第一部 第12話 学園祭前夜祭
「会長は生き物に優しいのですね」
温かな眼差しで、スピカはシリウスに優しく微笑みかけた。
(うん……? クマムシマンのことか……?)
首を傾げるシリウスに、スピカがさらに問いかける。
「なんていうお名前なんですか?」
(……僕はシリウスだが?)
スピカの問いかけにシリウスが困惑していると、そばにいたカノープスが淡々と答えた。
「ケロ吉です」
「ゲコッ!」
「……!?」
シリウスはようやく自身の頭上の異変に気づいた。
「……カノープス君、何かなこれは?」
シリウスの問いかけに、普段はクールな忍びが無邪気に答える。
「ケロ吉は会長の頭が気に入ったようです」
「可愛い! ケロ吉君、よろしくね!」
スピカは屈託のない笑顔で、シリウスの頭に乗った使い魔ガエルに挨拶をした。
「…………」
シリウスはその可憐な笑顔を前に、強引にカエルを頭からどかすこともできず、引きつった笑みでスピカに指示を出した。
「スピカ君! 外来向け資料の作成をしているルスカ副会長を手伝ってもらえるかい?」
「はい!」
スピカが背を向けたのを見計らい、シリウスは頭上のカエルをそっと床の上に置いた。
そして、立ち上がって部屋全体に号令をかける。
「学園祭まで日がない! 申し訳ないが、みんなにはもうひと頑張りしてもらうことになる。よろしく頼むよ!」
それに対し、ルスカが力強く応えた。
「何をおっしゃいますか! ここにいる者はみな、喜んで働いております。ご心配には及びません!」
「ありがとう、ルスカ副会長」
シリウスは深々と礼を言うと、言葉を続けた。
「当日は生徒会役員が二人体制で生徒会室に常駐することになる。シフトを組んだので確認してくれ」
【学園祭 生徒会役員シフト表】
・09:00〜11:00 シリウス / スピカ
・11:00〜13:00 カノープス / デネブ
・13:00〜15:00 ルスカ / ベガ
(学園祭 休憩時間)
・15:00〜16:00 カノープス
(舞踏会 第1部)
・16:00〜17:00 シリウス / デネブ
(舞踏会 第2部)
・17:00〜18:00 シリウス / スピカ
(……会長と、二人きり……?)
シフト表を確認したスピカは、思わずシリウスを見つめた。そんなスピカの視線を知るか知らぬか、シリウスは説明を続ける。
「シフト以外の時間は、何か緊急事態があればご足労願うが、基本的には自由時間だ。各自、学園祭を存分に楽しんでくれたまえ」
「……」
「スピカ君! 今日は各出展希望施設の見回りをお願いするよ。一人で大丈夫かい?」
シリウスの依頼を、スピカは快く引き受けた。
「はい、大丈夫です!」
「何か問題があれば、こちらに持ち帰ってくれていいからね」
「はい!」
スピカは必要な書類を整え、生徒会室を後にした。
◇
『剣士訓練施設』に到着したスピカ。
(剣士訓練施設、すごく気合が入ってるわね……! ベガさんの叱咤が効いたのかしら?)
「何か問題はありませんか?」
スピカがパンカイニーに尋ねる。
「あぁ! ベガ様に伝えてくれないか? 『俺の最高を見せてやる』ってな!」
パンカイニーの真剣な眼差しに、スピカもにっこりと応えた。
「はい! ベガさんに伝えておきますね!」
◇
続いて『プリースト訓練施設』を視察に訪れると、親友のクレアに呼び止められた。
「スピカ!」
「クレア! そっちは順調?」
「ええ、順調よ! 守護の宝珠作りで魔力を使いすぎちゃってるけどね!」
クレアは手の中の綺麗な宝珠を見せて説明する。
「これ、すごく便利なのよ! 一日に一回しか使えないんだけど、中程度のダメージなら無効化して無傷にしてくれるの! 便利で綺麗な優れものよ!」
スピカが感心して見つめていると、クレアは急に目を輝かせた。
「それより! ねぇスピカ! 学園祭の午後の舞踏会、誰かに誘われた!?」
「えっ……誘われたって?」
「やっぱり知らなかったのね!」
キョトンとするスピカに、クレアは熱っぽくレクチャーし始めた。
「この学園祭では、男子が意中の女子を舞踏会に誘うのが昔からの慣わしなのよ! 舞踏会は『第1部』と『第2部』に分かれていてね……」
第1部のお誘い:「これからお友達になりましょう」「仲良くしたいです」という、比較的ハードルの低いお誘い。
第2部のお誘い:「これから真剣にお付き合いください」という、ガチな本命告白を意味するお誘い!
「スピカもこれから駆け込みで誘われるかもしれないわよ!」
興奮気味のクレアに、スピカは苦笑しながらため息をついた。
「残念! 今のところお誘いは全く受けてないわ」
◇
集会場では、様々な部活や施設の使用予定者が直前の調整を行っていた。
どこからか聞き覚えのある、絶妙にダサい曲が耳に入ってくる。
(吟遊詩人の人たちも演奏に熱が入っているわね……。これ、『ツンデレ・ダイナマイト』かしら……?)
◇
スピカは『魔法生物部展示室』にも顔を出した。
「スピカちゃん! おかげさまで僕は鎖に繋がれずに済んだよー!」
トグへもんが涙目になりながらすり寄ってきた。
「良かったわね! また来るわ! サム部長によろしくね!」
(……あのー……)
部屋の奥から何故か鎖に繋がれたままのクマムシマンの切ない声が聞こえた気がしたが、スピカはそのまま次へ向かった。
◇
『忍者訓練施設』へ足を運ぶと、入り口でスティーブが出迎えてくれた。
「よー! 出展の視察かい?」
「はい!」
「忍者屋敷、体験していく?」
「いえ、今日は忙しいので……!」
スティーブの誘いをやんわり断ると、奥から可憐な少女が現れた。
「こんにちは! ハダル・ギレスです!」
「こんにちは、生徒会庶務のスピカ・マセットよ。よろしくね、ハダルちゃん!」
スティーブが誇らしげにハダルを紹介する。
「この子はウチの新人! カノープスから色んなことを手取り足取り教わってるよ!」
ハダルはスティーブを軽く睨みつけた。
「何ですか、その怪しい言い回しは……! 」
「お会いできて光栄です、スピカさん!」
「私もよ、ハダルさん!」
(こんなに可愛い子が忍者訓練施設にいるなんて、大丈夫かしら……ケモノの檻に投げ込まれたみたいで心配だわ……)
スピカは出会ったばかりの可憐な少女を密かに案じた。
「問題は無さそうですね!」
スピカが話を締めくくろうとすると、スティーブが手を挙げた。
「予算上げて下さ〜い!」
「ごめんなさ〜い!」
スピカは笑顔で手を振り、忍者屋敷を後にした。
スピカの背中が見えなくなった後、
スティーブはハダルへ意地悪く囁いた。
「なぁ、知ってるか?」
「何をですか……?」
「あの娘……カノープスのお気に入りだぜ」
「えっ……!?」
それを聞いたハダルは、明らかに動揺の色を隠せなかった。
◇
最後に『サムライ訓練施設』へ足を運んだ。
中ではアルタイルが集中した面持ちで大弓を引き絞っていた。
(あ……声をかけちゃ邪魔かしら……)
こっそり立ち去ろうとしたスピカに、弓を引いた姿勢のままアルタイルが声をかけた。
「あ、スピカさん!」
「お邪魔しちゃいましたか!?」
「いえ、ちょうど休憩しようと思っていたところです」
アルタイルは弓を置くと、爽やかな笑顔を向けた。
スピカは事務的な確認をする。
「出展の予算、この前の通りで問題ありませんか?」
「はい、全く問題ありません!」
何事もないかのように答えるアルタイルだったが、一人で挑戦する過酷さを思いやり、スピカは優しく声をかけた。
「出展……なんだか大変なことになっちゃいましたね」
アルタイルはスピカの目をまっすぐ見つめ、力強く答えた。
「はい。ですが……『出来ない』と言うのではなく、自分に出来ることを精一杯やるだけです」
地に足のついた誠実な返答に、スピカは深く感心した。
「応援しますね! 頑張ってください!」
「お邪魔しました!」
と施設を去ろうとするスピカに、アルタイルは嬉しそうに声をかけた。
「はい! またいつでも来てください!」
◇
生徒会室へ戻る道すがら、生徒たちの学園祭にかける情熱に触れたスピカは、胸を温かくしていた。
(みんな、学園祭に向けて本当に頑張ってるんだなぁ……。みんなの努力が上手くいくといいな……)
心からそう願った、その時――
ガサッ!
(ん……!? 何か気配が……!)
スピカがいきなり勢いよく振り向くと――
ボテッ!!
「いでっ……!?」
頭上の木の上から、ハダルが思い切り落ちてきた。
ハダルはぺこりとスピカに挨拶をすると、顔を真っ赤にしてそそくさと走り去っていった。
(えっ……忍者娘……!? 忍者って……みんなああなのかしら……?)
(※当然ですがマンガの世界の話です。実際の忍者とは異なります)
様々な想いと期待を乗せて――メレンヘア学園祭の幕が、今まさに開かれようとしていた。
ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援していただけると励みになります!」
ブックマークも大歓迎!!お願いします。




