第一部 第26話 シャワー室の告白
その頃――ハダルはカノープスの姿を追い求めて、『魔法生物部』の展示現場を訪れていた。
「あのー……お取り込み中すみません! カノープス先輩が来ているだろうって生徒会室で聞いたのですが……」
その問いかけに、魔法生物部部長のサムが笑顔で答えた。
「カノープス君なら、スピカ君と一緒にシャワー室へ向かったよ!」
「(((えっ……!? 先輩がスピカさんと二人でシャワー室に……!?)))」
ハダルは胸にモヤモヤとした胸騒ぎを覚えながら、大慌てでシャワー室へと走った。
◇
一方、シャワー室へ向かう廊下では、二人が無言のままトボトボと歩いていた。
(……水槽の水は、外す前にあらかじめ汲み出しておくべきだった)
己の手際の悪さと、スピカを巻き込んで全身生臭い水浸しにしてしまった現状を、カノープスは深く深く反省していた。
(ハダルのことは、スピカさんにどう切り出すべきか……)
あれこれと思案に暮れているうちに、いつの間にかシャワー室の前へ到着していた。
「あのー……レディーはこっちなんだけど……」
ハッと気がつくと、カノープスはスピカに続いて女子更衣室の扉をくぐろうとしていた。
スピカの呆れ顔に、カノープスは大慌てで身を引いた。
「す、すみません……!」
隣の男子更衣室に入った後も、カノープスはぼんやりとしたままだった。
(自分のこの中途半端な気持ちを、スピカさんに伝えてはっきりさせなければならない……)
そんな思案を抱えたまま、カノープスはシャワーの蛇口をひねった。
◇
スピカは、カノープスより一足早くシャワー室に入っていた。
お湯を出そうとしたその時、隣の男性用シャワー室にカノープスが入ってくる気配がした。
(……そうだ、ここのシャワー室……壁が信じられないくらい薄かったんだわ! っていうかカノープス君、普通はレディが浴び終わった後に使わない……!?)
心の中でフツフツと愚痴をこぼしていたスピカだったが、隣の壁越しにカノープスの気配を感じ取った。
ぼんやりと思案していたカノープスも、薄い壁一枚を隔てた隣にスピカがいることに気づいた。
(あっ……スピカさんも、シャワー室にいる……)
今まさに服を脱いで無防備な姿でいるスピカを想像してしまい、カノープスはなんとも言えない不純な感情に包まれた。
しかし――。
(……いや、今こそ自分の想いに決別を告げるチャンスなのでは……!?)
カノープスは意を決し、薄い壁越しにスピカへ声をかけた。
「ス、スピカさん……! 僕の話を聞いてもらってもいいですか!?」
薄い壁の向こうからの突然の問いかけに、スピカはパニックに陥った。
(えっ!? なに!? カノープス君が壁越しに話しかけてきた!? こっちもそっちも今まさにすっ裸なのよ!? 恥ずかしすぎるでしょーーー!!)
スピカは顔を真っ赤にして、か細い声を絞り出した。
「あ、あのー……カノープス君……? その話、シャワーの後じゃダメかなぁ……?」
「(((……ッ!!!)))」
スピカの言葉で、カノープスは一瞬で顔を血の気に染めた。
(自分は一体、何をしようとしていたんだ……!?)
場所も、相手の都合も、状況も、気持ちも身につけている衣服も何一つ配慮せず、裸の壁越しに何を出しゃばろうとしていたのか。
自分のスピカへの過去の想いや、ハダルへのこれからの決意をスピカに話したところで何になるというのか。
自分一人だけはスッキリ整理がつくかもしれないが、急にそんな重い話を聞かされたスピカにとっては知ったことではないし、ただ相手の心を乱すだけではないか。
(これは……ただ自分が自己満足したいだけの勝手な行為だ……!)
スピカへの淡い想いは胸の奥に秘めたまま、ただハダルへ誠実に向き合えば良いだけの話なのだ。
カノープスは茹で上がった顔のまま、消え入りそうな声で呟いた。
「あ……あの……大変申し訳ありませんでした……! 今のことは……忘れてください……」
それを聞いたスピカは、目を点にした。
(えっ……!?『忘れてくれ』……!? いやいや、そんな言われ方されたら、かえってものすごーーーーく気になるんだけどーーーーっ!!??)
スピカは、余計にモヤモヤとした不完全燃焼の気持ちを抱えたまま、シャワーの蛇口を勢いよくひねった。
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