第21話 ミイラの兵馬俑
「姉御、どうッスか?」
「あぁ、申し分ねぇ」
お昼。
サーキちゃんの隠れ家地下4階。
俺、御剣響夜は装備品を物色中。
それというのも再び転移の巻物を使うからだ。
昨日の口裂け女騒動では、ろくな装備もなしに行ったものだから酷い目にあった。
その反省から、次に挑む際は用意周到いこうと心に決めたのだ。
サーキちゃんの隠れ家地下4階は魔道具室以外にも様々な道具が保管されており。戦闘で使う装備品も充実。
城下町の武器屋よりも品揃えがいい。
人員さえ確保できれば強力な武装集団結成できっぞ。
これ程の充実っぷりは、サーキちゃん曰く。う~☆ゲロゲロゴージャスが相当な収集家だったかららしい。
どうやらう~は『質より量』な考えの人だった模様。
大群で制圧する物量作戦を好む傾向だったと思われる。
極端な考えではあったが。俺も同じ考えなので共感できた。
要は戦いは数だよ!
「悩むわー」
しかしながら、選択肢は多いに越したことはないと思うんだが。あまりの多さに目移りしてしまう。
そこであれやこれやと装備品を取っ替え引っ替え装備してみる。
「よし! これでいいだろう」
悩みぬいた末にコンセプトが決まる。
それは、レザーアーマーをメインの軽装備。
マントを羽織り、背中に細剣を背負う。
テーマは魔法剣士。
ファンタジー世界の「憧れ」を詰め込んだ。
「姉御、似合ってるッスね」
「だろ」
自分で言うのも難だが、元が良いので何を着ても似合う。
転送事故で政党派美少女になれて本当に良かった。
感謝します!
とはいえ、本当はプレートアーマーをメインにした重装備でいきたかったのだが。
重さと動きの制約があまりに大きく。俺には使いこなせないと判明。
で、軽装備にしたわけ。早い話が妥協である。
「ぼくちゃんのもどうッスか」
「あぁ、似合ってる」
サーキちゃんのコスチュームは黒のロングコートにサングラス。
似合ってるっちゃ似合ってるが。これではマトリッ〇スのコスプレである。
「それで、装備品の代金なんだが――」
「体で払って!」
「出世払いで頼む」
「チッ」
言い終わる前に言われたが。
その条件を飲むと何されるか知れたものではないので。四の五の言わさず強引に出世払いにさせた。
露骨に嫌な顔して舌打ちされたが。まあいいだろう。
「お待たせしました」
別室で準備していた西川が部屋に入って来る。
彼の装備は足軽用の鎧と笠。
武器は長槍で。これぞ足軽っという身軽なもの。
しかし、巨大な頭の西川が普通サイズの笠を使用しても殆ど防護しとらん。
これでは真上からの攻撃しか防げない。
まあ、無いよりかはマシだけど。
「ほんじゃ、新世界にレッツラゴー」
「ちょっ!」
サーキちゃんまたしてもいきなり転移の巻物を開く。
問答無用で俺達は異世界に転移。
心の準備もへったくれもありゃしない。
◆
「この馬鹿野郎! 慎重にいくって言っといたべ!!」
「フンギャア!」
俺、御剣響夜は異世界に転移して早々にサーキちゃんの頭を本気でぶん殴った。
本気で殴ったせいかギャグマンガみたいなたんこぶができた。
ちょいとやり過ぎたかも。
「うえーん! 痛いでー! マジで痛いっちゅーに」
サーキちゃんは頭擦りながらしゃがみ込んで泣いとる。
しかし、どうにもわざとらしくて哀れみを感じられん。
……放っておこう。
「響夜様、どこなんですかここ?」
「俺にもわからん」
転移したのは――古代遺跡みたいな場所。
どんな世界に転移したかは不明だが。少なくとも前回転移した妖怪の世界ではなのだけは確実。
「しかし気味の悪い場所だ」
ちょっと見ではエジプトのピラミッド内部を思わせるが。所々エジプトのそれとは違う。
圧迫感があり。大量のミイラが整列がしている。
ホラー系が苦手な俺には居心地が悪い。
しかしものすごい数のミイラ。確実に万はいくだろう。
ミイラが突っ立てるその光景は――兵馬俑にもよく似ていた。
こいつらは服装を紫色のジャージと白のシューズで統一されており。胸にはドライフラワーを掲げている。
どういう方法で弔っとるのやら。理解できん。
「あれは」
ミイラ兵馬俑の奥に石造りのひときわ豪華な棺らしきものを発見。
十把一絡げのごとく扱われてるミイラ達とは明らかに扱いが違う。
たぶん王族か貴族なのだと思われるが。一応調べてみよ。
「見たことなない文字だな。スキル《翻訳》!」
読めなかったのでスキルを使って解読を試みる。
スキル《翻訳》はあらゆる言語・文字を解読できるスキル。
はじめ、戦闘用でないから習得するかどうか悩んだが。スキルポイントが有り余ってたので習得した。
「なになに『大いなる宝と共に我は眠りにつく。いずれ来る時に我らを大いなる水で復活させよ』とな」
「お宝ぁ!」
「おわっ!?」
いつの間にか隣におわっ西川のデカい顔が。
俺は驚いて尻餅。心臓はバックンバックン。
西川の顔のドアップは本当に心臓に悪い。
何度見ても慣れんわー。
「ふんぬううううっ! ダメだわ……」
「だと思った」
棺が宝箱だと誤解した西川は力任せに開けようとした。
しかし、非力な彼の力ではびくともしない。
「響夜様、何とかしてちょ」
「変にぶりっ子ぶるな気色悪い。でもどうやって開けたものか……」
どうしようか悩んでると――
「《収納魔法》出し! うりゃあああああ!」
いつの間にか回復したサーキちゃんが収納魔法で収納してたつるはしを出すと。力任せに棺目掛けて振り下ろす。
ガシャーンと硬いものと硬いものがぶつかる激しい音とがすると棺が砕ける。
「あぁ!?」
だが、あまりに力が強過ぎて中身にまで被害が及んだ。
結果、中身のミイラはグシャグシャ。見るも無残な姿に。
馬鹿力が。加減できんのか。
「上等な宝石だっちゅーの」
サーキちゃん、棺のミイラが身に着けていた首輪と腕輪を掲げる。
右手に持った首輪も、左手に持った腕輪も宝石を鏤めた金製の上物。
しかし、やってることは墓荒しと盗掘以外の何物でもない。
「サーキちゃん、アタシにもちょうだい」
「あいよっ」
宝石に目の色変えた西川は、猫撫で声でおねだり。
少々気色悪かったが。サーキちゃんは西川は腕輪をひょいと放り投げる。
「こりゃあいいわね~♪」
西川は渡された腕輪をガン見。
目をぎらつかせている。
「姉御も宝石いかがッスか?」
「そんな曰く付きの装飾品なんていらん。返しとけ」
「そうッスか。それじゃあ返すっちゅーに」
盗掘なんて道徳や法律に違反する行為だ。だから返すように促す。
幸いサーキちゃんは宝石に興味がないらしく。首輪をポイっと砕けたミイラに返す。
「ほれ、西川も返しとけ」
「やーよ!」
すんなり返したサーキちゃんとは対照的に西川は腕輪を握りしめて頑なに拒否。
金への執着心が仇となったか。
「そう言うなよ。こんな墓荒しみたいな」
「嫌だぁ~! アタシのものだのもんっ!」
首をぶんぶん振って返さないアピール。
「祟られても知らんぞ」
「ギョッ! た、祟りぃ……!?」
祟りって言葉を聞くなり、西川は顔面蒼白。
声も裏返ってる。
勢いで言ったが。どうやら祟りを恐れてるらしい。
「祟りなんて冗談よね?」
「冗談じゃねーぞ。祟りはおっそろしいぞー」
「ゾゾッ……!!」
不安感を煽ると、西川は全身をブルブル震わせて激しく動揺。
西川の出身がどんな世界か知らんが。たぶん、時代劇みたいな世界だろう。
だから祟りの類いを信じたのだと思われる。
「きゅ、急に要らなくなったわ。だから返す!」
西川は腕輪を砕けたミイラに放り投げる。
脅迫まがいの説得であったが。身内に悪事なんぞさせたくはない。
少々強引だったが、返させることには成功したから良しとしよ。
しかし、なんやかんやでこの世界に来て10分くらい経過してしまった。
時間が限られてるので何かしなくては。
「棺に書いてあった『大いなる水』ってのはどういう意味だろうか?」
棺に書いてあった後半の部分意味を考え出す。
意味ありげな文章がどうにも引っ掛ったからだ。
だが、考えったってわからない。
スキル《翻訳》は言語・文字を解読できるものの、暗号の解読まではできない。
つまりは自分で考えるしかないのだ。
「あ、水ね。《中級水魔法》!」
「ちょっ!? サーキちゃん」
俺が腕組して並んでると、サーキちゃんがミイラ軍団目掛けて水魔法をぶっかける。
「なんてことしてくれたんだ」
「だって、姉御が水がどーたらこーたらって」
「だからっていきなりするなよ!」
考えなしに殺傷力のある水魔法なんか使いやがって。
氷山の一角とはいえ、歴史的遺産であるミイラが壊れてないか心配になったが。幸いにもミイラは壊れてない。
ちょっと安心。
「……ん? えっ!」
安心したのも束の間。
19体のミイラが勢いよく水を吸出し。どんどん潤ってゆく。
それは干しシイタケを水に漬けて「もどす」作業と似ていた。
「生気返りやがったぞ」
信じ難いがミイラが元の人間に戻った。
胸に掲げていたドライフラワーも生花に。
おまけに揃いも揃ってヴィジュアル系イケメンときた。変な対抗意識が湧いてくる。
「ぐわー、いい男ばっか……! くぅっ……負けんぞぉ!」
俺も一応は男だ。こいつらと男だった頃の自分を比べてしまう。
こいつら男だった頃の俺よりもいい男でムカつく。
口では負けんとか言ったものの、勝てないと悟る。
悔しいー!
「「「「うおー! 来るべき時がきたか」」」」
復活した男共は雄叫びを上げる。
滾ってんな。
変な連中と出会った気分だ。
「「「うーむ……」」」
わけのわからんこの状況に俺達はただ眺めるばかり。
しかしこの出会いが、後に大きな影響を及ぼすとはこの時の俺は夢にも思わなかった……。




