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不当なる者世界に仇なす  作者: 黄金の右脚
分岐点
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第49話 禁忌――神様に背いた響夜


 加藤家の玄関先。

 おやつ時(どき)。


「書き書き、書き書き」


 俺、御剣(みつるぎ) 響夜(きょうや)は一心不乱(いっしんふらん)にチョークを使って地面に錬成陣を書いていた。

 錬成陣――それは錬金術スキルを発動するのに必要なサークル。

 こいつにエネルギーを流すことによって術が発動する。


 錬金術は非常に汎用性が高いスキル。

 鍛冶、調合はもちろん。

 素材から成分の抽出、分離、攪拌、金属の加工、動物の成長促進などなど。

 いくつか制限があるものの。使い手の工夫次第で多種多彩な使い方ができる。

 錬金術スキルが使える“錬金術師”は冒険者の中でも特になり手の少ない「レア職」でどんなタイプのパーティでも引く手数多だという。


 先に述べたように錬金術スキルは非常にべんりなのだが。錬金術師のなり手は少ない。

 っというのも錬金術スキルの適合率が極めて低く。素質の高い低いにかかわらず適合者は千人に一人程度。

 錬金術師になりたい者はごまんといるが。その中から錬金術師になれるごく僅か。

 狭き門なのだ。

 それ故に錬金術師は不足しているのだ。


 その錬金術スキルを習得できた辺り、俺は選ばれしエリートだな。


「《収納魔法》出し」


 錬成陣を書き終わると。一本の黒い髪の毛を出す。

 この髪の毛、凄腕のウィザードとして名を馳せる爆裂魔法の使い手うっきゅっぽゎのもの。

 彼女をおんぶする際に掠め取った。

 その髪の毛から“人体錬成”によって、うっきゅっぽゎの複製……つまりクローンを作る。

 

 掠め取った時は何となく抜き取っただけで、使い道など考えてなかったが。

 今はこうして有効な活用法を発見。

 そうやって考えると、俺って感が鋭いな。


「とりあえず材料はこんなものか」


 髪の毛をベースに人体を生成するのに必要な適当材料を見繕い、準備完了。

 後はエネルギーを注ぎ込むだけだ。

 

 う~☆ゲロゲロゴージャスの秘密基地・北アルプスの野次(やじ)ヶ岳(がたけ)で読んだ錬金術書によると。人体錬成の成功例は無いとされる。

 だが、そのジンクスも今日で終わりだ。なぜなら、この御剣響夜様の手によって覆(くつがえ)るのだから。


「《錬成》ッ!」


 錬成陣に右手を添えてエネルギーを注ぎ込むと。錬成陣が光り輝く。

 錬金術が発動した証拠だ。 


「うん、上手くいってる」


 実験でサツマイモ、砂糖、寒天を使用して芋ようかんを錬成した時と同じだ。

 この芋ようかんをおやつに食べてる時に人体錬成を思い出して実行したが。

 これで凄腕のアークウィザードの複製品が仲間になる。

 そう思った次の瞬間――


「んっ?」


 錬成の様子がおかしい。芋ようかんを錬成した時と明らかに違う。


 錬成陣を中心に俺の周囲4メートルの空間が歪んでいく。


「暴走した!?」


 錬成が失敗したと理解するも。

 術が制御不能に陥るとどうしていいかわからない。

 頭の中がアッパラパーになり。慌てふためく。


「……っぎゃあああああああああぁああ!」


 歪んだ空間が俺の右腕と両足を持って行く。

 ッと同時に錬成陣は急激に力を失ってゆく。


「奪われちまったああああああああああああ」


 腕と足を引き千切られた痛みに耐えられずその場でもがき苦しむ。

 傷口から緑色の血がボタボタと流れ落ちる。


 ヤバい。

 自分の回復魔法でどうにかできる傷ではない。

 このままでは出血多量で命を落とすかもしれん。


「西川(にしかわ)……応答せよ……」

 

 意識がぶっ飛びそうな中、スキル・念話で加藤家所有の山でとうせん坊とよしふみくんと一緒に害獣駆除してる西川に救助信号を送る。


『はい、こちら西川(にしかわ) 徳川家光(とくがわけひかり)カブレノ豊臣側(とよとみがわ)です。ご用件どうぞ』

「緊急事態だ……腕と足を失った。大至急加藤家に来てく……れ……」

『あれま! それは大変。大急ぎでそちらに向かいますわ』 


 危機的状況なのは伝えたが。山から加藤家まで3キロぐらいある。

 西川の到着まで俺の体が持つかが問題。

 

 早く助けて、それだけをずっと祈っていた。

 

「あらー、これは酷いわ」

「西川……俺に回復魔法を……」


 バイコーン親兵衛(しんべえ)に跨る西川が近づいてきた。

 幻覚かもしれないが。西川が天使の姿に見えた気がした。


 それにしても凄いスピードだ。

 念話してからあっという間にやって来たぞ。


 だが、今は親兵衛の脚力に感心してる場合ではない。

 一刻も早く回復魔法を掛けてもらわねば。


「はい、わかりましたわ。《ヒール》ッ!」


 西川は親兵衛から降りると回復魔法を発動。

 瞬く間に失われた俺の右腕と両足は元通りに復元される。


「うーむ……」


 立ち上がって自分の右腕と両足をまじまじと見てみるが。いずれも完全な状態。

 西川に回復魔法掛けてもらうのは二回目だが。やっぱりすごい。

 俺の回復魔法を遥かに凌駕する性能。

 いつの間にこんなに差が開いてしまったのだろう?


「それで響夜様、今度はなにやったの?」

「これこれしかじかでな――」


 事のいきさつを掻い摘んで説明すると。西川は何となく理解してくれる。


「その“じんたいれんせい”とやらで出来上がったのが、この見るも無残な残骸(ざんがい)ですか? これが人間なんですか?」

「うぐッ!」

 

 錬成されたものに目をやると。ソレは人の形をしてなかった。

 はじめからバラバラの状態では回復魔法を使用しても効果がない。

 

 やっぱり『人体錬成の成功例は無い』ってのは覆らないのだろうか……。


「俺の実力では無理だというのか……!」

 

 このお粗末な結果にムカついてると――


「響夜様、『命は生まれ出ずるものであり、造り出す物ではございません』。あなたは、人が人を造るという神を神とも思わない禁忌を犯しました。だから外道です」

「うぬッ!!」


 俺の胸に強烈な衝撃が走った。

 西川の主張は正しいもの。

 彼に冷たい目で見られながらそう言われると。自分が過ちを犯してしまったのを悟る。


 っと同時に全身の力が抜け、その場にへたり込む。


「俺はとんでもない間違いをしてしまった……」


 次々と自らの前に立ちはだかる強敵に『対抗せねば!』っという強迫観念に駆られていたとはいえ。俺がやったのは紛れもなく命をもてあそぶ行為だ。

 自分が産まれてから死ぬまでの間に取り返しもつかない馬鹿げたことをしてしまったと後悔した。


「うっ……うぅ……」


 瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

 涙をぬぐいながら懺悔(ざんげ)し。自分の無邪気さを呪った。


 しかし、叱ってくれたお陰で救われた気がした。


「で、この人どうしますか?」

「火葬しよう……」

「それがいいでしょう。供養してあげればきっとこの人も浮かばれるわ」


 諭させて、すべき行動を導き出す。

 しかし、普段はどうしようもないぐらい情けない西川だが。今回ばかりは偉大に見えた。

 こういう時は年長者らしい貫禄がある。

 きっと人生経験の差なんだろうな。


「このまま供養するのは可哀想ね。響夜様、ちょっと待ってください」


 炎の魔法で火葬しようとした矢先。

 西川がそれに待ったを掛けると。


 懐からコッペパンを取り出す。


「《錬成》ッ!」

「えッ!?」


 なんと、西川が錬金術スキルを使用。

 アイツは錬金術スキルなど習得してない筈だ。

 なのにどうどうして?


「なんてこったい?! コッペパンを代価に再構築して人体錬成を成功させやがった!」


 俺は目の前の現実に脱帽。

 あのような僅かな代価で人体錬成に失敗した人間を再構築できるとは、にわかには信じ難い。


 キリスト教の教義においては、パンとはイエス・キリストの肉体の象徴であり、信者にとっては極めて重要なものとして扱われているのだが。

 神の肉と同一視されるパンを代価としたからできたのだろうか?


 うーむ、謎である。


「よく見ると所々違うな……」


 再錬成されたソレは、顔の輪郭(りんかく)や毛色と瞳の色はオリジナルであるうっきゅっぽゎと同じだった。

 けれども、身長がオリジナルよりも小さく。髪もロングヘヤーになっている。

 そして最大の違いは肌の色が褐色に変化してた所だ。


 どうしてこのような色に変色してしまったのやら。

 こんがり小麦色に焼けたパンを代価に使用したのが原因か?


「では火葬しましょうか」

「ちょっと待て! せっかく直したもんを燃やすのか?」

「そうなりますね」

「やめれ!」

「何するんですか!?」


 西川は火打石(ひうちいし)を出して、再錬成されたソレに着火しようとする。


 使いものにならない状態なら躊躇わず破棄できただろう。

 だが、十二分に使いものになるものを処分するなど俺にはできなかった。


 だから火打石を奪い取る。


「俺の蘇生スキルはどうなる?」

「あれは治してるからいいの。造るのと治すのは違いますからね」

「それなら回復魔法と変わらんだろ」

「全然違います! ともかく神様以外の者が命を創っては駄目なのです」

「西川の基準はよくわからん……」

 

 思い返してみれば、蘇生スキルを使用した時に西川は俺を咎めるような真似はしなかった。

 ヤツには蘇生スキルは“死者を弄ぶ行為”ではなく“救える命を助けてる”と解釈してるらしい。

 どうやら“お医者さんがケガ人を治す”みたいな感覚なのだろう。


 とはいえ、双方譲らず。

 言葉が通じるのに話が通じない。


 結果として、話し合いは揉めた。


 ◆


「――では、この案でどうだ」

「そこら辺が妥協点ね」


 俺、御剣響夜。

 西川と二時間半の口論の末に決着。

 錬成されたソレは、契約の魔石に封印する、っという妥協案となる。


 なんとかソレを焼却されずに済む。

 と同時に二度と人体錬成しないと互いに誓い、がっちり手を握るのであった。


「これは……!」


 安心したのも束の間。

 ソレの身体を調べてみると、とんでもない欠陥が発覚。

 なんと心が無かったのだ。


 やはり人体錬成は不可能な領域だったようだ……。


「……まあ、愛でるぐらいはできるから良しとしよう」


 そう自分に言い聞かせるのであった……。




錬金術スキルの適正について


・適正が極めて低く習得するのが最も困難なスキルの1つ。

・49話現在、作中で習得してるのは御剣響夜、徳川家光カブレノ豊臣側、う~☆ゲロゲロゴージャス。

・素質によってできることに大きな差がある。

・3人の素質は5段階評価で御剣響夜が1、徳川家光カブレノ豊臣側が5、う~☆ゲロゲロゴージャスが1。つまり響夜とう~☆ゲロゲロゴージャスは必要最低限のことしかできない。逆に高い素質を持つ西川はあらゆる錬金術スキルを使用できるのに加え、錬成陣無しでも錬成できる。

・西川の素質は異常で、超天才児。錬金術対決で西川に挑んだ場合、勝てる者は存在しないと思われる。



うっきゅっぽゎのクローンについて


・本来のクローンであればオリジナルと同じ容姿・素質になるが。これは錬成した西川が練習無しの初錬成だったので、熟練度が足りなかったために所々異なるものが出来上がったといえる。したがって、熟練度がちょっとでも上がればオリジナルと寸分たがわぬクローンを造り出せるだろう。

・現在のクローンのレベルは1。身長140センチ。体重31キロとなっている。

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