セシリアはリリアナの異能と向き合う(後)
「リリアナ、貴女は本当に異能を使わないと誓える?」
勿論、誓える。けれど言葉をいくら並べ立てたところで私が周りを魅了したのは事実。なら、言葉をいくら飾り立てたところで意味なんて無くて、私はただひたすら行動で証明し続けるだけだ。
「はい。約束します」
「……そう」
お姉様はここで初めてグラスに注いだ水に口をつけた。お茶やお菓子に手を付けない事は前にもたまにあったけれど、理由は様々だ。「歯を磨いたから」「余計な食事は控えているの」が主だったっけ。
「そんな装備で大丈夫なの?」
「大丈夫です、問題ありません」
「リリアナの異能は、学園に通っている間にシュタイナー公爵家の宝具で抑え込めるレベルを超えてしまうかもしれない。そうなったら通っている男子生徒はリリアナの虜。過去の悪夢の再来だわ」
「ロゼリア様は私たちと同じ年ですから、一緒に学園に通うのだそうです。もし私に何かあったら……」
その時は、前回のように私に一生残る紋様を刻み込んで、異能を永遠に封じるしかない。そしてこの利き目ともおさらばだ。
勿論恐ろしいし怖い。けれど私に心奪われる皆の姿は私の絶望そのものだ。
なら、私がどんなに傷つこうとも、やむを得ない。
私はそれだけの覚悟を持って今を生きている。それはお姉様にも否定させない。
決意を表明しようとして、その前にお姉様は察してくださったようだった。口を開きかけたのをお姉様が手で制する。
「どうしようもない時は、侯爵閣下に一番良いのを頼めばいいから」
「一番良いものを、ですか?」
「ええ。それがリリアナの希望になるでしょう」
「……分かりました。覚えておきます」
ただし、とお姉様は付け加える。
私に親身になってくれる姉から公爵家の娘へ、そして王太子殿下の婚約者である令嬢へと変わる。
私を見据えるお姉様の目が、鋭く光った。
「もし約束を破ったら、容赦しないわ。たとえ異能を持っていたとしても、私にはいくらでもやりようがあるから」
前回それで私を見事排除したお姉様の言葉だ。確かな重みがある。
それはお姉様曰く役者が代わっても変わりやしない。
「約束します。私は異能を使いません」
「……。その言葉、信じるから」
その返答は、疑われたり信じられなかったよりも、私に重くのしかかった。
責任重大だ。お姉様の信頼を裏切るわけにはいかない。
お姉様に失望されるのが嫌だし、自分自身が許せなくなるでしょう。
「それじゃあ、夕食までは自室でくつろいでらっしゃい」
「はい。それではまた後で、お姉様」
お姉様に背を向けながら、私は思った。
セシリアお姉様はまだ私を完全には信用していない。それでも、警戒しつつも私と向き合ってくれる。
引き続き時間をかけて、少しずつ、信頼を築いていくしかない。
窓の外を見るとすっかり暗くなっていて、月が昇っていた。
今日は、楽しい一日だった。
ヴィクトール様やロゼリア様との湖畔の散策はとても有意義だった。
やり直し前には考えられなかった。多分前回の私に説明したところで絶対に信じてもらえないだろうな。私を処刑した人と、こんなふうに穏やかな時間を過ごす日が待っている、だなんて。
でも……今は、侯爵様との時間が楽しみになっている。
それは、封印の確認のためとか、ロゼリア様のことだけじゃない。
なんというか、ただ、一緒にいると……心が安らぐんだ。
「これって、まさか……」
いえ、違う。きっと気のせいだ。
私はただ、侯爵様に感謝しているだけだ。異能を封じてくれて、ロゼリア様との友情を許してくださって。前回を通じてもここまで親しい間柄になった人なんていなかったものだから、浮かれているだけだ。
それ以上の感情なんて……。
でも、胸の奥が温かい。
侯爵様の横顔を思い出すと、どうも心臓が早く鳴る。
「……どうしたんだろう、私」
窓に映る自分の顔を見る。
頬が……ほんのり赤く染まっていた。
惚気、まるで私に魅了された殿方を映したかのようで……。
やめなさい、リリアナ。
その感情を抱いてはいけない。
侯爵様は、職務として私を監視しているだけ。
それから妹のため付き合っているだけだ。
自惚れも勘違いも、しちゃあいけない。
それにまだやるべきことがある。
王立学園に入学して、誰も傷つけずに卒業する。
それが、私の目標。
今はその恋愛と言うべき感情に浸るわけにはいかない。
でも……。
「また、来週会えるかな……」
小さく呟いて、私は自室のベッドに横になった。
窓の外で、秋の虫が鳴いている。
静かで、穏やかな夜。
私の二度目の人生は、少しずつ、確実に、良い方向に進んでいる。
そう信じて、目を軽く閉じた。
これでようやく折り返しを迎えました。
ご意見、ご感想お待ちしています。




