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花火  作者: あさひ
第一章 しかけは爆弾です
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しかけは爆弾です⑥



――――おはようございます。


 この動画を観ているあなたがた。

 今、朝焼けですか、夕暮れですか。

 それがいつであろうと、挨拶のはじまりはおはようございますに尽きる、というのが、私のポリシーです。


 この動画は、識別IDからリード数を取得しておりますので、中断することは推奨いたしません。それはあなたにとって、大変好ましくない状況をもたらします。人生というマスに割り振られた時間の価値がわかる方なら、最後まで観ることをおすすめします。

 

 それでは始めましょう。第一幕の開演です。


 あなたは働いていますか。この先五年以内に、あらゆる仕事が消滅する、と予測付けたダボス会議。それに先だって類推する本が多数刊行されています。


 職に貴賎なし、という言葉が古くからありますが、現代の第四次産業革命は、ブルシットジョブという、クソどうでも良い仕事とカテゴライズされる仕事を、AIにやらせようとする企みがあります。


 AIであれば不眠不休で働いてくれる。

 そのランニングコストの安価さは特に顕著です。

 事務仕事のような、銀行窓口係、会計士、弁護士、またはトラックやタクシーの運転手など、起点と終点がはっきりしており、マニュアル化と親和性が高ければ高いほど、ChatGPTのような生成AIや、シェアリングエコノミーも兼ねた自動運転車で代替できるようになる。

 卑近な例に、ゆりかもめなどがありますね。



 わざわざ人間が行う仕事は、AI技術の指数関数的成長率に反比例して、どんどん少なくなってくると予測されています。その確率は、九十パーセント以上です。


 すでに所有する時代から、共有する時流へシフトしている自動車は、日本国内だけで稼働率は三分の一、残りは駐車場に眠ったまま。


 とはいえ、まだまだ公認会計士などの需要高から、今年の試験受験者が過去最高に達したとする報道もありますし、ホワイトカラーが少なくなるというだけで、ロボットやAIでは代替出来ないだろう、と言われるおもてなし産業は残る可能性が強い。


 ホスピタリティに携わるような、看護師、介護士、美容師、風俗産業などの仕事は、AIと互換性が低く、また、ブルーカラーのような、手先を細かく扱う仕事に関しても、現行のロボット技術ではいくらも再現できないと言われています。


 3Dプリンターをアフリカの砂漠にドローンで運び、広大な砂漠を建築材料として学校を建てた。

 AIスピーカーが顧客の膨大な量のデータを記録し、毎月コンスタントに購入しているような生活必需品を把握、無くなる頃に、ピンポンと家のチャイムが鳴り、ドローンが置き配でトイレットペーパーを運んでくれる。


 IOTの普及から家はスマート化し、朝トイレで用を足すだけでその日の健康状態を便器が教えてくれる。

 コンビニは無人化し、棚から取った商品を、持参したカバンに直接入れてそのまま店を出れば、どのユーザーがどの棚からどんな商品を持ち出したかを、無数に配置されたセンサーが検知、電子決済でチャリンと会計が行われる。


 一見すれば万引きが行われているように見えて、万引きが行えないシステムです。


 従来、大規模なマンションの改修工事などのタイル補修は、調査の為に全体に仮設の足場を設け、人の手で打音し、浮きやひび割れなどの箇所を特定するという、コスパの悪いものでした。

 

 それがいまや、ドローンで赤外線を照射、劣化している当該箇所だけに足場を設けるなど、逸早く傾向を掴み、積極的に取り入れているゼネコンもあります。


 AIが代わりに働いてくれる。

 人が行う仕事はどんどんと減ってくる。

 そうなると、仕事を失ってどう生計を立てていくのか、経済活動はいかにして回していくのか、喫緊の問題が浮上します。


 おしなべて持ち出される錦の御旗は、歴史古くから概念化していて、既にヨーロッパなどでも試験導入されている、ベーシックインカムというメディシンです。


『生きている事に賃金を』と銘打たれたこの保障制度は、全ての国民に、分け隔てなく、同一同様の賃金を、属する国家によって支払うというものであり、生活保護のような行政審査も、後ろめたさもありません。


 聞いていれば夢みたいですね。嫌いな仕事はやらなくても良い、仕事を好きな人だけが働く。

 もちろん、財源というその原資問題にぶつかり、議論の進みにくいテーマでありますが。


 ユニコーン企業というのをご存知ですか。

 AIやロボットが普及し始めている第四次世代。シリコンバレーに本社を置くGAFAが瞬く間にあらゆる企業価値を追い抜き、今では時流を作り出しているとも言えます。


 十秒で検知、十分で調査、六十分で封じ込めという新進気鋭のクラウドセキュリティ。

 サブスク九〇〇円程で導入できる、時価総額五〇〇億というユニコーン企業のシューティング。

 ありとあらゆる企業のプライベートな部分、個人情報などの情報を保護するサービスも展開しています。


 そこの顧客データを、拝借いたしました。言わずもがな、あなたがたはそこの顧客という事になりますね。

 セキュリティ意識の強さが裏目に出た事態となりました。

 不落といわれる城は、良くも悪くも表舞台に出る事で、かえって敵愾心をあおり、皮肉にも敵の戦力を増やします。


 そこから、個人名、マイナンバー、電話番号、住所、紐付けされた口座から、今ではあなたがたの現在地、顔、病歴、家族構成、勤務先、愛人の有無、行きつけのバー、寝る時間、ひいてはあなたがどんな物を好み、どんな嗜好をもつのかまで、リアルタイムで確認できます。


 出来ないと思いますか。


 時に、あなたは映画を観ますでしょうか。米国で一強のNetflixでは、あなたがどの俳優を好むか、どんな物語を好むかをレコメンデーションし、見るたび毎にあなたの好きな俳優をサムネイル表示させ、一人一人に合わせたエンディングを観させている事はご存知でしたか。


 ビッグデータというのは一度野晒しにされてしまうと、たちまち拡散し、収集がつかなくなるという脆弱性を孕みます。


 

 さて、あなたがたは選びました。

 あなたがたの論理と恣意の対立を以って、タロットの正位置と逆位置のように。正に振れようとした振り子が、負に同じだけ振れようとするように。


 愚かな自分を殺し尽くす為には、愚かな自分を許容し、根気よく導く必要があります。


 満二十歳。日本国籍。あなたがたです。


 来たる八月七日、笛吹川下流で催される神明の花火大会。観客二十万人に二万発の花火。


 そのうち有料観覧席のチケットを、私の方で用意しました。

 それを一人につき一席、差し上げます。費用は一人当たり五千円。遠慮することはありません。

 

 本来であれば、見所のある席。

 その用意した二万席全てに、しかけがされております。



 しかけは、爆弾です。大奮発して二万発、一人につき一発、用意させていただきました。この動画の最後に、座席権の番号確認ができるフォームを貼り付けてあります。


 確認後、しかるのちじっさいに指定席からご観覧ください。


 無論、行かない、という選択肢はおすすめできません。あなたがたが現在保有している携帯のGPS、SNSのアカウント、メッセージの送受信、発着信履歴、電子マネー、全て筒抜けであります。


 また、電源や回線を遮断されることや、およそ不審と思われる嫌疑的な言動を確認した場合には、私の友人がお手伝いに向かうことになりますので、あしからず。


 とはいえ、私も人の子です。

人間というものは一人では生きていけないものだと、返す返す身に染みております。


 そこで、あるアプリをあなたがたの携帯にインストールしておきました。マッチングアプリのようなものです。


 登録者は全員、座席権を持つ者です。ある一定距離近づくと、お互いの現在地が表示される仕組みになっており、その権利を、譲渡可能とします。

 譲渡された側が、複数の座席権を持つことになるわけですが、どれか一つの指定席に座って貰えれば、譲渡した側は解放されます。

 ええ、端的に言えば、『身代わり』ですね。もちろん、相手が承諾する事が大前提です。あなたの代わりに木っ端微塵になってもらうわけですから。


 それともう一つ。

 さらに、スワイプを繰り返していると、「鍵屋」「玉屋」というハンドルネームのアカウントが稀に出現します。そのアカウントをタップすると、それぞれの現在地がリアルタイムで紹介されております。


 接触して、「鍵屋」「玉屋」捕まえた、とコールしてください。それであなたがたは解放されます。正真正銘の自由です。


 生きたければ、身代わりを。

 生きたければ、命のコールを。


 残り六七時間。第一幕は、以上で終演となります。それでは、また――――


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