第一部 第6話 学園案内と忍び達の罠
放課後。メレンヘア学園、生徒会室。
「他のメンバーも紹介するよ」
シリウスはそう言うと、生徒会役員のそうそうたるメンバーを紹介し始めた。
「こちらが副会長のルスカ・ルマンディ」
「どうぞよろしく!」
偉丈夫のルスカに、スピカも頭を下げる。
「どうぞよろしくお願いします、ルスカ・ルマンディ様」
続いてシリウスは、金髪碧眼の美しい少女を紹介した。
「書記のミス・デネブ・アーテュスだ」
「初めまして。お会いできて光栄ですわ、ミス・スピカ・マセット」
「こちらこそよろしくお願いします、デネブ・アーテュス様」
スピカが恐縮して答えると、デネブはどこか冷ややかな笑みを浮かべた。
「編入して間もない中での重責……お手並み拝見いたしますわ」
(えっ、圧かけられてる……!? 彼女、もしかして噂に聞く『悪役令嬢』ってやつ……!?)
デネブの含みのある言動にスピカがたじろいでいると、漆黒の艶やかな髪を持つ美女――ベガが声をかけてきた。
「初めまして、ミス・スピカ・マセット。私はベガ・ドウィン。生徒会会計よ、よろしくね」
「よろしくお願いします、ベガ・ドウィン様」
(さすが四天王美女……お二人とも息を呑むほどお美しい……)
スピカが感心していると、シリウスがカノープスへと視線を向けた。
「カノープス君、各ジョブ訓練所や部活動の紹介も兼ねて、スピカさんに学園の案内をお願いしてもいいかな?」
「承知いたしました」
カノープスは慇懃にお辞儀をした。
シリウスは言葉を付け足す。
「案内が終わったら、今日は二人ともそのまま寮に戻っていいよ」
「それでは参りましょう、スピカさん」
カノープスに促され、スピカは生徒会室を後にした。
* * *
カノープスが最初に案内したのは、学園の巨大な食堂棟だった。
「まずここは、軽食の取れる食堂兼ミニギルドとなっています。ここでパーティを組み、各種クエストを受注することができるのです」
(なんかすごい人がいる……)
「おーいねーちゃん、見かけねぇ顔だな! 天国の一丁目へようこそ!」
「あ、はいどーもー」
治安の怪しい柄の悪い男子生徒に、スピカは適当な相槌を打って受け流した。
続いてカノープスは、ジョブ訓練所エリアへとスピカを誘う。
「続いて、各ジョブ訓練所です。基本的には空き時間を利用して修行に励むことができます。授業の時間帯には専門のマスターが常駐していますね。基本ジョブは以下の通りです」
• 剣士
• プリースト
• 魔法使い
• 格闘家
• 弓使い
• レンジャー
• 吟遊詩人
• 冒険者
「これらの基本ジョブは、適性がなくても自由に選択できます。続いて部活動ですが――」
カノープスが示す一覧表には、多様な部活名が並んでいた。
【部活動一覧】
社交クラブ/ダンス部/乗馬部/チェス部/お茶会部/文芸部/演劇部/天文部/占い部/魔法薬部/魔道具部/魔法生物部/その他
スピカはその中のひとつに目が留まった。
(……魔法生物部なんてあるの!? じゃあ『魔法生物飼育委員会』って本当に必要なの……!?)
すると部室の前から、聞き覚えのある声が響いた。
魔法生物飼育委員長兼、魔法生物部部長のサム・ペンサーである。
「やぁスピカ君、また会ったね! 魔法生物の素晴らしさに惹かれて入部希望かい?」
「いいえ、違います」
スピカは食い気味に即答した。
「いつでも見学に来るといい。魔法生物は君を待っているよ!」
(あの人、どれだけ魔法生物が好きなのよ……)
* * *
次に案内されたのは、高い塀で厳重に囲まれた特殊エリアだった。門には『プレミアム』と書かれた煌びやかな看板が掲げられている。
「ここからは上級ジョブの訓練所になります」
カノープスが説明していると、入口付近で生徒と守衛が押し問答をしていた。
「頼む、見学だけでもさせてくれ!」
懇願する生徒を、守衛が一蹴する。
「お前のような身分で足を踏み入れていい場所ではない!」
(うわぁ……こんなところにも格差社会が……)
スピカが内心で冷や汗を流していると、守衛がカノープスに気づいて脱帽した。
「カノープス様! こちらへどうぞ」
スピカも続いて通ろうとすると、守衛に制止された。
「君、お名前は?」
「あ、スピカ・マセットです」
名乗ると、守衛は手元の帳簿を確認し、一転して満面の笑みを浮かべた。
「適性ジョブは『アークプリースト……(かな?)』ですね。どうぞお通りください!」
「ねぇカノープス君、ここには適性が認められないと入れないの?」
「サムライ以外は、研鑽を積んで基本ジョブのマスターとして認められれば昇格できます。それでも最終的に神の『加護』を授からなければ見習いのままですが……加護は適性さえあれば授与されます」
(私、ちゃんと適性ある……はずよね……?)
急に自分の未来が不安になるスピカ。カノープスはさらに説明を重ねる。
「ここには、以下の訓練施設が存在します」
• ソードマスター
• パラディン
• アークウィザード
• アークプリースト
• 魔法剣士
• 忍者
• サムライ
二人は厳かな教会風の建物の前にやってきた。
(ここがアークプリーストの訓練所かぁ……)
スピカがそっとドアを開けて中を覗き込むと――一人の男子生徒が猛烈な滝に打たれていた。
バタンッ!!
スピカは即座にドアを閉めた。
(気のせい気のせい! 見なかったことにしよう!)
* * *
続いてカノープスは、立派な和風の庭園が広がる屋敷へとスピカを案内した。
「ここが私の訓練施設――『忍者屋敷』です」
頭上の天井から、スッと隠密服を着た若い男が降ってきた。
「よおカノープス! 可愛い子連れてんじゃん、彼女?」
「彼女は新しい生徒会役員です」
冷ややかに返すカノープスに、男は覆面を外して爽やかな笑顔を向けた。
「へぇ~! 俺、スティーブ! はいこれ、お近づきの印の『忍者飴』!」
パシッ――!!
スティーブが差し出した飴を、カノープスが容赦なく叩き落とした。その鋭い眼光がスティーブを貫く。
「スティーブ……彼女に『惚れ薬』を飲ませるな」
※犯罪です。絶対にやめましょう。
「ちぇっ、バレたか~」
「ひえぇぇ……っ!?」
さらに…
スティーブの可愛い子に反応してか
施設内の忍者第があちらこちらから顔を出してきた。
「つっ!」
スピカがおののくとカノープスが彼らに睨みを効かせる。
すると忍者達はすごすごと引っ込んでいった。
顔を引きつらせるスピカは、奥の応接室へと案内された。
カコーン……。
風情ある獅子おどしの音が響く。
(うっ…四方から視線を感じる…)
緊張が解けないスピカをよそにカノープスは師匠を紹介する。
「こちらが師匠のアレクサンダー・ゴトウ上忍です」
「忍の極意を修めしマスター・ゴトウである」
「は、初めまして! 生徒会庶務に就任いたしました、スピカ・マセットです」
「まぁまぁ、ごゆっくり見学なさってください。お茶でもどうぞ」
バシッ――!!
お茶を差し出そうとしたゴトウの手を、カノープスが即座に引っ叩いた。
「お茶に惚れ薬を仕込むのはやめてください」
「えー、薬が切れるまで夢を見させてくれてもいいじゃんか~」
「よくありません!!」
カノープスは師匠を激しい眼光で睨みつけた。
※重ねて言いますが犯罪です。絶対にやめましょう。
(忍者こわい……!!)
あまりに不穏すぎる忍者師弟のやり取りに、スピカはおののくしかなかった。
※この物語はフィクションです。実際の忍者とは大きく異なります。
* * *
カノープスが最後に案内したのは、重厚な構えをした武家屋敷だった。
「ここは……?」
「『サムライ屋敷』です。伝説のジョブ『サムライ』の訓練施設ですね」
庭では、初老の紳士と背の高い屈強な青年が激しい打ち合いを繰り広げていた。
「師匠のデューク・サナダと、弟子のアルタイル・バロワです。サムライの適性を得る条件は非常に厳しく、この学園では彼一人しか存在しません」
カノープスが説明していると、稽古中にサナダの強烈な打撃を受けたアルタイルが、鋭いギロリという視線をスピカに向けてきた。
(ひえっ……!? に、睨まれた……!?)
怯えるスピカに、カノープスが静かに促す。
「猛修行中のようです。お邪魔するのはやめましょう。ご挨拶はまた今度に」
* * *
訓練施設エリアの出口まで戻り、カノープスがスピカに向き直った。
「学園のジョブ訓練所および部活動の概要は以上となります。何か分からないことがあれば、いつでも私にお尋ねください」
「今日は案内してくれてありがとう!」
スピカが礼を言うと、カノープスは慇懃にお辞儀をした。
「どういたしまして。それでは、私はこれで」
(カノープス君、親切だったなぁ……。怪しい惚れ薬からも守ってくれたし!)
カノープスと別れ、今日の出来事を振り返りながら歩くスピカ。しかし、ふと周囲に怪しげな気配を感じた。
なぜかカエルやネズミ、コウモリといった小動物たちが、一定の距離を保ちながら自分の後ろをついてきている。
(ん……? なんだか見慣れない小動物たちが私の周りに……?)
クルッ!
ササッ……!
振り返ると、気配は消え、誰もいない。
てくてく……。
(……女の勘が、全全力で警報を鳴らしてる!!)
「『クリエイトウォール』!!」
スピカは女子寮の入口に頑丈な防御壁を発生させると、一目散に自室へと駆け出した。
「おやすみなさいっ!!」
走れスピカ! 明日に向かって!
(((やっぱり忍者こわーい!!)))
※繰り返しますがフィクションです。実際の忍者とは大きく異なります。
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