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シンソウ・ご先祖様が聖女様かどうかも疑わしい私が王子様達の獲物にされてます。  作者: クワトロばなな
第一部 メレンヘア学園の編入生

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第一部 第11話 鋼鉄のプライド 副会長ルスカ・ルマンディー

放課後――生徒会室。

生徒会長のシリウスが、資料をまとめているスピカへ優しく語りかけた。


「各施設の出し物や予算のすり合わせは順調かい?」


「はい! ベガさんがとても頼もしく対応してくださっているので、問題ないと思います!」


「彼女はしっかりしているからね。でも少し厳しすぎる部分もあるから、ソフトな対応で君に期待しているよ」


「はい!」


快く返答したスピカは、前々から少し気になっていたことを口にした。


「そういえば……サムライ訓練施設は何か出し物をしないのですか?」


「あそこは師匠の気分次第かな」


シリウスが答えると、スピカはもう一人気になっていた男子生徒の名前を挙げた。


「あの……アルタイルさんって、どんな方ですか?」


「彼が気になるの?」


シリウスのアクアマリンの瞳が、スピカのターコイズの瞳を覗き込む。


「以前ご挨拶に伺った時、すごく睨まれたので……」


スピカの率直な返答に、シリウスはフッと微笑んだ。


「彼は訓練に集中していたんだろう。武骨だが悪い奴じゃないよ」


そして、シリウスはスピカに本日の指示を出した。


「今日はルスカ副会長と一緒に、各出展の進捗具合と問題がないかのヒアリングに行ってきてほしい。ついでに、サムライ訓練施設への挨拶と出展についても聞いてきてくれるかい?」


「はい」

(副会長と二人で行動するのは初めてだわ……)


スピカは少し緊張した面持ちになった。

ルスカが立ち上がり、スピカに声をかける。


「ではスピカ庶務! 参ろうか!」

「はい!」


スピカはルスカの背中を追って生徒会室を後にした。

◇

部活動施設棟へ向かう途中、ルスカが重厚な声で歩み寄りながら話しかけてきた。


「スピカ君! 君は学年集会の自己紹介の時、『好きな食べ物はカレー』とだけ答えたそうだね」


「あ……はい」


「それは前人に倣って空気を読み、あまり出しゃばった印象を与えないための行動と受け取ったが……合っているかな?」


(((プロファイリングされてるーーー!?)))


スピカは内心で冷や汗を流しながら答えた。


「あ、はい……そうだったと思います」


「そうか」

ルスカはご満悦の様子でニッコリと満足そうに頷いた。


(その満足そうな顔は何なの……?)

と内心で思いつつも、スピカは学園祭の話題へと切り替えた。


「各予算も決まって、学園祭の準備も本格的になってきましたね!」


「あぁ。我々のこれからの働きも、決して疎かにすることはできんぞ!」


「はい!」

◇

二人は『魔法生物部』の部室へ足を運んだ。


「うーーん……困ったぞ……」


展示スペースの片隅で、魔法生物部部長のサムが頭を抱えていた。


「どうかしましたか?」


スピカが声をかけると、サムは救いを求めるように振り向いた。


「生徒会の方々! これは良いところへ……! 『トグへもんの占いの館』と称してミスター・トグへもんの特別展示室を設置する予定だったのですが、予算減額のせいで彼の展示スペースが厳しい状況なのです。……予算の増額か、展示スペースの拡張をなんとか認めてもらえないでしょうか!」


切実に訴えるサムに対し、ルスカは威厳たっぷりに一刀両断した。


「すでに実行予算は決定している。どちらも認められん」


そして――ルスカは恐ろしい代替案を口にした。


「……トグへもんを鎖で繋いで、廊下に展示したらどうだ?」


ガ―――ン!!


『鎖』というワードを聞いた瞬間、奥にいたトグへもんは激しいショックを受けた。

「…………!?」

一瞬絶句したスピカが、大慌てで声を張る。


「そ、それではトグへもんさんが可哀想なのでは……!?」


サムも必死に追随した。


「そうです! それはミスター・トグへもんに敬意を欠く行為であり、あまりに不当です!」


その時、部室の奥から他の部員が明るい声を上げた。


「部長! 他の魔法生物を立体的に配置すれば、ミスター・トグへもんの展示スペース、なんとか確保できそうです!」


スピカはほっと胸を撫で下ろした。


「良かった! これでトグへもんさんを鎖で繋ぐ必要はありませんね!」


しかし、ルスカの意志は『鋼鉄』だった。


「いや! トグへもんは鎖で繋ぐように」


「そんな!? あまりに酷すぎませんか!?」


サムが叫ぶと、ルスカは別の持論を展開し始めた。


「トグへもんは我が学園の貴重な魔法生物だ。外部から盗まれないとは限らんからな」


(盗むって……誰がこんコワモテな怪物くんを盗むのよ……)


困惑するスピカの横で、トグへもんが涙目で訴えかけてきた。


「スピカちゃん……僕、鎖で繋がれたくないよぉ……」


スピカは必死に折衷案を提示する。

「見張りを常に誰か一人つける、とかではダメでしょうか……!?」


「だめだ! トグへもんは鎖で繋ぐこと。守らなければ予算は下ろさん!」

ルスカの意志はどこまでも頑固だった。


(この人……一度言い出したら絶対に自分の意見を曲げないタイプだわ……!)


サムがスピカの耳元でコソコソと囁く。

「僕はただ、ミスター・トグへもんの素晴らしさを大勢に知ってもらいたいだけなんだ……! スピカ君、なんとかしてくれないか……!?」


「あとで会長にも相談してみます!」


「頼むよスピカ君……!」

◇

他の展示の確認を終えた後、二人は『サムライ訓練施設』へと足を運んだ。


サムライ施設の師匠であるデューク・サナダが、二人を笑顔で迎えた。


「おや、見学かい?」


スピカは身だしなみを整え、丁寧にお辞儀をした。


「初めまして! 前もお伺いしたのですが、訓練に集中なさっていたようでしたので……本日はご挨拶と、学園祭の出し物についてお伺いに参りました。」


「私、このたび生徒会役員に就任いたしました、スピカ・マセットと申します!」


サナダは優しく微笑んだ。

「これはご丁寧に。もうじき大弓の訓練も終わる。お茶でも飲んで待っていておくれ」


「はい!」

(……ここのお茶は惚れ薬とか入ってないわよね?)


応接間に通されると、サナダが弟子を伴って現れた。


「改めてご挨拶を。私はサムライ訓練施設を預かっております、デューク・サナダです。そしてこちらが弟子のアルタイルです」


美しく格式高い所作でサナダが紹介すると、背の高い大柄な美丈夫が恭しく頭を下げた。


「お初にお目にかかります。アルタイル・バロワと申します」


「スピカ・マセットです。お会いできて光栄です!」


スピカは少し微笑みながら付け加えた。

「実は……『初めまして』ではないんですよ。」


アルタイルはキョトンとした表情を浮かべる。

「……そうでしたか?」


「以前ご挨拶に伺った時、訓練中のアルタイルさんに思い切り睨まれました!」


スピカが笑い混じりに明かすと、アルタイルはハッとして、屈託のない爽やかな笑顔で頭を下げた。


「あぁ……! 訓練中とはいえ、貴女のようなお方を睨みつけてしまうとは……大変失礼いたしました!」


(あ……すごく感じの良い素直な人だな)


スピカが好印象を抱いていると、横からルスカが本題を切り出した。


「ところで、サムライ訓練施設は学園祭に何か出展されますか?」


サナダがニヤリと笑って答える。

「こいつがここで、一人で『立会い』をする!」


「えっ!? 今初めて聞きましたけど!?」


アルタイルが目を見開いて叫ぶが、サナダはお構いなしに続けた。


「参加者は学園内外を問わん。こいつに勝った者が、新しいサムライ候補じゃ!」


「ええーーっ!?」


すかさずルスカが深く頷いた。


「その旨、承りました」


(なんかアルタイルさん、めちゃくちゃ大変なことになってない……!?)


スピカは哀れな好青年の行く末を密かに案じたのだった。

◇

生徒会室へ戻り、ルスカがシリウスへ報告する。


「戻ってまいりました」


「ありがとう、二人ともご苦労様」


「私は本日の決定事項をまとめ、報告書を提出したいと思います」


「よろしく頼むよ」


ルスカが報告書作成のため隣の部屋へと移動したのを見計らい、スピカはすかさずシリウスの元へ歩み寄った。


「あの……会長、魔法生物の展示のことでご相談が……」


スピカが事の経緯を説明すると、シリウスは静かに話を聞き、優しく頷いた。


「なるほど。ふふっ、その件は僕に任せておいてくれ」


間もなくして、完成した報告書を手にしたルスカが戻ってきた。


「シリウス会長! 報告書です!」


「報告書をありがとう、ルスカ。いつも明確で分かりやすい資料だね、助かるよ」


シリウスはサラリと報告書に目を通すと、ルスカへ朗らかに話しかけた。


「ルスカ。トグへもんの鎖の件だけど、部員が常に付き添っていれば『鎖は必要ない』と僕は考えるよ。それで良いかな?」


すると――あれほど頑固だったルスカが、間髪入れずにその場で深々と平伏した。


「仰せのままに!! その旨、直ちに魔法生物部へ伝達いたします! では!」


ルスカは風のように立ち去っていった。


(第一王子への忠誠心が凄すぎ!前言撤回が早ーーい!!)

スピカは安堵して胸を撫で下ろした。

(良かった……!)


シリウスがスピカに温かい視線を向ける。


「助言をありがとう、スピカ。ミスター・トグへもんはこの学園に代々受け継がれている筆頭魔法生物だ。敬意を欠く対応はできないからね。それに……トグへもんを鎖で繋ぐなんて可哀想だろう?」


「はい! 本当にありがとうございます!」

スピカは満面の笑みでシリウスにお礼を言った。

◇

『魔法生物部』――。

何故か全身を分厚い角質で覆われた男(クマムシマン)が、ガッチリと重厚な鎖で繋がれていた。


ジャラリ……。


「……何故?」


クマムシマンの切ないつぶやきが、静かな展示室にむなしくこだましていたのであった。

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