第一部 第8話 生徒会会計ベガ・ドウィン
放課後。メレンヘア学園。
生徒会長シリウスが、爽やかな笑みを浮かべながら廊下を歩いていた。
(やった、今日は生徒会がある! 俺はこの国の第一王子! 天下泰平! 王子最高! 王子最高ー!!)
すれ違う生徒たちの不穏な会話が耳に入る。
「おい……邪神龍が復活したって噂、聞いたか……!?」
「えっ、マジで……!?」
しかし、第一王子のメンタルは微動だにしない。
(あるわけないだろ、そんなの! ないない!)
* * *
生徒会室の扉の前で、スピカは一人思案していた。
(生徒会の集まりは月・水・金の週3回か……)
スピカは緊張しながら扉をノックした。
「失礼します」
「どうぞ!」
中からシリウスの声が響く。
入室すると、部屋の奥にある豪奢な椅子に深々と腰掛けたシリウスが出迎えた。
「会長、お早いのですね」
「やるべきことが多いからね」
スピカのターコイズの瞳が、シリウスを見つめる。
「何か私にお手伝えることはありませんか?」
シリウスはアクマリンの瞳でスピカを優しく見つめ返した。
「まずは……部活動とジョブ訓練施設の視察はどうだったかい?」
「忍者訓練施設で、惚れ薬を飲まされそうになりました」
スピカは正直に報告した。
「あそこはお茶目な人が多いからね」
シリウスは華麗に流した。
(お茶目で済むのぉーそれ……!?)
スピカの心のツッコミを華麗にスルーし、シリウスは会話を続ける。
「他には?」
「サムライ施設は訓練中だったため挨拶できませんでした。また折を見て伺います」
「そうか」
シリウスが頷くと、スピカはふとした疑問を投げかけた。
「あの……ジョブ訓練施設といえば、会長もミスター・トグへもんに適性診断をされたのですか?」
シリウスはクールに返答した。
「僕はドーマ神殿の神官に適性証明書を書いてもらったよ」
(あ、あの頭丸呑み・なめまわし体験※をしてないのね……)
※トグへもんによる頭部丸呑み適性診断。
シリウスは本題を切り出した。
「今日はベガ会計と一緒に、各部活や訓練施設の学園祭出展確認と、予算のヒアリングを頼むよ」
ベガがスピカに声をかける。
「行くわよ、スピカ庶務!」
「はい!」
二人は快く返事を交わし、生徒会室を後にした。
* * *
「学園祭が近いんですね」
スピカが隣を歩くベガの美しい横顔に話しかける。
「そうね。毎年盛大に開催されているわ」
「どんなところがお店や展示を出すんですか?」
「文化系の部活動がメインね。あとは各訓練施設も、希望するところが出展するわ」
「アークプリースト訓練施設も出展するんですか!?」
「あそこは学園祭の期間中は閉鎖よ。でも、プリースト訓練施設と共同で毎年お守りを販売しているわね」
話しながら歩くうちに、二人は『剣士訓練施設』に到着した。
「まずはここから行くわよ」
施設に入ると、血気盛んな剣士の生徒たちが可憐な二人に注目する。
「四天王美女のベガさんと、編入生のスピカちゃんだ!」
「やっぱめちゃくちゃ可愛いな……」
ベガが出展趣旨を尋ねると、精悍な男子生徒が前に出た。
「うちの出展は、綿の入った革袋の剣を使った模擬試合です!」
「誰が出るの?」
ベガが鋭い視線で問い詰める。
「自分、パンカイニーが出ます!」
ベガは壁にかかっていた革袋の剣を手にとると、そのまま闘技場の中央へ進み出た。
「お相手願うわ!」
黒髪を靡かせ凛と佇む姿はスピカが見ても息を飲む程美しかった。
パンカイニーはその姿に見惚れながも密かにほくそ笑む。
(アークプリーストといっても、剣技は素人のはず。華麗なテクニックを見せつけて惚れさせてやるぜ……!)
パンカイニーが剣を構えた瞬間、ベガがスッとノーモーションで間合いに侵入した。
(はっ!? 無防備に間合いに入ってきた!? 打ち込むか――)
一瞬の隙。ベガの容赦のない一撃が襲いかかる。
ビシッ――!!
「ぐはっ……!?」
激痛にパンカイニーが苦悶の表情を浮かべた。速すぎる。
「そのような腕前では、我が学園が笑われるわ! 当日はもっと気合いを入れなさい!」
ベガは冷たく言い放ち、一言付け加えた。
「……予算削減!」
(((予算関係あるー!??)))
剣士訓練施設の生徒たちは全員でズッコケた。
* * *
「次はここね」
続いて入ったのは『吟遊詩人訓練施設』。
中では生徒たちが楽器の調整に励んでいた。その中には、なぜかアコースティックギターらしきものと格闘するモブの姿もあった。
ベガが責任者に話を聞く。
責任者のイサムが胸を張った。
「僕たちの熱い想いを、素敵なメロディーに乗せて奏でるつもりさ!」
「1曲聴いてあげるわ」
ベガに促され、イサムは堂々と曲名を告げた。
「曲名――『優しさは、包み込むように』」
『優しさは、包み込むように』
作詞・作曲:ツトム&イサム
君に優しさを求められた時~♪
僕は戸惑うことしかできなかった~♪
いつも心はイエス・ノー、イエス・ノー~♪
あぁ~、ああすりゃよかった。
「…………」
「…………」
絶妙に微妙なメロディと歌詞に、二人は静まり返った。
しかしイサムはお構いなしに続けた。
「ベガ様のためにも、一曲作りました! 曲名――『ツンデレ・ダイナマイツ』!」
『ツンデレ・ダイナマイツ』
作詞・作曲:ツトム&イサム
愛しい貴女はツンデレ! ツンデレ!♪
ダイナマイトなツンデレ! ツンデレ!♪
ボンバー! ボンバー! 爆発だ!♪
あぁ~明日は何しよう~♪
「…………」
「…………」
恐ろしいほどの沈黙の後、ベガが冷たく言い放った。
「あなたにデレた覚えはないわ」
そして、容赦のないアドバイスを付け加える。
「ひとつ忠告しておくわ。オリジナル曲は後で痛烈な『黒歴史』になるわよ」
「それも承知!」
爽やかに答えるイサムに、ベガは一蹴した。
「好きにするといいわ。……」
「次行くわよ!」
* * *
『魔法生物部』の前に来ると、またしても聞き覚えのある声が響いた。
「いやぁスピカ君! 入部希望かい!?」
「いいえ違います」
サム・ペンサーの問いかけに、スピカは食い気味に即答した。気を取り直してヒアリングを行う。
「今日は学園祭出展のヒアリングに来ました」
「そうかい! 我が部のエレガントな出展内容はこれさ!」
サムが差し出したリストを覗き込む。
【魔法生物部 出展計画】
・魔法生物展示
・トグへもんの適性診断
・トグへもんの恋占い
・トグへもんの人生相談
・トグへもんの……
(めちゃくちゃトグへもん頼みじゃん!!)
あの頭部丸呑みを学園祭でやる気なのかとスピカが青ざめていると、サムが余計な提案をしてきた。
「スピカ君、トグへもんの恋占い、試してみるかい?」
「結構です!」
リストを一通り見たベガが、厳しく注意する。
「我が学園が誇る貴重な筆頭魔法生物を酷使することを禁じます。出展は展示のみにしなさい。……予算削減!」
「あぁぁ……ミスター・トグへもんの魅力を大勢の人に知ってほしかったのに……!」
サムは頭を抱えて撃沈した。
* * *
『忍者訓練施設』に入ると、スティーブが親しげに声をかけてきた。
「よー、また会ったな! 今日はカノープスと一緒じゃないんだ?」
「はい」
スピカが答えると、スティーブが周りの忍者に指示を出す。
「おい、生徒会役員の方々がお見えだ! お茶を用意しろ!」
奥から施設長が歩み出てきた。
「施設長のゾルゲンダー・ゴトウです。当施設は『忍者屋敷見学』と『忍者喫茶』を提供する予定です」
ベガが冷たい視線を向ける。
「喫茶の提供品を見せなさい」
「こちらです」
ゴトウが自慢げに指し示した在庫に対し、ベガが即座に呪文を唱えた。
「『ファインド・イービル(邪悪探知)』!!」
ぼんやりと赤く光り出す提供品。
【惚れ薬】【惚れ薬】【惚れ薬】……。
※繰り返しますがフィクションです。実際の忍者とは大きく異なります。
ベガはゴトウを冷酷に睨みつけた。
「忍者喫茶は却下。飲食物の提供は一切禁止します。出展は忍者屋敷の見学のみにしなさい。……予算削減!」
「そんなぁぁ! 在庫がーっ!?」
ゴトウが叫ぶのを無視し、ベガは言い放った。
「お茶も結構よ。行くわよ、スピカ」
* * *
一連のヒアリングを終え、生徒会室へと戻る二人。
「ベガさんって本当にすごいですね。私はベガさんみたいに、人にあんなにハッキリものを言える自信がないです……」
スピカの感嘆に、ベガは静かに答えた。
「私は自分の役割を果たしているだけよ。人にどう思われるかは関係ないわ。……これでも、余計な恨みを買わないように気を使っているつもりよ?」
(……どのあたりに気を使っていたんだろう……?)
スピカが心の中で首をかしげた瞬間、ベガの背中に不自然な紙が貼られているのに気づいた。
『バカ!』『エロ!』
(めちゃくちゃ嫌がらせされてるーっ!?)
ベガは背中の紙をスッと剥がすと、静かに呪文を唱えた。
「『ピュリフィケーション(浄化)』」
バッと一瞬で紙が消滅する。
「……子供ね」
どこまでも冷静に呟くベガ。
やはり彼女は、隙のない『鋼鉄の美女生徒会会計』ベガ・ドウィンであった。
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