第20話 妖怪の世界
「止まるな! 止まれば食われるぞ!」
「言われるまでもないんだっちゅーの!」
昭和60年代風な街路で必死に逃げる俺、御剣 響夜とサーキちゃん。
なぜなら、口裂け女に追われているからだ。
何でこうなってしまったのか。
事の発端は5分前に遡る。
◆
「いろいろあるけど安物が多いな」
「そうですね」
俺、御剣響夜は西川と共にサーキちゃんの隠れ家地下4階の魔道具室にて、塩むすび食べながら魔道具を物色してた。
ここにある魔道具の殆どは名立たる大魔女であるう~☆ゲロゲロゴージャスが残した遺産。
もしかしたらマグマカードに匹敵する魔道具があるのでは、という淡い期待を胸に探す。
やっぱし、太子と互角に渡り合える力が欲しいからね。
しかし粗悪品も多く、思うような物は見つからない。
う~は『質より量』な考え方の持ち主だった模様。
ま、俺も同じ考えだけど。
「うーむ……」
当てが外れてしまい、思わず苦笑い。
世の中厳しいものだ。
「何だこれ?」
魔道具を吟味する中、他とは異なる雰囲気を漂わす巻物みたいな魔道具を発見。
直感的にすごいものだと感じた。
「サーキちゃんに聞いて来るから、ちょっと待っててくれ」
「わかりましたわ」
好奇心に火が付くといてもたってもいられず。
西川を魔道具室に残して、1階にいるサーキちゃんに即座に聞きに行く。
◆
「これは――転移の巻物ッスね」
「転移の巻物?」
「わかってないみたいっスね。論より証拠! こう使うんだっちゅーの」
「ちょっ! いきなし!?」
俺、御剣響夜は巻物をサーキちゃんに見せるが。
サーキちゃんはいきなり巻物を巻き開く。
すると部屋が光りに包まれる。
次の瞬間、目の前が薄暗い日本風の街に。
「どうなってんだ!?」
俺は生まれて初めて目にする場所に驚き、動揺。
突然の環境変化に頭がついていかずしどろもどろ。
「すごいっしょ。使い切りだけど、転移の巻物は使用者を異世界に転移させるんだッス」
サーキちゃんはその大きな胸を張って自慢してくる。
理由はわからんが、なんかムカつく。
「すごいけど。ここはなんて異世界なの?」
「知らない」
「知らんのかい!」
ノリツッコミも程々に、現状確認。
そこは昭和60年代風の日本の街並みとよくにていた。
けれども日本に似ているが、俺の故郷ではない。
どうやら異世界は俺の故郷の他にも複数あるらしい。
「それはそうと。どうやって元の世界に帰るんだ?」
「発動してから30分後に元の世界に戻るんだっちゅーに」
「時間制限による強制帰還か。帰るまでどう時間をつぶしたものか……」
30分という時間は中途半端だ。
探索などに使うには短いし。
そうかといって何もしないには長すぎる。
持て余す時間なのだ。
どうしよう?
「私、キレイ?」
俺が悩んでいると、白くて大きなマスクをした色白で痩身の女性が尋ねてくる。
そいつは身長は155センチくらい。
赤い服、赤いコート、赤いパンタロン、赤い頭巾。全身を赤のコーディネートで固めていた。
「こいつ、まさか……!?」
この女の容姿に思い当たるふしが。
こいつは昭和に社会現象を起こした――口裂け女ではないか。
もしも本当に口裂け女なら「キレイだよ」と答えねば。
間違って「キレイじゃない」とでも答えたら、持ってる鎌で惨殺される。
「き、きれ――」
「ブスだよ」
「なっ!?」
俺は恐怖で震えながらも助かるために「キレイだよ」と答えようとした。
だが、サーキちゃんが先に答えてしまった。
それも間違った答えで。
結果、怒り狂った口裂け女に追われる羽目に。
◆
「キシャーーーーーーァ!」
「ぎゃあああああ! 何でこうなるのおおおお!?」
「オメェのせいだろーが!!」
「ぼくちゃん正直に答えたっちゅーに!」
「何でもかんでも正直に答えりゃいいってもんではない!」
俺、御剣響夜。
口裂け女は裂けた口をあらわに、奇声を上げながら大きな草刈り鎌を振り回しながら俺達を追う。
こんな時に限って着てるのがロングドレスなんだからむっちゃ走りにくい。
俺っておドジさん。
「姉御、ドンドン距離を詰められてますぜ」
「言われんでもわかっとる!」
俺とサーキちゃんは動物の亜人である。だからその動物並に身体能力が向上している。
少なくとも並みの人間よりは速く走れるだろう。
しかし100メートルを6秒台の脚力を持つ口裂け女が相手では振り切れない。
右へ左へ道を変えることで何とかやってるが。追いつかれるのは時間の問題だろう。
「ゲッ! 行き止まり!?」
目の前にコンクリートの壁。
頑張って逃げ回るも、ついには逃げ道も失ってしまう。
万事休す。
「戦うっきゃねーか。《収納魔法》出し! サーキちゃん、これを使え」
「わかったちゅーに」
もはや逃げられないとわかると。戦う覚悟が決まる。
西川から預かったままの脇差を2本出して口裂け女に立ち向かう。
「ぬおっ!?」
「のぎゃ!?」
勇敢に立ち向かうものの口裂け女は強い。
俺の脇差は跳ね飛ばされ、あっという間に追い詰められてしまう。
「ぼくちゃんはスキル《片手剣》を習得してるのに斬り合いで勝てないなんて!?」
サーキちゃんも脇差を跳ね飛ばされて青ざめる。
スキル使った分、彼女のが持ち堪えれたな。
スキル片手剣は持ってないスキルだから今度教えて貰おう。
「サーキちゃん、元の世界に戻れんのか?」
「30分経過しないと戻れんっちゅーに」
「マジかよ……」
元の世界に帰還したいが、時間にならねばそれができんとか。転移の巻物って不便な魔道具だな!
まだ半分ぐらい時間残っとるぞ。
どうやって15分耐えればいいの!?
「妖怪の世界みたいない異世界に来たばっかりにこうなるとは。万策尽きたか……」
いつもならテレポートで逃げたり時間稼ぎしてるだろうが。
土地勘のない場所で使用したら、どうなるか知れたものではない。
恐怖から腰が抜けて、コンクリート塀にもたれかかってしまう。
「シャアアアアアッ!」
口裂け女は標的を俺に決めると鎌を振り上げて血祭りに上げようとする。
「そうだ!」
もはやここまでと思ったが、ある案を思いつく。
「トンカラトンやーい!!」
「ッ?!」
それは妖怪トンカラトンを呼び出すこと。
ここは口裂け女の存在する異世界。であれば、「他の妖怪も存在する」そういう結論にたどり着く。
俺の考えが正しければトンカラトンが現れる。
だから力の限り大声でトンカラトンの名を叫ぶ。
だが、これは大博打。
上手くいくといいが。
「ダメだったか……」
口裂け女は俺の大声に怯んでくれるが。それも数秒。
再び鎌を構え直し、仕留めようとするが。
「トン、トン、トンカラ、トン♪」
「来たぁ」
どこからともなく全身に包帯を巻き、日本刀を持った者が歌いながら自転車に乗って現れる。
間違いないトンカラトンだ。
「トンカラトンと言え」
トンカラトンは自転車から降りると。一番近くにいた口裂け女にそう言う。
トンカラトンは人に出会うといきなり「トンカラトンと言え」と言い、そのとおりにすれば去っていくが、言わないと刀で斬り殺される。
だから俺はこの性質を利用したわけ。
「私、キレイ?」
口裂け女空気読まずに質問。
だが、これでいい。
トンカラトンと言わなければトンカラトンが口裂け女を殺してくれる。
「「……」」
両者は無言で見つめ合う。
「「ッ!!」」
互いに斬り合いを開始。
殺気立った凄まじい攻防を繰り広げる。
しめしめ上手くいった。
俺の予定通りに進んでくれてる。
「ヤツらすごいッスね」
「ああ」
ヤツらの技量は達人の域に達している。
あまりの凄さに俺とサーキちゃんは茫然自失。
結果、俺達にできるのはただ見守るのみ。
ビビッて身を寄せ合い震えていた。
「姉御、漏らしてますよ」
「あっ! って、お前も漏らしとるぞ」
「やっちまった!」
股に生暖かいものを感じてたが。
あまりの凄さと恐ろしさに2人揃って失禁してもうた。
「「《洗浄魔法》!」」
気持ち悪かったので洗浄魔法で身体と衣服をきれいにする。
ついでに跳ね飛ばされた脇差も回収しとく。
「っんを!?」
「時間だっちゅーの」
トンカラトンと口裂け女の殺し合いは熾烈を極めるものの時間切れ。
俺とサーキちゃんは光に包まれ、徐々に元の世界に戻ってく。
トンカラトンも口裂け女もズタボロだったが。
結局、勝敗の行方がわからぬまま帰還。
心にもやもやが残った。
◆
「しかし酷い目にあった」
「そうッスね。次はどんな異世界に行きます?」
俺、御剣響夜。
隠れ家に戻って早々、トンデモ発言を食らう。
「まだ転移の巻物あるの!?」
「あるッスよ」
「ついさっき死線をさまよったばっかりなのに何言ってんだこいつ。バカだろ! マジでバカだろ!」
「でも、未知なる力が手に入るかもしれないっちゅーの」
「ごめん。もうちょっと慎重にいかせてくれ」
「そうッスか」
力は欲しているのは事実。
しかしながら本能的に危険を感じた。
であるからして、安全策をとる。
幸いにもサーキちゃん理解してくれる。
で、先延ばし。
……そういや、行き止まりに行く手を阻まれても忍法・壁抜けを使えば、口裂け女から逃げ切れたかも。
今頃になって思い出したよ。
このお話で響夜とサーキちゃんはお漏らしヒロインになっちゃいました(笑)




