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伯父の命により、高潔すぎて『聖人』と噂の男の元へ行く事になりました。  作者: すずみ
第二章 火は燃え滾り金は煌めきを秘める【上】
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6.赤一色の景色

 梓娟は久しぶりの青衣を翻し、翅楓に案内されながら上へと向かう階段を登っていた。


「川で拾って頂いてからというもの、翅楓様にはよくして頂いて、感謝しきれません」

「感謝なんていらないよ。体調が良くなって良かったよ」


 でも……と、翅楓が寂しそうに少し眉を落とす。


「本当に行くのかい延芳?あんたがいなくなったら淋しくなるよ」


 梓娟が翅楓の優しさに甘え、槭河宮にお世話になっている間に、気づけば十日は過ぎていた。

 今いる南方から北方へ向かう道のりはとても遠い。予想外の渡脈で、よりにもよって反対方向に来てしまったのだ。

 本当は早くここを立としていたが、一度は生死を彷徨った梓娟が直ぐに旅立つ事を翅楓は良しとしなかった。

 聞けばこの槭河宮は鳳南闊達の第二の拠点らしい。翅楓はまだ若いながらも、槭河宮の主人として数多の祓氏を従えていた。

 その責務からか、翅楓自身の気立ての良さと相成って、人の体調の変化を見る目は厳しかった。

 この渓谷の標高はかなり高く、峠を越えるだけでもそれなりの体力を要する。確かに弱った体では山を登る途中で倒れてしまいそうだ。

 こうして槭河宮で暫くお世話になり、体調が回復した今、ようやく立つ事を許された。

 そしてまず二人が向かっていたのは槭河宮の上層階で、方角は借りていた部屋の丁度真裏。宮殿の西側にある望楼だ。


「ほらあっちを見な」


 翅楓に言われるまま指さされた方向へと顔を向け、見えた景色に目を大きくさせた。

 指さしたのは渓谷の向こう。そこには果てしなく続く、赤い砂漠が広がっていた。


 ──あれが砂漠?砂が赤いわ。


 砂漠を実際に見るのはこれが初めてだった。

 建物はどこにもなく草木が生えてもいない。あるのは砂のみ。しかも平坦ではなく、所々にでこぼことしており、積み上がった砂で山が出来上がっている。それがまるで波を打つ海のように見えた。

 まさに砂の海。しかも砂は赤い色をしているので、これでは海は海でも火の海だ。


「南方最大の砂漠──炎陽砂漠えんようさばく。地底深くには霊獣朱雀が眠ってるって言い伝えがあってねぇ。その影響があるのかどうか、雨はさっぱり降らないから干上がってるし、常に燃えてるような暑さだから灼熱砂漠って呼んでる奴もいるよ」

「しゃ、灼熱?ここよりもずっと暑いの……?」


 南方の暑さにまだまだ慣れない梓娟は顔を引き攣らせる。


「そりゃ暑いさ」


 なんてたって灼熱だからね、と翅楓は笑う。


「私たちでもあの砂漠に行くとなれば気が引ける。でもここから西方へ行くとなればあの砂漠を越えなきゃいけない。灼熱の暑さで、偶にひどい砂嵐があるし、厄介な魔物も出るけど、まっ、大丈夫だろ」


 ──……全然大丈夫そうに聞こえないわ。


 さらりと不穏な話を追加された梓娟は不安と心配でいっぱいになっていた。


「なぁに暗い顔してるのさ、あんたは龍東万雷の祓氏だろ?北西の祓氏共と違って私らは飛べるんだから、砂漠なんてあっという間に越えられるさ」

「あ、ははっ、それもそうですね」


 梓娟は翅楓に合わせて笑う。


 ──これ全然大丈夫じゃなさそうだわ。


 本当は北方の祓氏なのだ。なので飛べる事など出来ず、しかも干上がっているというならば、万が一の手段である渡脈も出来ない…⋯元々使う気はさらさら無いが。

 それに厄介な魔物相手に、未熟な自分の剣技はどこまで通用するかも不安だ。

 梓娟は希望のない過酷な道のりを想像して既に心は折れていた。

 けれど北方へと向かうには方法は二つ。

 一つ、中央を通って真っ直ぐと北へと進むか。

 二つ、まずは西方へと向かってそのあと北へ進むか。

 もう一つ、東方を通る方法もあるのだが、今はその案は以ての外だ。

 もし中央を通る道を選ぶのならば、南方との間には行くを隔てるように嶮しい山々があった。

 たとえそれを越えられたとしても、今度は中央と北方の間に、通る者を阻むように深い森を通らなければならなかった。


 ──……中央だけば通りたくないわ。


 梓娟は震える手をぎゅっと握り締め、目を伏せる。あまりその順路を通りたくはなかった。

 なので西方から北方へと向かう事にし、翅楓にはただ『西方へ向かう』とだけ伝えた。

 翅楓は青衣を着る梓娟が東方ではなく西方へと向かう事に不思議がっていたが、目的は魔物狩りとでも解釈してくれのか、幸い尋ねてくる事はなかった。


「あぁ、そうだ。ついて来な。流石に手ぶらじゃあんたを外には出せないからね」

「え?」


 にっと笑う翅楓を不思議そうに梓娟は首を傾げた。

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