第54話 踊る阿呆に踊らす阿呆
お披露目会より二日後。
昼。
王城付近の草原にて魔王軍と王国軍がドンドンパチパチやってる。
俺、御剣 響夜は、草原から役四キロ離れた丘からスキル千里眼を発動させ、戦いの様子を眺めていた。
後ろには七人の仲間が突っ立ってる。
「どっちもド派手にやってるねぇ」
戦場は徐々に激化してゆく。
双方の戦いっぷりは戦国時代の合戦宛ら。
敵ながら勇ましいものを感じた。
なお、他人事みたいに言ってるが。
戦いになるように仕向けたのは、誰であろうこの俺なのだ。
事の経緯を語ると――
――まず、城下町にて騒ぎを起こす。
その際に魔王軍幹部だと猛アピールしとく。
いちおう“元”魔王軍幹部だったから嘘ではない。
――魔王軍には太子名義の脅迫状を送る。
内容はう~☆ゲロゲロゴージャスを名指しでボロクソに侮辱するもの。
短気なう~☆ゲロゲロゴージャスなら挑発に乗ると踏んだからだ。
『太子ぶっ殺す!!』
案の定う~☆ゲロゲロゴージャスは荒れ狂う猛牛のごとく暴れ回ってる。
魔王軍が大軍勢で攻めてくれば王国軍も応戦せざるを得ない。
で、全面戦争。
現在激しい戦闘を繰り広げている。
「……凄まじい迫力。ありゃあ本気で殺すやつだ……」
表面では平静を装うも。
内心震えてた。
流石だよう~☆ゲロゲロゴージャス。この俺が恐怖を感じたんだから。
……でもまあ、作戦は順調。
それぞれ相手がやったのだと思い込んで全力でぶつかり合ってる。
不毛な争いをマジになって戦う姿は滑稽だな。
差し詰め、今の奴らは『踊る阿呆』ってところ。
ということは、ヤツらをそうさせた俺は『踊らす阿呆』ってわけか。
「なんか自分がバカな悪者みたいに思えてきた……」
やったことを虚しいと思いつつも。
双方の戦い見つめるのであった。
『はあぁぁーーーッ!』
『殺してやるっちゅーに!』
魔王軍で最前線で戦うのは、う~☆ゲロゲロゴージャスとサーキちゃん。
先頭に立って、パワーファイトでバッタバッタと敵をなぎ倒していく。
間違った戦法とは言わんが。
総大将が先陣を切って、ガンガン突っ込んでいくのはいかがなものか。
疑問である。
『この! 散れですぞ!』
『槍子、熱くなるな!』
『わかってますぞ!』
一方、王国軍で最前線で戦うは、パツキンのチャンネー槍使いとやさぐれ系美女盾使い。
攻撃に優れた槍使いが攻め。防御に適した盾使いが守る。
「弓使いのヤツ、ドカドカ撃ってやがるぜ」
後方からは弓使いを中心に後方支援タイプの援護砲撃。
敵ながらあっぱれな戦法だ。
数で劣る分、コンビネーションでカバーしている。
俺はよく知らなかったのだが、弓使いの弓はオリジナルスキルで魔力が続く限り無限に矢が取り出せる矢筒付きで、引き絞るだけで矢が出てくるそうだ。
便利だよな。
「……見覚えのある顔があるな」
また、王国軍には冒険者の姿もチラホラ。
たぶん雇われたのだろう。
しかし、いつ抜け出すかわからないならず者の冒険者を頼るとか、正気とは思えない。
まあ、そうせざるを得なくなったのも、以前に俺が起こした騒動で兵力の大部分を失ったからだろう。
きっと苦しい戦力の中から大隊を派遣したのだろう。
ちょっとだけ同情するぜ。
『数が多いですぞ!』
『槍子、弱音を吐くな!』
完璧な攻撃プランの王国軍ではあったが。数に勝る魔王軍に押され気味。
数の差は大きい。
もっとも、質の悪い大軍が少数精鋭の無双で破られることはある。
質で勝る王国軍にも勝機はある。
どちらが勝つかは最後までわからない。
手に汗握る戦いだぜ。
「――西川、おらにもそれ貸してくれ」
「今はアタシが使ってるからやーよ」
「そう言わずに貸してくで」
「もうちょっと待ちなさいよ」
後ろには仲間達七人がいるのだが。
とうせん坊と西川が遠眼鏡を奪い合ってる。
スキルがないヤツは道具に頼るしかないが。
その道具が一つしかないので、奪い合いになるのも当然か。
「ねえねえ。フォルティスちゃんって、なんでそんなに太ってるの?」
「えッ!?」
「ングッ!?」
よしふみくんがフォルティスにトンデモ発言。
これも子供特有といえる残酷さか。
思ったことをすぐ口にするちびっ子かて!
フォルティスの顔が引きつる。
俺も反応して生唾ゴックン。
「ちょっとよしふみくん、なんて失礼なこと言ってるの」
「だって太ってるんだもん」
「ちょっとこっちに来なさい」
これはいかん。
フォルティスを太らせてしまった責任上、他人事と見過ごすわけにはいかない。
よしふみくんの手を引き、フォルティスから引き離す。
「なんであんなこと言ったの」
「だって、学校で嘘ついたらダメって教わったから」
「でもね、本当のことでも言ったらいけない時もあるの」
「だって、デブだもん」
注意するも『蛙の面に水』状態。
とはいえ、小三のよしふみくんに乙女心を理解しろってのも無理な話。
自分も小三の頃はデリカシーの無い男子だった負い目からか、ガミガミ言えない。
どうにも非情になりきれないんだよなぁ……。
「ぐすん……」
「ダーーッ、もう! しょ気るな」
フォルティスに視線を向けると、落ち込んでいる。
ギャーギャー騒ぐとうせん坊と西川といい、どいつもこいつも自由人共め!
これから憎き敵、太子、う~☆ゲロゲロゴージャスを倒すってシーンで、なんと緊張感のないのだろう。
とはいえ、やっぱり女の子は繊細だ。
丁寧に育てていこうと心に誓う。
「ご主人様、お腹が減りました」
「しょ気てても腹は減るのな」
「はい」
「……正直でよろしい。《収納魔法》出し!」
潤んだ瞳で訴えられては断れず。
呆れつつも、収納魔法で収納してた保存食を惜しげもなく出す。
「いただきます♪」
出した食べ物は殆ど缶詰だったが。フォルティスは喜んで食べた。
「お前ら、これを着とけ」
「「「はい」」」
「「わかりました」」
「わかったぜ」
保存食を出すついでに、いつでも戦えるように足軽の装備を人数分出す。
食べるのに夢中になってるフォルティス以外のメンバーは素直に従う。
「どうだ、似合ってるだろ」
「あぁ、確かにな」
キングは足軽鎧を素早く装備すると、自慢気に胸を張る。
正直、メンバーの中で一番似合ってるかもしれない。
ただ、足軽は最下層の兵種だから、それが似合うってのは下級兵だと喜んでるに他ならない。
自慢気なのも、足軽の何たるかを理解してないからこそ。
足軽の何たるかを理解してる俺から見れば、キングの姿は滑稽である。
まあ、本人は気づいていないみたいだから、武士の情けで黙っとこ。
「これ、どうやって着るの」
「さあ」
一方、ゾウレンジャーと福富は鎧を着るのに難儀。
中世ヨーロッパ風の世界に足軽なんて存在しないから、こうなるのも当然か。
「福富くん、わかんないならアタシが手伝ってあげるわ」
「お願いします、マスター」
「ゾウレンジャーはぼくがやってあげよう」
「ありがとうございます、お兄ちゃん」
見かねたよしふみくんと西川が着るのを手伝う。
配下の面倒をキチンと見るとか、理想の上司みたいに見える。
しかし、仲睦まじいのはいいが。
緊張感のある場面ですると、どうにもほのぼのとして締まらんな……。
「――しかしながら太子の姿が見えないな……」
全メンバーが足軽装備を身にまとうと。
四方八方に目をやるも。太子の姿はない。
あの女の性格上――プライドの高さから最前線には出てこない、ってとこか。
このままでは徹底的に消耗させ弱ったところで両軍のトップを倒すって計画に支障が出てしまう。
あいつも消耗してくれないと困るぜ。
「どうか太子が早く出てきますように!」
手を合わせ、神に祈りを捧げる。
要するに困った時の神頼みね。
「響夜様、太子さんが現れました」
「ホントか!?」
「はい、二時の方角です」
「おぉ! あの面は間違いなく太子だ」
乙女の祈り(?)が通じたのか。
ついに太子が戦場に参戦。
ヤツは刀を握ると。
その圧倒的な戦闘力で魔王軍の雑兵をバッタバッタと斬り殺していく。
相変わらず凄い強さ。
国のトップになって、だらけて弱体化。早い話が身体がなまった状態になってると考えるも。
寧ろパワーアップしてる。
所詮予想は予想ってか。本当に予想外な女だよ。
「これはまずいかも……」
あんだけ強いとう~☆ゲロゲロゴージャスでも対抗できるか心配になってきた。
『てめぇが総大将か?』
『そうよ』
『ならぶっ潰す!』
まあ、そのう~☆ゲロゲロゴージャスは潰す気十分に向かってく。
要らぬ心配かな?
『ごはッ!?』
悪い予感的中。
う~☆ゲロゲロゴージャス勇ましく向かって行ったまでは良かったが。押されてる。
力任せの単純な攻撃は悉くかわされ、一方的に弄ばれてる感じ。
俺の予測が間違っていた。太子のポテンシャルは俺の予想を遥かに超えていたとは。
もしも俺があそこに突っ込んで行ったなら、確実に死ぬ。
「ゾゾ……ッ!」
想像したら全身が震えた。
う~☆ゲロゲロゴージャスに感じたの恐怖とは比べ物にならない。
「マジで規格外な女だよ……」
冗談抜きに『最強の遺伝子を持つ者であれば、全てを覆すこともできるかも』って、思えるぐらいに。
あまりの恐怖に、遠くから戦いを見つめるしかなかった。
バトル漫画の主人公なら、悩み傷つきながらも、己の信念を貫くために命の限り戦い抜き。その結果の勝利を経ている。
自分も悩み苦しみながら戦い、成長し、傷つきながらも戦い抜くのか?
……それができない俺って、成長しない主人公なの?
「うん! 故郷に帰って慎ましくも平和に暮らそう。復讐なんてやめて、異世界の危機も丸投げしよ」
ブツブツ言いながらも。
ある種の悟りが開かれた。
復讐から背を向けると決心した瞬間――
『ミツルギキョウヤを発見!』
「やべッ!」
弓使いに見つかってしまい、狙撃される。
あいつもアーチャーだから、スキル・千里眼を使えるの忘れてた。
「どう足掻いても俺は戦いから逃れられない運命なのか!?」
ヤケクソ気味に応戦。
そのまま否応なしに戦いに巻き込まれてしまうのであった……。




