第35話 今できること
夕飯時。
加藤家の食卓。
俺、御剣 響夜。
現在、俺、西川、レン、よしふみくん、義史ちゃんはよしふみくんが出前でとってくれた特上寿司を味わっている。
その際に魔法などのスキル習得方法聞かれたから調べてみると。
レベル1ながら2人の初期スキルポイントは義史ちゃんが12。よしふみくんなど15も持ってたりする。
自分の初期スキルポイントが2000もあったから低く感じるが。2人共優秀な部類に入る。
才能あふれた実力派ってか。将来化けるかも。
とりあえず初級魔法 (習得に必要なスキルポイント1) と中級魔法 (習得に必要なスキルポイント10) を教えてやった。
「おいしいですわ! この世にこんなおいしいものがあるなんて驚きよ~!」
「西川、誰も取らんから、もうちょっと落ち着いて食え」
「ごめんなさい響夜様。だけどアタシこんな贅沢な食事したの生まれてはじめてなの」
「シケたヤツ。貧乏したのね」
涙を流しながら寿司を貪り食う西川。
事実特上寿司は美味い。
貧乏にも同情する。
だが、涙を流すのは大げさだと思った。
「フン……」
一方、西川とは対照的にレンは、すました顔で通ぶった食べ方で食べてやがる。
食通気取りかて。
どうにもレンは、いつもクールを気取っている節があるな。
クールを気取ったカッコ付けが!
なんでこんなヤツ助けちゃったんだろう……。
「それで響夜兄さん。これからどうする気?」
「そうさなあ……」
食事の最中に義史ちゃんから質問される。
真っ先に思いついたのは実家に帰るって選択だが。
性別が女に変化し、容姿も変わり果てて面影すらない。
こんな姿で親に会ったところで『誰?』って言われるのが関の山。
それに俺自身この姿で親に会いたくない心境だったので、別の解決の道を模索する。
「響夜にいちゃん、行く当てがないなら家で暮らせばいいよ」
考えていると。よしふみくんから提案が。
悪くない案だ。
しかし、俺は加ちゃんの伯母ちゃんに若干苦手意識があるんだよな。
「おかあちゃんは出張でしばらく帰ってこないんや」
「彼女を家に泊める決まり文句ですか?」
とか言ったものの。俺は満更でもなかった。
不安要素がなくなったからだ。
少なくとも数日はだいじょうぶそう。
「では、数日程厄介になろうかな」
「ヤッター♪ 響夜にいちゃん、今夜は一緒に寝よ」
「ちょっ! なに言ってんだおめえ!?」
「へ? よく一緒のベッドで寝てなかった」
「あ、すんません。今のは忘れてくれ」
やらしい意味での寝ると勘違いしてしまった。
よしふみくんにこういう話題はまだ早かったな。
「?」
事実、よしふみくんは俺の言った内容を理解してない様子。
それは純粋で汚れなき少年の心。かつて俺も持っていた心。
だが、成長とともに麻痺してくるもの。
時の流れは残酷なもの。自分の純粋な心を忘れさせる。
それだけ俺が毒されてるんだな……。
「それでは、皆さんの部屋を案内します」
「ああ」
「わかりましたわ義史様」
義史ちゃんに案内され、付いて行く西川とレン。
「響夜にいちゃんはこっちね」
「わかった」
一方俺はよしふみくんの部屋に連れて行かれる。
けっきょく俺はよしふみくんと同じベッドで寝ることに。
もちろんやらしい意味ではない。
◆
翌日、日曜日の朝。
俺、御剣響夜は他の4人を加藤家に残して1人で山登りしている。
なお、皆に行先は伝えてない。
ここは加藤家所有の山。
山といっても標高約350メートルの東京タワーよりちょっと高い程度の山である。
まあ、それでも山を所有してるのは凄いが。
「クンクン、クンクン」
俺はスキル・ビーストモードを発動し、ブチハイエナへ姿を変える。
そして皆の先に立ち、犬が臭いを嗅ぐかのように探索している。
スキル・ビーストモードは動物系の亜人・獣人のみが習得可能なスキルで。その種 (俺の場合はブチハイエナ) に変身し、その能力を使用できるスキルである。
なお、このスキルも大魔女う~☆ゲロゲロゴージャスが残した魔導書から習得したもの。
「クンクン、クンクン」
ブチハイエナは嗅覚、聴覚、視覚が非常に発達しているため、たとえ夜であっても遠く離れた場所にいる獲物の存在を知ることができる。
であるからして。その能力・嗅覚を駆使し、アライグマを探してる。
目的は農家に多大なる被害を与えるアライグマの駆除。
農作物被害を食い止める。
何をしたいかと言うと――レベル上げ兼、外来種駆除しようってわけ。
しかしながら、これでいいのか自信はない。
異世界では他の存在を殺す・食べるなどすることでその者の魂の記憶の一部を吸収し、経験値として体内に貯め込む性質を持ってが。
この世界でレベル上げできるかは定かでない。
それでもやらねばならぬ。
ただでさえ強い太子が上級魔法を覚えて滅法強くなってのに加え、コウマも敵になってる。
現在、異世界に行く手段はないが。このまま異世界に戻ったところで太子に秒殺されるのが関の山。
自分もパワーアップしなければ大きく水をあけられてしまう。
たとえ無意味かもしれないと思ってても――今できることをするしかないのだ。
サーキちゃんと美青年達を救うために。
「みーつけた」
そうこうしてる間に、茂みにてアライグマの群れを発見。
数8匹。
呑気に餌を食べてた。
「《ノーマルモード》ッ!」
途中までビーストモードで突っ込む。
ブチハイエナは、時速65キロを超える俊足。単純なスピードでは人間のそれより勝るからだ。
「《ファイアーボール》五連打!」
「「「「----ッ!」」」」
一気にアライグマの群れに近づくと。途中で元の亜人の姿に戻って1度に発射可能なファイアーボールを放つ。
ファイアーボールは4匹のアライグマに命中。
命中して間もなく絶命した。
「「「「----ッ!」」」」
仲間を殺された恨みからか、残りの4匹が襲い掛かってくる。
「《フラッシュ》ッ!」
「「「「!?」」」」
強い光を発して目くらまし。
アライグマの視力を奪う。
「《ファイアーボール》四連打!」
身動きが取れなくなったアライグマにファイアーボールでトドメを刺す。
8匹アライグマを倒すと微々たる経験値を得る。
どうやらこの世界でもレベル上げはできるらしい。
まあ、程度が低いからレベル上げに苦労しそうだが……。
「……俺って強いんだよな?」
8匹アライグマをあっという間に倒したことからも俺が並み以上の強さなのは動かしがたい事実。
なのに太子に勝てないとはこれいかに。
「ゴフッ」
「うおっ! 熊!?」
物思いにふけってると。いつの間にか背後にツキノワグマが。
気づいた時には目と鼻の先。
なんでこんなヤツがこんな所に!?
こりゃあマズい。襲われる。
「ウウウウッ」
「こんのぉぉぉぉ!」
案の定ツキノワグマは俺に襲い掛かってくる。
噛みつこうとするツキノワグマに、俺は咄嗟に鬼の左手でアイアンクロー。
なんとか持ちこたえるが。これではジリ貧だ。
「どうしよう……」
そう思ったその時である――
「コノヤロー! 響夜にーちゃんになにするか!」
よしふみくんが木の棒片手に向かってくる。
そしてツキノワグマの背中を殴るが。
「あっ! 折れた!?」
まともなダメージがないばかりか、木の棒が折れてしまう。
当たり前だ。あんな物で猛獣をどうにかできるわけがない。
とはいえ。今ので隙が生まれた。
「しょうがないやつだな。忍法《バッタ跳び》!」
一瞬の隙をつき、俺は右腕でよしふみくんを抱える。
そして忍法バッタ跳びで近くにあった木の太い枝に飛び乗る。
「よしふみくん、なんであんなバカな真似をしたんだ!? そもそもなんでこんな所に?」
「どこに行くのか気になって、こっそり尾行しました。ついでに西川のおじちゃんも連れてきました」
「なにっ!?」
「ギャアアアアー! 響夜様助けてええええええええ!」
叫び声のする方にめをやると。西川がツキノワグマに追い掛け回されてる。
結構ちょこまかと動き回って翻弄してるけど。追いつかれるのは時間の問題だろう。
「よしふみくん、ファイアーボールを発動して西川を助けるぞ」
「ぼくにできるかな?」
「やるんだよ!」
「は、はいっ!」
ためらうよしふみくんを一喝。
奮い立たせる。
「確実に仕留めるために頭を狙う。息合わせて同時に発動するぞ」
「はい、響夜にいちゃん!」
作戦を理解し、頷くよしふみくん。
打ち合わせを済ますと。狙いを定めた2人の攻撃魔法が日本最強クラスの猛獣に放たれる。
「「《ファイアーボール》!」」
「ッ!」
――全く同じタイミングで放たれた魔法はツキノワグマの顔面に直撃。
頭を跡形もなく粉砕した。
◆
「助かりましたわ。よしふみ様、響夜様ありがとうございます」
俺、御剣響夜。
助けた西川が俺とよしふみくんに深々と頭を下げる。
「起こして」
「しょうがないやつ。よしふみくん、手伝ってくれ」
「はい、響夜にーちゃん」
「「よいしょっと!」」
「どうもすいません」
しかし、深くお辞儀したためにバランスを崩して転ぶ。
相変わらずバランス劣悪だな。
転ぶと自力で起き上がれないため、2人掛かりで西川を起こす。
「この獣、いい毛皮と食肉になりそうだわ。響夜様、貰っちゃっていいかしら?」
「別に構わんが。西川、お前そんな技術持ってたのか?」
「はい、道具があればできますわ」
「じゃあ、加藤家まで運ぶから、そこで処理してくれ」
「わかりましたわ」
起き上がると西川はツキノワグマを見て、物欲しそうにそんなこと言う。
ゴツイ外見に反し、意外と手先が器用なのね。
だが、ここには道具がない。
収納魔法使って道具がある加藤家に運ぶとしよう。
「レベル1でこの威力……」
俺もツキノワグマの死骸を眺めるが。
けっこうな破壊力だ。
よしふみくんが放ったファイアーボールは俺のそれと遜色ない。
レベルで劣り、俺みたいにパワーアップ手段を受けてないのにあの強さ。
あれでまだ発展途上。順調に成長すれば、そのステータスは自分をも上回るだろう。
「末恐ろしいぜ……」
よしふみくんは太子に対抗できる切り札となり得る。
復讐が果たせそうだ。
そう確信し、俺はほくそ笑んだ。




