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不当なる者世界に仇なす  作者: 黄金の右脚
故郷への帰還
34/64

第34話 故郷に帰ってこれたけれど、もやもやして落ち着かん


 夕暮れ時。

 日本のとある田舎。

 

 加藤家のリビング。

 

 俺、御剣(みつるぎ) 響夜(きょうや)は故郷の世界に帰還した。

 その際に西川と剣使いレンも一緒に巻き込んでしまった。

 

 現在俺達はいとこの加藤(かとう)よしふみくんの計らいでお風呂を借りる。

 帰還した時に畑に落っこちて汚れたからだ。

 まずレンから入り (西川の入った後の風呂に入りたくないとごねたため) よしふみくんのお母さんのパジャマを着て出て来る。

 

 で、現在西川が入浴中。

 俺は順番待ちでリビングで突っ立てた。


「よしふみくん家(ち)は広すぎて何回来ても落ち着かんな……」


 加藤家は10LDKの豪邸。

 町内で1番でかい家で。立派過ぎてどうにも畏(かしこ)まっちまう。


 異世界ではもっと立派な城に何回か行ったが。

 あの時は怒りやらなんやらの別の感情が前に出てたので畏まるなんてなかった。

 そうやって考えると怒りってエネルギーだな。


「さっぱりしたわ」


 などと、ふけっていると。西川が鼻歌混じりにご機嫌で風呂から出て来る。

 麩ら上がりの彼の恰好は、いつもの忍び装束ではなくバスローブ姿。

 洋画なんかで金持ちがワイングラス片手にこの格好してる優雅なイメージがあるが。西川にそのような優雅なイメージは皆無。

 はっきり言って似合ってない。

 

「これはじめて着た服だけど着心地いいわね。気に入ったわ♪」

「それは昔おとうちゃんが使ってたバスローブなんだ」

「よしふみ様のお父様は良い品物を見る目があるわね。ご本人にもお礼を言わなくっちゃ」

「ぼくのおとうちゃんは2年前に死んじゃったんだ……」

「あらやだ! ごめんなさい。悪気はなかったの許して」


 お父さんって単語によしふみくんにちょっと悲しそうな顔になる。

 実はよしふみくんのお父さんは2年前に病死しており。お父さんがいないのを寂しく思っている。

 

 これはまずいと西川、慌てて平謝り。

 気が弱く誰に対しても頭が上がらない性格ではあるが。20歳以上も年下の相手にぺこぺこするとかどうなの?

 どうにも頼りないな。


「俺も風呂に入るか……」


 どうにも沈んだムードは嫌いだ。

 俺は逃げるように風呂場に向かった。


 ◆


「ふう~……」


 俺、御剣響夜は湯船に浸かり、ほっと一息。

 

 異世界でもお風呂には入ったが所詮はドラム缶風呂。ちゃんとした風呂には劣る。

 それに加え、加藤家のそれは設備も充実。さすが田舎の金持ちと言ったところか。

 俺の実家の狭い湯船とは大違い。

 くつろぐぜ。

 

「……そろそろ体洗うか」


 程々に体を温めると。体を洗うために湯船から上がる。


「ひどい傷……」


 流し場にある鏡に映る首の喉仏(のどぼとけ)と右の横っ腹の大きな十字傷を見て痛々しく思った。

 異世界にまともな鏡がなかったので、見る機会がなかったのだ。

 それに加え、太子(たこ)に尻尾も根元から斬られている。

 傷は塞がってるものの。自分の体ながら、信じられないぐらいボロボロだった。

 傷跡を見てると湿っぽい気分になるぜ。


「……サーキちゃん達どうしてるかな?」


 気持ちを切り替えよう。

 故郷に帰還できて正直よかったと思ってる。

 事実『故郷に帰れた』というのも『ハッピーエンド』の『定番』である。

 異世界に召喚された当初の俺なら、きっとハッピーエンドと言ってたに違いない。

 しかし、今の俺にはそうは思ってない。

 

 仲間を見捨てたみたいな負い目。

 間接的とはいえ、大型ケンタウルスオオカブトを異世界に呼び寄せてしまった罪悪感。

 そして傍若無人(ぼうじゃくぶじん)な太子をとめられなかった自分が理不尽で悔しくて、怒りさえ覚えた。


「俺はおかしくなってしまったのか……?」

 

 頭に浮かぶのは異世界に残してきた仲間と異世界の事ばかり。

 俺を性的な目でしか見てない変態達に情が移ってしまうとか、俺ってどんだけ甘ちゃんなんだよ。


 頭の中はグチャグチャで自暴自棄気味。

 もやもやして落ち着かん。


「響夜にーちゃん、背中流してあげるよ」

「おわっ!?」


 しんみりした気分になってると。突如風呂場の扉が開き、法被姿(はっぴすがた)のよしふみくんが入ってきた。

 予期しないことに俺は驚き、声が裏返ってしまう。


「さっきまでしょんぼりしてたのにどうした?」

「もう回復した」

「立ち直り早いな」


 少々呆れるも、前向きなのは良い。

 俺も見習わないとな。


「どうして入ってきた? 俺の裸みたいのか? やらしいな」 

「いや、背中流してあげるようと思ってーな」

「一丁前(いっちょうまえ)に背中流し職人気分か」

「お泊りの時に一緒にお風呂入ったら、毎回背中洗いっこしてたやん。それに響夜にーちゃん、風呂入ってからなんか寂しそうやったから」

「それでか」 


 思い返してみればそうである。

 よしふみくんなりに俺を励ましてくれようとしてるのか。

 しかし、タイミング見計らって入って来るとかサーキちゃんみたいだな。ちょっと呆れるぜ。


「ではやってもらおうか」

「はいな♪」


 とはいえ邪な感情はなく慈善行為。

 ここはその善意に縋り、背中を流してもらう。


「オ客サン、ドコカ痒イトコアリマセンカ?」

「こめかみの辺りを頼む」

 

 背中を流し終わると、いつの間にかシャンプーされてる。

 おまけにインチキ外国人が使いそうなカタコト口調しなっとる。

 何かのテレビネタか?


「コラー!! よしふみ、何やっとるか!!」

「あっ! おねえちゃん」


 床屋さんにシャンプーされるかのごとく、なされるがままに身を任せていると。

 突如、声を荒げる第三者の介入。

 洗髪中で目を閉じてたが。声でそれが誰だかわかった。

 それがよしふみくんの姉――加藤義史(かとうぎり)ちゃんなのだと。


「女の敵め! 成敗してくれるわ」

「うぎゃあああーーーー!」


 断末魔が風呂場に響き渡る。

 その後、声が遠のいていったから、引っ張り出されたであろうとなんとなく理解できた。


「……とりあえず髪洗うか」


 その場に残された俺は、シャワーでシャンプーを洗い流すのであった。


 ◆


 俺、御剣響夜がお風呂から上がり。用意してもらったパジャマに着替えてリビングに行くと。

 顔面ボコボコになり、頭にでかいたんこぶのできたよしふみくんが正坐させられてた。


「よしふみ、どうしてあんなことしたの?」

「だから響夜にーちゃんの背中流してあげようと――」

「いいから罪を認めなさいよ!」


 問い詰める義史ちゃん。

 弁解するよしふみくん。

 なんだか、いたずらした子供を叱る母親みたい。


 義史ちゃんは小6なんだが。時より妙に大人びて見えるんだよなぁ。

 なんでだろう?


「よしふみ、さっきから響夜兄さんって言ってるけど。どこをどう間違えたら、あれが響夜兄さんに見えるの」

「だってホントに響夜にいちゃんなんだもん」

「嘘ね。響夜兄さんはもっとこう、そこはかとない感じの地味な見た目だったはずよ」

「義史ちゃん……キミ、さり気なく失礼なこと言うな」


 しばらく黙って見ていたが。

 義史ちゃんが聞き捨てならないことを言うもんだから、反応してしまう。


「えっ!? こ、この声は……」


 俺の声を聞くと、義史ちゃんは錯乱状態に。

 

 そういえば義史ちゃんは絶対音感の持ち主。

 声で俺が御剣響夜だと識別したのかも。


 しかし声こそ御剣響夜のそれだが、姿が一致しない違和感に混乱してるのだろう。

 ショックで判断力を失ってる。

 無理もない。俺が義史ちゃんでも理解できないと思う。


「本当に響夜兄さんなのね。……よしふみ、疑ってごめんなさい」

「だから言ったやろ。あれは響夜にーちゃんだって」


 暫しの沈黙したが。義史ちゃんは俺が御剣響夜だと認めた。

 そして誤りを素直に認め、よしふみくんに謝る。


 一方、よしふみくんはドヤ顔で胸張ってる。

 まあ、論破したから無理もないか。


 しかし、自分より年下だったり、目下だったりするとプライドから、素直に謝れんものだが。

 それができる義史ちゃんは大物なのかもしれん。


「響夜兄さん、経緯は詳しく教えてね」

「わかった、説明しよう」


 説明するながれになったものの。俺、説明下手だから長くなりそうだ……。

 

 ◆


「そんなことが……」

「そういう訳。わかってもらえた」

「はい。なんとなく」

 

 食卓に5人全員でつき。俺、御剣響夜は今までの経緯を事細かく説明した。

 最初は魔法なんて科学的に証明できないものなど信じないと、否定的だった義史ちゃんだが。

 初級魔法を披露したら、割とすんなり認めた。

 

「説明終わり。あー、腹減ったー」


 しかしながら、説明下手もあり時間がかかってしまった。

 時刻は夕飯時。腹の虫も鳴いている。


「出前で寿司も取ろう」

「ちょっと待て! 俺そんな金持ってないぞ」

「お代はぼくが全部払うからあんしんして」

「年下に奢ってもらうのはちょっとなぁ」

「デートで男が彼女に奢るのは当たり前」

「デートじゃないし、彼女になった覚えもないぞ」


 よしふみくんグイグイいって譲らない。

 おまけに俺を彼女扱い。

 脳内お花畑かて!


「おこずかい1日1万円貰ってるからだいじょうぶだよ」

「マジで!? 加ちゃんの伯母ちゃんは俺に一度もこずかいくれたためしがないのに。身内にはこんなに甘いのかよ……」

 

 衝撃発言。

 よしふみくんの親は会社社長で家庭が裕福なのは知ってたが。小学生でありながら1日の小遣いが1万円とか多過ぎだろ。

 アルバイターはおろか並みのサラリーマンの稼ぎより多いぞ。

 異常な甘やかしに呆れた。


「もしもし、しんとみ寿司さん。松の握り2人前と竹の握り2人前と梅の握り1人前」

「ちょっと待て、注文がバラバラじゃないか。どんな注文してんだ?」

「松がぼくと響夜にいちゃん。竹がおねえちゃんとレンねーちゃん。で、梅が西川のおじちゃん」

「酷い!」


 そうこうやってる間に電話をかけるが。

 注文内容があからさまな差別。

 西川ショックで泣く。


「よしふみくん、俺を優遇してくれるのは嬉しいが。差別はよくないぞ」

「そう? それじゃあ、特上の握り5人前で」

「やったわ!」

 

 特上の握りをご馳走してもらえるとわかるや。にしかわは泣きやみ、笑顔で大喜びしてバンザイしとる。

 喜怒哀楽の激しいやっちゃ。


 しかし、特上の握り5人前の代金をポンと出せるよしふみくんの財力は大したもの。

 彼の彼女になれば贅沢させてもらえるだろう。

 ちょっとだけよしふみくんの彼女になってもいいような気がしてきた。


加藤義史のプロフィール

・性別:女

・種族:人間

・血液型:A型

・年齢:12歳(小学6年生)

・誕生日:9月4日

・一人称 :わたし

・身長:140センチ

・体重:31キロ

・スリーサイズ:B68 W51 H72

・毛色:赤みがかった黒

・瞳の色:黒

・好きな食べ物:和食全般、コーヒーゼリー

・嫌いな食べ物:スパゲティーナポリタン

・趣味:投資、読書、クラシック鑑賞

・性格:沈着冷静。冷めた人間に見られがちだが、正義感が強く、内に熱い情熱を秘めている。

・人物:御剣響夜のいとこ。響夜を響夜兄さんと呼び、慕っている。加藤よしふみの姉。おかっぱ頭が印象的な少女。物静かな性分で、年齢の割に大人びている。意外とファンタジー好きで憧れがある。1日のおこずかいはよしふみと同じ1万円。お金儲けの才能があるらしく、こずかいの大部分は投資に回してかなり稼いでいる。正義感が強く、キレると怖い方。


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