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花火  作者: あさひ
第三章 八月六日
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八月六日⑥



「追い詰められた時、まじで終わったなって気持ちだった。あいつはやべえ。あいつが目の前に来た瞬間、情けねえけど膝が震えてたと思う。それだけで十分、動画の内容が本物だと思わせる圧力があった」と岩木は唾を飛ばす。


「だとしたらさっきの女性も危ないんじゃないか」


 三上はる菜と言ったか。

 明日までに身代わりを用意出来なければ、爆弾がしかけられた椅子に座る。

 逃げようとすれば不審な男が追って来る。現在地も顔も割れてる。

 岩木の話が本当なら、対峙するだけでもトラウマになるほどのロシア人。捕まるとどうなるのか、考えたくもないようだった。


 要求がわからない。いや、爆破することが目的なだけで、そもそも逃げ道を作ってない。

 身代わりだと。ヒトの命を嘲笑うような内容に心底ふざけるなと思う。


「どんな奴なんだ。そのロシア人ってのは。写真は無いのか」

「おっさんに見せてなんか変わるのか知らんが」携帯に目を向けて岩木は言った。


「いやいや、おい、待てよ」訝しげに画面に顔を近づけていく。


「なんだ。どうした」


「おれたちってそんな会話してたか? せいぜい三十分位だよな」画面から顔を離さない。おとがいが一段と赤く腫れていた。


「それがどうした」

「女と会った時は、まだ戸塚だったんだ」明らかに動揺して落ち着きがない。


「誰の話だ」

「ロシア人だよ。ロシア人」


 大涌谷から戸塚までのルートを、頭に浮かべた。

「戸塚からなら空いてても一時間半は掛かるだろう」

「いや、すぐ上に居やがる。しかも二人組だ。くそ。道路は真っ赤なのに、なんでこいつらだけスイスイ動いてんだ」


 画面を覗くと、赤い点が二つ寄り添うようにして動いている。箱根山に南下しているようにも見え、かなりの速度で青い点に近づいて来ている。


「ありえねえ。速すぎる」画面から顔を上げ、駐車場の方へ視線をやったかと思うと、「そういうことかよ」と言って岩木は急に駆け出した。


「おい、何処に行く」と追いかける。


「バイクだよ。あいつらバイクで来てやがるんだ」焦るように言い、隅に区画された駐輪場の方へ向かっている。


「待て、女性はどっちに行ったんだ」


 岩木の逼迫した状況を考えると多少情を引かれるが、それでも暴行を働いたのが印象を悪くしている。

 やはり女性の方が気がかりだ。


 駐輪場に辿り着くと、バイクの間を縫うように鍵の着いたバイクは無いか探しているようだった。


「んな都合よくある訳ねえよな。くそ何かねえか」


 岩木の肩を掴み、聞く。顔色がますます悪くなり、汗を異常に掻いていた。


「三上って女性は平気なのか」


 んだよ離せよと携帯をまた確認すると「おいおい、まじかよ」と目を開いている。


 画面を見ろと向けて来た。

 赤い点が、青い点のすぐ傍まで接近している。


「あの女、もう捕まる」

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