第22話 10万人の美青年な童貞
さて。
古代遺跡みたいな場所にて19体のミイラが蘇った後、どうしたかというと。
「会話できっか?」
俺、御剣響夜は、とりあえず蘇ったミイラから抵当に1人選んでジェスチャーで対話を試みてみた。
ジェスチャーは世界共通だからなんとかなると思ったからだ。
「普通に喋れるが」
「喋れたのね」
普通に会話できたのにジェスチャーなんかしちゃって、俺バカみたいじゃん。
原始人でも見るような目でみられた。恥ずかしい。
まあ、ファーストコンタクトはドジったものの。
幸いにも彼らは対話ができるレベルの理性と知性を有していた。
最初はちゃんと会話が成立するか不安だったけど。口裂け女のようにひたすら人間に襲いかかる妖怪みたいなのじゃなくてホントによかったよ。
「どうしてお前らはミイラになんかなってたんだ?」
「これこれこういう事情でして」
「ふーん。それでミイラになってたのか」
で、なぜに彼らがミイラになってたか聞く。
すると、彼らの世界はとんでもない乾燥化に見舞われたのだという。
いくつかの環境改善策を試みるが全部失敗。
結果「消去法で自らをミイラ化して大いなる水 (雨) を待つ」というぶっ飛んだ考えに至る。
大胆な発想だが。それができたから凄い。
ハイギョは乾期に水が干れても次の雨期まで地中で「夏眠」と呼ばれる休眠状態で過ごすことができるらしいが。それと似てるな。
「ミイラになった理由はわかった。だが、キミらはどういう集まりなんだ?」
「我々は姫様の婚約者候補の10万人の美青年であります」
こいつら自分のこと美青年とかぬかす。
キザなこと言いやがる。
だが、悔しいことに本当に美青年だから始末におえねえ。
しかし、1人の女に対して男10万人とか、男女の比率半端ねぇ。
オオアナコンダみたいに動物によっては性別が偏る種もいるが。ここまで極端なのはあり得ない。
オオアナコンダもビックリな逆ハーレムだよ。
こりゃあ、姫様は相当な男好きな人物なんだな。
ビッチ姫が。
「復活させて頂いてありがとう。それで姫様は何処に?」
「うっ!」
やばいこと聞いてきやがる。
姫様と思われるミイラはサーキちゃんが棺ごとぶっ壊したミイラだ。
バレたら一大事だ。どうにか取り繕わねば。
「《水魔法》連発ぅ! え? 姫様? どこだっちゅーの」
誰が頼んだでもないのに水魔法でミイラ軍団を次々と復活させてたサーキちゃんが「姫様」って言葉に反応。
こっちに寄って来る。
女好きめ! 頭の中は女のことしかなんのかこいつは。
「姫様ってどんな人ッスか。美少女?」
「はい、姫様はそれはそれは美しい人です」
ファンタジーの姫は「華々しい、育ちのいい美女」ってのがお約束だが。ここでもそうらしい。
俺も姫様がどんな容姿かは気になったが。いくら美女でもビッチな姫に女としての興味はない。
「そいつはいいや。で、姫様はどこだっちゅーの?」
「姫様は棺の中に――って、ええええー!?」
砕け散った棺を見て美青年達は絶叫。
なにせ姫様のミイラは見るも無残な姿。動揺しないなんてムリな話だよな。
砕け散った姫様のミイラに水ぶっかけてもバラバラになった肉片にしかならんよな。
「グロい……」
想像したら気持ち悪くなってきた。
グロテスクなのは嫌いだ。こういうのは想像するもんじゃねーな。
「「「「おいたわしや姫様……」」」」
ショックから多くの美青年達は膝を突く。
その場の空気は一気にお通夜ムードに。
「姫様にオレの童貞貰って決めてたのに!」
「何を言うか! 姫様に童貞を捧げるのはオレだ」
「いいや! オレこそが童貞捧げるに相応しい」
落ち込んだのも束の間。悔し涙を流し出しながら取っ組み合い。
感情の起伏の激しいやっちゃ。
しかし、童貞童貞って連呼して、精力絶倫で下品極まりない。
こいつら見た目美青年なのに中身残念だな。
所詮こいつらも男。エロ盛りの盛りスケベ根性には逆らえんってか。
男って単純な生き物だよな。
まあ、気持ちはわからんでもないが。
「しかし、いったい誰が姫様を殺したんだ」
「それが問題だ。姫様をこんなにしたヤツを同じ目に遭わしてくれる!」
「おうとも! ぶっ殺してやる」
かと思えば、美青年達は怒りを爆発させて騒ぎ出す。
サーキちゃんが無駄に要領がいいもんだから、既に半分以上のミイラが復活している。
ヤツらがどれ程の強さか知らんが。5万人に一斉に襲われては一溜まりもない。
「ヤバい……」
俺は激しく動揺。
恐怖から血の気が引く。
元の世界に帰還するまでまだ10分以上の時間がある。
正直10分間やり過ごせる自信なんてないぞ。
最悪な状況になってしまった。
どうしよ……。
「お前がやったんだろ!」
「アタシじゃないわよ」
俺と同じく動揺した西川が真っ先に疑われた。
美青年達は西川の胸ぐらを掴み尋問。
「やったのはあの人よ。アタシはただのお供です」
「ちょっ!?」
あろうことか西川は俺を指差す。
あんにゃろう、我が身可愛さに罪を擦りつけやがった。
「「「「そうか、オマエが……!!」」」」
美青年達はドスのきいた声で俺を睨みつけながらジリジリと攻め寄って行く。
「サーキちゃん助けて!」
「ぷいっ」
「なっ!?」
助けを求めるも、ぷいっとそっぽ向かれる。
あんにゃろう! どうにかできそうにないからって匙を投げやがった。
「ひっ捕らえろ!」
「「「「おう!」」」」
「ふんぎゃあ!?」
逃げようと試みるも多勢に無勢。
あっという間に捕らえられて組み伏せられたよ。
「動けん」
もがくものの、数の力の前に身動きが取れない。
数の暴力とはこのことか。
もはやこれまでと諦めかけたその時――
「「「「じー……」」」」
美青年達は俺の顔をまじまじと見つめだす。
何やってんだこいつら?
「こいつ姫様より姫っぽいぞ」
「……へっ?」
「ぶっちゃけ姫様よりカワイイんじゃね?」
「あぁ、俺もそう思った」
「ドレスが似合いそう」
「それな!」
何だか状況がよくわからない方向に向かってく。
軽く混乱してきたぞ。
「でも獣耳と尻尾が生えてんぞ」
「それを差し引いてもカワイイ」
「だな!」
「むしろ妖艶な魅力を感じる!」
「確かに色っぺー」
「そうだな!」
何人かが俺のハイエナ耳をモフモフ。尻尾をワシャワシャ。
どさくさに紛れて尻触ってくるスケベなヤツもいる。
組み伏せられたままだったので何もできずされるがままだったが。
こいつら何がしたいねん。
自分なりに分析してみると。一貫して言えるのは俺を褒めちぎって愛でてるってところか。
「どうでもいいから放してしてくれ」
「「「「ハハーッ! わかりました」」」」
すんなり解放してしてくれる。案外言ってみるもんだな。
しかも立ち上がる際も手取り足取りときた。
至れり尽くせりじゃねえかよ。
ついさっきまで向けていた憎しみの感情は何処にいったのやら。言ったことと逆のことをしている。
なんだか拍子抜け。
「あなたのお名前教えてください」
「御剣響夜」
「御剣響夜……なんと可憐で初々しいお名前」
自分の名前可憐で初々しいとか生まれて初めて言われたよ。
むちゃくちゃだ。もう何がどうなっとるねん。
「響夜姫、どうかこのTBと交尾してもらえませんでしょうか」
「何を言うか! 響夜姫に童貞貰って頂くのは、このRZだ」
「違う、このDDである」
「いいや、このWWこそが相応しい」
「おめえらの気持ちはわかるが。もうちょっとオブラートに包めよ」
俺を姫とか言い出す。
確かに俺の容姿は『お姫様とはこういうものだといわんばかりの少女』だが。それだけで『姫』って言ってんのか。
ってことは、こいつらは姫っぽいのが好みのタイプだったのね。
王族じゃないんだけど。そう言うとややこしくなりそうだから黙っとこ。
しかし、俺の心境など知らない美青年達は我先にと持っていた花を前に翳す。
そして俺にキザったらしく跪いてプロポーズ。
ビシッと決まってる場面なのに、言動が言動なのでどうにも締まらん。
求愛の仕方が原始人並みだな。
とはいえ、皆目は真剣そのもの。
さっきまで仲良さそうにしてたのに、もう仲間割れ。
欲情にかられた男子に仲間意識は皆無か。
「地獄に落ちろ!」
「グハァ! SM、貴様よくも……!」
訛った叫び声と共にアッパーカットを繰り出す者が。
これを合図とばかりに乱闘開始。
一緒にミイラになってたものの、仲間の絆よりも童貞卒業のが大事なのね。
「こりゃあ見るに堪えれん」
俺はただ美青年達の乱闘を正視できず、目を逸らすのであった。




