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◆セシリアは婚約者を選ぶ(前)

 さて、じゃあ私の身の振り方を考えるとしましょう。


 この世界の元になった乙女ゲームだと、私の立場はヒロインを妨害する悪役令嬢役。その役柄に相応しく、正統な公爵令嬢かつ第二王子の婚約者って肩書付き。優秀で優雅だけど高慢で、ヒロインを事あるごとに見下す……なんて役満キャラね。


 運命を覆したければ、ヒロイン役のリリアナを舞台上から蹴落とせばいい……って考えは浅はかね。劇そのものが成り立たないなら、代役をあてがわれかねない。そんな未知のルートに踏み込むのは、あまりにリスクが高すぎるわ。


 今のところリリアナはヴィクトール様と交流を深めているようね。彼女がヴィクトール様に狙いを定めているのか、魅了の異能を完全制御してゆくゆくは他の攻略対象者に唾を付けようと目論んでいるのか、は現時点では不明。


「やっぱり、現時点だとリリアナを注視するしか無いのよねぇ……」


 彼女がこのままヴィクトールルートに注力するなら良し。公爵家を意のままにする様子は無いから、今のままだったら無害だと判断出来る。もし他の攻略対象者をたぶらかすようなら……その時容赦しなければ遅くないでしょう。


 問題は、私自身がこのままでいいのか、ね。


 公式設定から逆算すれば、私が第二王子ことクラウス様と婚約関係になるのはもう間もなくのこと。舞台背景を整えるのならこの婚約は不可避。お父様は王家との婚約には積極的だし、私も今のクラウス様に文句はない。


「問題は、いずれリリアナの虜になるって分かってる男とこのまま添い遂げたいか、なのよねぇ」


 原作においてはバッドエンドにならない限り、クラウス様はヒロインの味方であり続ける。逆を言えば、私がリリアナを破滅させない限り、クラウス様は私の敵に回ってしまうわけよ。


 はー? 信じられないわ。百歩……いえ、百万歩譲って婚約関係を解消してからヒロインに傾倒するなら構わないけれど、私との関係を維持しつつヒロインの肩を持つとかありえないんだけど。


 ヒロインの持つ魅了の異能は原作でも一部のルートでしか猛威を振るわない。つまり、クラウス様は素でヒロインに惹かれ、私を嫌うようになる。こんな他の女に入れ込むような男と婚約ですって? 冗談じゃないわよ。


「あちらが立てばこちらが立たず……。どうしようかしら?」


 ヒロインに惚れる前のクラウス様はマシだから、今のうちから私だけを見るように教育するのが無難なのかしら。それとも初めからクラウス様は捨て駒にして、次の男に目星を付けたほうがいいのかしら。


 まあ、とりあえずクラウス様との顔合わせを終えてから考えましょ。


 そんなわけで、婚約日当日。私はお父様と共に王宮へと向かった。

 謁見の間で跪いた私たちの前に国王陛下がおなりになり、王座へと座る。

 王国を統べるに相応しいお方なのだけれど、クラウス様をあんなふうに育てたのよね、と考えると、かなり複雑ね。


「よくぞまいった、エルフリート公」

「国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう」

「今日呼び出したのは他でもない、我が息子とそなたの娘セシリアとの婚約を結ぶためだ」

「ありがたき御言葉。今後王家とエルフリート家はますます固い絆で結ばれることでしょう」

「しかし、是が非でも進めたいほどでもない。王国へのエルフリート家の忠誠は、もはや必ずしも家同士の婚約を必要とするほど希薄ではないのだからな。そこで、今日は顔合わせの場を設けた。当人同士の相性を確かめ次第、この婚約を進めるか否かを決めるとしよう」

「畏まりました」


 と、こんな風に国王陛下とお父様はやり取りしているけれど、実のところ本当にこの言葉通りだったりする。ここで私が嫌だ嫌だと泣き叫べばこの話は無かったことになる。最も、王家との婚約を強烈に拒絶した娘、って一生物のレッテルを貼られることになるけれどね。


「さて、堅苦しい礼儀はここまでにし、中庭に向かうとしよう。既に后や息子たちが待っている」


 国王陛下や護衛の王宮騎士たちと共に中庭へと向かう。原作だと回想シーンも無い設定限りな描写だったけれど、この後第二王子と私が、共に王国を支え合おうって意気投合するのよね。それから段々と関係を深めていく、と。


 中庭で私たちを待っていたクラウス様は、さすがに原作やアニメのような二次元的な格好良さは無かった。代わりに、俗に言う2.5次元舞台の俳優のごときイケメン具合に加え、王家の一員としての風格まで兼ね備えていた。


(おー。確かにこれは眼福ね。巷の女性が夢女子ものに傾倒するのも頷けるわ)


 前世を思い出してから初めてお会いする王妃陛下は、女が羨む美人だった。お母様やマリアも充分美しかったけれど、ちょっとレベルが違う。確かに愛らしさはマリアが勝ってるわ。けれど陛下は気品が半端ない。さすがは国母、と自然と納得してしまう程に。


 中庭のテーブルを囲っているのはクラウス様と王妃陛下の他、もう一人。私は彼を確認しようと視線を移して……目を、いえ、心を奪われた。彼をこの瞳に映してから、もう他のものが見えなくなってしまったかのようだった。


「王太子殿下、エドヴァルト様……」


 その宝石のように光り輝く凛々しい目、小麦畑のように黄金色に輝く輝く髪、すらっとした鼻、軽く結ばれた潤う唇、細身ながら鍛えているのが分かる身体付き、座高から判断できる長身。どの要素を掻い摘んでも彼の魅力を語ることになる。


 これは……ちょっと次元が違う。

 胸の高鳴りとか顔が熱くなるのとか、普段の私からは考えられない反応が出る。

 前世では友達に一目惚れしたとか報告されても全く理解出来なかったけれど、謝りたい気持ちでいっぱいだ。


 けれど、すぐにいけないと自分を戒めた。

 一目惚れの危うさは前世で身に染みて分かっているのでね。


 ある友達は熱しやすく冷めやすかったせいで、彼氏とは一年未満で破局した。ある友達は衝動買いしたブランド品をいつの間にか他の友達に売ってた。


 まずは踏みとどまって様子見するのが重要。これが教訓よ。


「……失礼しました。ロゼリア・エルフリートより王妃陛下ならびに両王子殿下にご挨拶申し上げます」


 エドヴァルト様に気を取られるのもつかの間、私は恭しく頭を垂れる。王妃陛下が私の挙動を見逃さなかったか否かは判別がつかないけれど、表向きは気分を害した様子もなく微笑んでくる。


「よく来てくれたわね、セシリア。そんな堅苦しい席じゃないから、遠慮せずにそこに座りなさい」

「畏まりました」


 一礼して腰を落ち着かせる。お父様は国王陛下がお座りになられてから最後に席についた。

 王妃陛下は使用人に命じて、後からやってきた私たちの分のお茶を用意させた。先程の感情を紛らわせる意味もあって、私はお茶をゆっくり味わう。


「さて、セシリアを息子の婚約者に指名した理由は、今更説明するまでもないわね。どう、引き受けてくれるかしら?」

「ありがたいお言葉ですが、まずはエドヴァルト殿下とクラウス殿下とお話させていただければ、と思っていました」

「勿論よ。これを飲み終わったらお邪魔虫は退散するとしましょう」


 この度の婚約の話が持ち上がったのは、お母様が王妃陛下と親しかったため。お互いの息子と娘を結婚させましょう、との約束を、お母様が亡くなった後も王妃陛下が律儀に守ろうとしているから。


 エルフリート公爵家ほど力を持つ貴族に王家の血筋を残したい気持ちは分かるわ。暫くの間王女を迎え入れていなかったし。疫病か天災でお家断絶した際も公爵家の者が王位を引き継げるよう、危機対策の側面もあるんじゃないかしら。


 で、よ。何が問題だったかって言うと、エルフリート家には私しか子がいなかったってところ。エドヴァルト様に嫁げば公爵家の後継者がいなくなってしまうわ。一方、クラウス様が公爵家に婿養子になれば問題無い。なのだけど、どうも王妃陛下を筆頭に私には前者を選んでもらいたいようなの。


 なんでかって? セシリア・エルフリートが優秀すぎたからよ-!


 転生を自覚して前世と比較して否応なしに分かったわ。

 この公爵令嬢セシリアは、才能が違いすぎる。


 私ったら天才なんじゃないか、って自意識過剰になってしまうぐらい頭の回転が早い。知識もスポンジのようにすぐ吸収するし、ダンスや礼儀作法も数回練習すればすぐに身についちゃうもの。前世が今世を知ったら妬むぐらい、セシリアのスペックは半端なかった。


 なもので、王妃陛下は私に公爵としてではなく、王妃として王国に貢献してもらいたいようなの。お母様はそれを素晴らしいと絶賛、お父様もお母様が望んでいたなら、と積極的ね。愛人との子、リリアナを後釜候補として迎え入れるぐらいに。


「よく来てくれたね、リリアナ。こうしてまた会えて嬉しいよ」

「そう言ってくださると私も嬉しゅうございます、王太子殿下」

「エドヴァルト、でいい。リリアナには是非そう呼んでほしい」

「はい……エドヴァルト様」


 じゃあどうして原作乙女ゲームではセシリアはクラウス殿下の婚約者になってるのか、って? それが王妃陛下の姑息なところで、エドヴァルト様かクラウス様のどちらを婚約者にするか、は私に決定権を委ねたのよ。


 原作乙女ゲームではセシリアはお父様やリリアナたちに反発して、公爵家を乗っ取られまいとクラウス様を選択した。あと、クラウス様がセシリアをべた惚れしたから都合がいい、と思ったのもあったようね。


 ……さて、今の私はどうするべきかしら?

お読みいただきありがとうございました。

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