第一部 第20話 乱舞!メレンヘア学園舞踏会第一部(ハードル低)②
「スピカさん」
「……俺と友達になってほしい」
「踊っていただけますか?」
リゲルの真っ直ぐな眼差しを前に、スピカの脳裏に落とし物のメモ(『友達になってください』)が思い浮かんだ。
「……はい!」
スピカがそっと手を差し出すと、リゲルはその手を包み込み、優しく腰に手を回した。
スピカは顔を赤らめつつも、おそるおそる周囲を見渡す。
(す、すごく注目されている気がする……!)
リゲルは力強く、それでいてどこまでも優しくスピカをリードしていく。
(あれ……? 何かしら、この雰囲気は……? 乱暴で怖い人かと思っていたけれど、本当はすごく紳士的で優しい人なの……?)
(これって『第1部』のハードルの低いダンスよね? なのに……っ)
予想外すぎるリゲルの甘い対応に、スピカの頭の中は真っ白になっていた。
◇
そんな二人の楽しげなダンスを、カノープスは胸を痛めながら遠くで見つめていた。
そこへ、淡いクリーム色のカクテルドレスに身を包んだハダルが歩み寄ってくる。
「カノープス先輩……!」
ハダルはカノープスを真っ直ぐ見つめて、そっと手を差し出した。
「私と……一緒に踊っていただけませんか?」
カノープスはハダルの可憐なドレス姿に一瞬見とれ、優しく微笑んだ。
「……はい! 喜んで」
◇
その頃――真紅のドレスを華麗に翻し、ベガが『サムライ訓練施設』へと戻ってきた。
仮設闘技場の周囲には、男子生徒たちのうめき声と悲鳴が充満していた。
アルタイルは汗だくのまま、ベガの姿を見つけて軽口を叩く。
「よー、悪の黒幕のお姫様。……あんたの勇者様たち、全員俺が倒しちまったぜ……」
転がる男子生徒たちが、弱々しく口々に呟く。
「つ、強すぎる……」
「化け物だ……」
「も、もう回復魔法の魔力が尽きた……」
満身創痍の挑戦者たちへ歩み寄ると、ベガは迷わず呪文を唱えた。
「『バリア・コンストラクション(結界構築)』!
「効果付与」
『ヒール(回復)』!」
「あぁぁ……ベガ様の回復結界だぁ……!」
「癒やされるぅぅ……!」
倒れていた男子生徒たちが、感動の声を上げる。
ベガはゆっくりとアルタイルへ歩み寄った。
「……あなたには、自分が引き受けるべきだった面倒を押し付けてしまって、本当に申し訳ないと思っているわ。……」
「何かお詫びがしたいのだけれど、私にできることはあるかしら?」
しおらしく頭を下げるベガに対し、アルタイルは悪戯っぽくニヤリと笑った。
「じゃあ……俺と、舞踏会でダンスを踊ってもらえませんか?」
ベガは頬をポッと赤く染め、視線を泳がせた。
「……『第1部』でなら……」
それを聞いたアルタイルは、満足そうにフッと笑った。
「ははっ……。それ・は・い・い……」
プツンと緊張の糸が切れたように、憔悴しきったアルタイルの身体が、ベガの胸の中へとバタリと倒れ込んだ。
ベガは慌てることなく、そっとアルタイルの頭に手を回し、愛おしそうに優しく包み込むのだった。
◇
『剣士訓練施設』――。
熱気あふれるアナウンスが響き渡っていた。
『パンカイニー選手! 見事! 怒涛の30人抜き達成ですーーー!!』
汗だくのパンカイニーが空に向かって拳を突き上げる!
「ベガ様ーーー! 見てますかーーー!!」
◇
大ホールでは、『第1部』の優雅な演奏が続いていた。
(あれ……私、雰囲気に流されちゃってる……? この人のことが、本当は……?)
スピカは、自分を完璧なエスコートでリードし続けるリゲルに対し、胸のトキメキを抑えきれずにいた。
一方――カノープスはハダルとのダンスを重ねながらも、つい無意識にスピカとリゲルの二人を目で追ってしまう。
ハダルはその視線に気づき、胸を締め付けられながらも、カノープスの胸元をキュッと掴んで訴えかけた。
「……こっちを向いてください」
「えっ……?」
「……私を、見てください!」
ハダルの真っ直ぐな瞳に、カノープスはハッと我に返った。
「あ……すまない」
◇
静寂に包まれた生徒会室――。
デネブとシリウスは、遠くの大ホールから漏れ聞こえてくる音楽に静かに耳を傾けていた。
デネブが優しく語りかける。
「この部屋にも、かすかに音楽が聴こえてくるのね」
「そうだね」
「……こうして二人きりで話すのは、久しぶりね、シリウス」
「あぁ」
デネブはそっと、シリウスに向かって細い手を差し出した。
「一曲……踊っていただけるかしら?」
シリウスは澄んだアクアマリンの瞳を和らげ、その手を取った。
「喜んで」
◇
大ホール――。
スピカはリゲルの力強くも情熱的なダンスに、すっかり翻弄されていた。
(力強いダンス……! けれど、時々ふっと切なさや寂しさが混ざる……。この人って、本当は……)
曲が終盤に差し掛かったその時――リゲルはすっとスピカの顔を引き寄せ、その唇を奪おうと顔を近づけてきた!
「……っ!?」
顔を真っ赤にしたスピカだったが、ハッと正気に戻って必死に踏みとどまった。
「だ、ダメです!」
「な……?」
「そ、それは『第2部』のガチな人たちがすることです!!」
「……じゃあ、このまま『第2部』まで一緒にいよう」
リゲルが妖しく微笑みながら追いかけてくると、スピカは大慌てで彼を押し遠ざけた。
「私! 生徒会役員の仕事がありますので、これで失礼します!」
リゲルの手を振り払い、脱兎のごとく逃げ出そうとするスピカ。
「待てっ!!」
リゲルが腕を伸ばしてスピカの腕を掴もうとした――その瞬間!
ドスッ!! ガキィィンッ!!
「危なっ!?」
リゲルの足元へ、鋭い突風とともに鉄製の手裏剣が突き刺さった!
リゲルが思わず怯んだスキを見逃さず、スピカは大ホールを駆け抜けて走り去っていった。
リゲルは顔を大きく歪め、手裏剣が飛んできた方向を猛烈に睨みつけた。
「……なんだ、お前!!」
そこには――片手でハダルの手を優しく握り締めたまま、無表情で固まっているカノープスの姿があった。
ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると励みになります!」
ブックマークも大歓迎!!お願いします。




