、殺虫剤も防虫剤も錬金術スキルで効果を三倍にまで高めた特別な代物。
今までの失敗を踏まえ、事前に用意したので抜かりはない。
「――もう堪らん! おめえら、ずらかるぞ!」
「「「「はい、魔王う~☆ゲロゲロゴージャス様!」」」」
キイロスズメバチの猛攻に音を上げて魔王軍撤退を開始。
その際にう~☆ゲロゲロゴージャスは真っ先に逃げ出す。
身の安全を優先してプライドもへったくれもない行動を選ぶとか、臆病な小者かて。
だが『身の安全より己のプライドを優先して敗北する』的なフラグの回避に成功。
それこそ『自分が生き延びること』に要点を置いた場合、最も正しい選択だ。
歯痒さや苛立ちを抱こうが、見苦しかろうが、賢明な立ち回りだったと言っていい。
「でも、何人か残れ! おれっピが逃げ切るまで足止めせい」
「「「「そんな!」」」」
逃亡する際に下っ端十数人が強引に残される。
遠回しに犠牲になれって言われて顔面蒼白。
ちょっとお気の毒。
「「「「来るなら来い! 我々が相手してやる!」」」」
それでも彼らは足ガタガタさせながら牽制しとる。
見上げた忠誠心だが。
虚勢を張ってるのが丸わかりだ。
しっかし、上に立つ者が部下を見捨てて我先に逃げるとか。う~☆ゲロゲロゴージャスとんだブラック上司だな。
あいつの下にだけはつきたくないぜ。
一方でサーキちゃんや幹部連中は優先して避難させてる。
きっと実力者優遇主義だろうな。
……どれ、煽ってみるか。
「バイバイ、臆病者」
「これで勝ったと思うなよ! 必ず仕返しをしてやるから覚えてろ!」
逃げ出すう~☆ゲロゲロゴージャスを挑発してやると。
顔真っ赤にして捨て台詞吐きやがった。
それでも逃げの一手を覆す事はしない。
誇りを失った愚か者め。
「逃がすものですか! 親兵衛くん、追撃よ」
「逃げる者は追わんでいい! 残った者を相手するんだ」
「こらまた失礼しました~」
西川が召喚獣のバイコーンを出して跨ると。
魔王軍を深追いしようとする。
無論、今すべき行動ではないのでやめさせる。
西川は直々に指示しないと何するか知れたものではない。
押すべきところと引くべきところがまるでなっとらんやっちゃでホンマ。
とはいえ魔王軍を退けるのに成功。
これで目の前の敵は太子率いる王国軍だけ。
少しだけ状況が良くなってるぜ。




