第一部 第15話 激動!メレンヘア学園祭③ ――有頂天!モブ・デュラン
『サムライ訓練施設』の屋外仮設闘技場でのルスカとアルタイルの対峙は、なんとも奇妙な様相を呈していた。
(……奴め、武器を『槍』と『短剣』に変えてから一向に攻めてこないぞ!?)
焦りからじっとりと汗をかき始めるルスカに対し、アルタイルは最低限の警戒を保ちつつ、どこか気楽に構えている。
痺れを切らした無責任なギャラリーから、心ないヤジが飛ぶ。
「おい、早く戦えよ! 何にらめっこしてんだよ!」
「副会長ー! サムライにビビってんのかー!?」
(……うるさい!!)
ルスカは心の中で荒々しく毒づいた。
◇
生徒会室では、シリウスが懐中時計にチラリと目を落としていた。
「そろそろ交代の時間だね」
「会長は、この後ご予定があるのですか?」
スピカが尋ねると、シリウスは軽く肩をすくめて答えた。
「校長室で、来賓の方々とのご挨拶があるんだ」
「お忙しいのですね……」
「本当は僕も学園祭を楽しみたいところだがね。色々と『しがらみ』があってね」
コンコン――。
そんな二人のやり取りの最中、生徒会室の扉が控えめにノックされた。
「デネブ・アーテュスです。失礼いたします」
「どうぞ」
シリウスは有能な書記の入室を許可した。
「会長、お疲れ様です。後はお任せくださいませ」
デネブの心強い申し出に、シリウスは穏やかに礼を言った。
「ありがとう、デネブ。君がいてくれたら安心だよ。これで僕は要人たちとの面会に集中できる」
「そちらも、ぬかりなく」
「あぁ」
シリウスとデネブの、一切の無駄がない洗練されたやり取りを前にして、スピカは密かに感心していた。
(会長とデネブさんって……なんだか『阿吽の呼吸』って感じね。確か幼馴染だって聞いたわ。これが長年積み重ねてきた『時間』というものなのかしら……)
シリウスが佇むスピカに向き直る。
「スピカ君、先に自由時間を取ってくれていいよ。僕はデネブ君と少し話があるからね」
「あ、はい!」
コンコン――。
再び生徒会室の扉が叩かれた。
「失礼いたします。……時間に遅れてしまい、お待たせして大変申し訳ございませんでした」
カノープスが深々と腰を屈めて入室してきた。
シリウスが少し意外そうに眉をひそめる。
「君にしては珍しいね」
「面目ございません……」
シリウスとカノープスのやり取りを見守っていたスピカは、カノープスの手元に付着した怪しい汚れに気づいた。
(あっ……手に絵の具が付いてる!)
「あっ! ごめんなさい、私が描いたポスターの絵の具、乾いていませんでしたよね……!?」
「いいえ、大丈夫です」
カノープスは遠慮がちに返答した。
「それでは、失礼いたします!」
スピカが退室しようとすると、シリウスが優しく声をかけた。
「お疲れ様。……夕方もよろしく頼むよ」
(夕方……『第2部』のガチ本命舞踏会の時間帯だわ……!)
シリウスの言葉と視線を思わず強く意識してしまい、スピカは少し胸を躍らせながら生徒会室を後にした。
◇
生徒会室を出ると、廊下は一気に学園祭の熱気と喧騒に包まれた。
(ちょっとアルタイルさんの勝負が気になるわね……見に行ってみようかしら!)
スピカはサムライ訓練施設の方角へと足を向けた。
その途中、集会室の前を通りかかると、中から異様な盛り上がりが漏れ聞こえてきた。
(あっ! 集会室で吟遊詩人の人たちがライブをやってる! これ……『ツンデレ・ダイナマイト』かしら!?)
スピカが覗き込むと、ステージの前では女子生徒たちの黄色い声援が飛び交っていた。
「キャーー! イサムさーーん!!」
(えっ……なんかすごくモテてる!? これが噂に聞く『学園祭マジック』ってやつ……!?)
スピカが会場の熱気に圧倒されていると、ステージ上のイサムとガッツリ目が合ってしまった。
イサムはキメ顔で、スピカに向かってバチコンとウインクを飛ばしてくる。
(……なんかイサムさんにウインクされたんだけど……)
引き気味のスピカをよそに、女子生徒たちの黄色い歓声はなんと“あの生徒”にまで向けられていた!
「デュラーーーン!!」
(モブ君までーーー!??)
スピカが目を丸くしたその瞬間――モブ・デュランは床を強く踏み鳴らした!
ドスンッ!!
モブはドヤ顔で足踏みを響かせると、そこから超ノリノリで自己主張の激しいアドリブ演奏を開始した!
(((モブ君……スゲーイキってる……)))
自分ばっかりを目立たせようとする、超ノリノリなモブ。
そのアドリブを冷ややかな目で見つめつつ、スピカは本来の目的を思い出した。
(あ、いけない……! サムライ訓練施設に行かなきゃ!)
◇
スピカは上級ジョブが集まるプレミアムエリアへと足を踏み入れた。
(今日は一般開放されているのね……。あっ、忍者屋敷!)
スピカは『忍者屋敷』の店頭で足を止めた。
「忍者屋敷いかがですかー!」
と可憐な声で呼び込みをしているのは、新米くノ一のハダルだった。
(あ、この前の可愛い女の子だわ! 忍者グッズも売ってるのね)
スピカが店頭に並ぶ品物を覗き込む。
竹手裏剣
竹忍者刀
煙玉
忍者はちまき
【在庫処分】惚れ薬
(((一番最後にヤバいのが混ざってるんだけど!! 売っていいのそれ!?)))
怪しすぎる商品に心の中で猛烈なツッコミを入れていると、ハダルが明るく声をかけてきた。
「いかがですか?」
「あ、ごめんなさい! 先を急いでいるからまた今度ね!」
スピカは丁寧に断りを入れ、サムライ施設へと急いだのだった。
◇
一方――静寂の戻った生徒会室。
シリウスが退室し、デネブと二人きりになったカノープスは、勇気を振り絞って金髪碧眼の美女に話題を振ってみた。
「……デネブさん。今日は天気が良くて良かったですね」
デネブは書類から目を離さず、短く答えた。
「そうね」
――会話、終了。
重苦しく気まずい沈黙が、静かな生徒会室をどこまでも支配し続けるのであった。
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