第一部 第13話 激動!メレンヘア学園祭① ――シリウス・ランスターという男
柔らかな朝日が差し込む、メレンヘア学園女子寮。
「今日は、いよいよ学園祭か……」
スピカが窓の外の晴れやかな空を眺めていると、部屋の扉をコンコンと叩く音が響いた。
「スピカ様、お届け物です」
寮付きのメイドから小さな小箱を受け取り、スピカは頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「母上様からだわ! なにかしら……?」
丁寧に包装を解くと、中に入っていたのは淡い水色の美しいカクテルドレスだった。
スピカは目を輝かせる。
「まあ……! なんて素敵なドレス!」
「……でも、着る機会なんてあるかしら?」
◇
早朝――生徒会室。役員一同が一堂に集結していた。
生徒会長のシリウスが静かに口を開く。
「いよいよ学園祭当日となった。みんな今日まで良くやってくれた。その努力が無駄にならぬよう、今日も一日よろしく頼むよ。」
「特に今日は来賓の方々も大勢いらっしゃる。メレンヘア学園生徒会役員として、恥ずかしくない対応をお願いする。……そして各自、自分自身も学園祭を楽しむことを忘れないように! 以上!」
堂々と引き締まった挨拶をするシリウスを見つめながら、スピカは本日の待機シフトを脳内で整理していた。
(会長と二人きり……変に意識する必要はないわよね)
◇
定刻となり、ついにメレンヘア学園祭が開幕した。
来賓客が厳重なチェックを受けて続々と入園し、学園の敷地内は徐々に祭りの喧騒と活気で満たされていく。
そんな賑わいから離れ、比較的静寂の保たれた生徒会室には、シフト通りシリウスとスピカの二人が残されていた。
シリウスが優しくスピカに問いかける。
「スピカ君は、この学園祭は初めてだったね」
「はい!」
「ご家族の方は来られるのかな?」
「はい、招待状をお出ししております」
スピカはふと思い立って、話題をシリウスへと向けた。
「会長も、ご家族の方が来られるのですか?」
「父(王)は来ない」
ポツリと、どこか重苦しい面持ちで答えるシリウスに、スピカは焦った。
(ま、まずいことを聞いてしまったかしら……!? 王族の親子関係って色々複雑なのね、きっと……!)
スピカが申し訳なさそうに気まずい顔をしていると――突如、生徒会室の扉が勢いよく開け放たれた!
ドンッ!!
「やあシリウス! パパがサプライズで会いに来たよー! 愛しい我が息子よー!」
両手を大きく広げて華麗に登場したのは――シリウスの父親であり、この国の絶対権力者であるミルキーウェールズ国王その人であった。
「ち、父上……!?」
シリウスが露骨に困惑と頭痛の表情を浮かべる。
「…………」
スピカはあまりの落差に一瞬沈黙した。
国王はスピカの存在に気づくと、
人懐っこい笑顔で手を振った。
「やあお嬢さん、こんにちは!」
スピカは大慌てで体裁を整え、
深々と頭を下げた。
「こ、国王陛下! お初にお目にかかります、マセット伯爵家が長女、スピカと申します!」
そんな甲斐甲斐しいスピカの挨拶に、
国王はニコニコと答える。
「堅苦しい挨拶はいいよー!」
「『シリウスパパ』でいいよ!」
(((えっ……さすがに砕けすぎて呼べませーん!!)))
冷や汗を流してフリーズするスピカの横で、国王はシリウスへ小声で囁いた。
「なかなか可愛い子だねぇ」
「…………」
息子に無言のスルーを決め込まれ、
国王は申し訳なさそうに肩をすくめる。
「あのー……シリウスさん? 」
「パパ、邪魔だったかな?」
シリウスは冷ややかに、かつ慇懃に返した。
「はい。ですが……そういうのではありません」
おどけたように笑った国王は、最後に一言付け加えた。
「リゲルの顔も見ていかないとな……。失礼したね、」
「ごゆるりと!」
国王はシリウスにパチリとウインクを贈り、風のように退室していった。
「…………」
「ざっくばらんな、とても素敵なお父様ですね」
スピカが素直な感想を漏らすと、シリウスは眉間を押さえながらため息をついた。
「父のことは尊敬しているが……人に対して距離が近すぎて困るんだ。大事なお身体なのだから、もう少し慎重になっていただきたいものだよ」
「お互いに相手を想い合っていらっしゃって、とても素敵だと思いますよ」
スピカがまっすぐな瞳で見つめて答えると、シリウスの表情が和らぎ、優しく微笑み返した。
「ありがとう。素直に受け取っておくよ」
◇
一方――『サムライ訓練施設』の入り口には、達筆な文字で大々的な看板が掲げられていた。
+-------------------------------------+
│ 【サムライに挑戦!】
│ 受付時間:09:00 〜 15:00
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そこへ、副会長ルスカが堂々と現れた。
「やぁアルタイル! 一番に並んでやったぞ! 負かしてやった後に『疲れていた』と言い訳されたくないからな!」
「これはどうも……」
やる気満々のルスカに対し、アルタイルは苦笑いしながら頭を下げた。
ルスカは威風堂々と宣告する。
「お前とは一度手合わせをしたいと思っていたのだ! 」
「どちらが殿下の『武の右腕』に相応しいか、ここで証明しようではないか!」
「……お手柔らかにお願いします」
アルタイルは力なく笑うしかなかった。
師匠のデューク・サナダが立ち合いのルールを説明する。
「面、胴、小手のいずれかに一本叩き込んだ者の勝ちじゃ。武器は好きなものを選んで良い。戦いの中での交換も自由じゃ!」
ルスカは片手木剣と木製シールドを手にとった。
「私は片手剣と盾を選ばせてもらう!」
「じゃあ俺はこれで」
アルタイルは木太刀をチョイスした。
両者が防具を装着し、中央で向き合う。
「では――初め!!」
サナダの鋭い掛け声とともに、立ち合いの火蓋が切って落とされた!
◇
その頃――『忍者屋敷』。
カノープスが様子を見に顔を出すと、鈴を転がすような愛らしい声に呼び止められた。
「先輩! 学園祭、一緒に見学しましょうよ!」
くノ一衣装に身を包んだハダルからの誘いに、カノープスは首をかしげる。
「君は忍者屋敷の『看板娘』ではなかったのか?」
ハダルはケロッと答えた。
「なにやら先輩方が仕掛け作りに手間取っているらしくて、オープンが11時からになったんです。……また怪しい仕掛けなんですかね?」
カノープスは静かに諭す。
「一緒に行くのは構わないが……僕は生徒会役員だ。フリーの時間とはいえ見回りも兼ねているから、一緒だと退屈するかもよ」
ハダルはそれでも満面の笑みを崩さない。
「それでもいいです! 一緒に回りましょう!」
そして――ハダルは上目遣いでそっと付け加えた。
「あと……忍者屋敷のシフト…」
「16:00〜17:00も空いてます…」
「…………」
カノープスはその問いかけには答えず、無言で視線を逸らすのだった。
◇
祭りの賑わいから遠く離れた、静寂に包まれる生徒会室。
「外はお祭りなのに、この部屋は静かですね」
スピカが呟くと、シリウスは短く
「そうだね」と答えた。
スピカはシリウス自身について、前々から気になっていたことを尋ねてみた。
「会長は生徒会の仕事もなさっているのに、学業もジョブ訓練も常にトップだと聞きました。本当に努力家なのですね」
シリウスは静かにアクアマリンの瞳を揺らし、口を開いた。
「男をやっていて何が楽しいかと言えば……自分には実力があると感じられることだ」
「僕は地位や家柄だけにすがるつもりはない。色々なことを学び、多くのことを経験すれば、その分野で人に先んじることができる。そのための努力を、僕は惜しまない」
シリウスは窓の外の青空を見つめ、静かに言葉を重ねる。
「何も知らず、ただ立場や運命に流されるだけの人生なんてごめんだ」
スピカはその顔をまっすぐに見つめ、強く同調した。
「とても立派なお考えだと思います! ……」
「あ、でも一つ付け加えるなら、実力をつけたいと思っているのは殿方だけではありませんよ?」
シリウスは意表を突かれたような顔をした。
「これは失礼。……君も、僕と同じ考えの持ち主なのかな?」
スピカは照れくさそうに笑いながら答えた。
「会長ほど努力は出来ませんが……自分が頑張って何かの役に立てるのは、すごく嬉しく感じます。そのために出来ることを増やしていきたいなって思っています」
「そうか……」
シリウスは呟くと、吸い込まれそうなアクアマリンの瞳でスピカをじっと見つめた。
「初めて会った時から思っていたよ。……」「僕と君は、よく似ている」
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