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25/27

25:このタワーは倒壊します

「東洋テレビです。いまカジノタワーに到着しました。現場はかなり混乱しています」

 突然テレビのワイドショーが中断して緊急中継の画面に変わった。

「はい、こちらスタジオです。いま、緊急映像を流しています。横浜にあります通称カジノタワーが火災という情報が入りました。いま、カメラは現場を映しています」

「横溝さん、画面で煙が見えますが、燃えているのはどのあたりですか?」

「はい、タワーで人のいる場所全部に煙が充満しているが確認できています」

「火災ということですが、何が燃えているのでしょうか?」

「わかりません、情報が錯綜していまして、猛毒の煙が出ているという情報があります」

「毒性の煙といいますと、テロの可能性が出てきますすが、その辺の情報は? 消防の方から何か情報が出ませんでしょうか?」

「はい、まだ消防からは情報がありません。いま確認中ということで」

「煙の情報はどこから入ったものでしょうか?」

「避難した観光客から出た情報です。毒性の煙で危険だとアナウンスを聞いた人がいるらしいです」

「はい、一旦スタジオにカメラを戻します」

「いろいろと話題のカジノタワーなんですが、午後二時に火災発生の情報が入りまして、移動カメラが横浜からの画像を引き続き流しています」

「事故なのか、あるいは何らかのテロなのか、引き続き画面の一部に映像を流し続けます」

 司会者がコメンテーターと話を始めた。

「ケガ人の情報は出ていないんですか? 火災でもテロでも人命にかかわることなら一大事なんですが……」

「あれっ、ちょっと画面に変なものが写ってます。なにか宇宙飛行士のような白い服に白いヘルメット、人が取り囲んで一緒に移動してますね。あれは何ですか? 消防の特殊部隊みたいに見えますね。……かなり大きな消火器みたいなものをしょっていますね」

 皆がロボットの存在に気付いた。

「横溝さん、横溝さん聞こえますか? いま画像に宇宙飛行士みたいな人が三人ゆっくり移動しているのが見えてるんですが、どういう状況でしょうか?」

「はい、こちらも確認しようとしていますが、消防ではないようです」

「えっ、消火器のような物を持って移動しているんで、消防ではないというと何なんですか?」

「えー、いま情報が入りました。あれはロボットです」

 スタジオが騒然となった。

「ちょっと訳がわからんな、あれがロボットだとして、消火器を持ってきているのに消防ではないって、どういうこと?」

「横溝です。消防隊はロボットについて全く情報がなく、どう対応してよいか混乱しています。

「消防が知らないというのは解せないな、あれが消防と関係ないと言われても」

「横溝です。いま、ある方からかなり確実な情報がはいりました」

「はい、伝えてください」

「あのロボット三体は、近くのコンベンションセンターで消防のデモンストレーションをするはずだったのが暴走してしまったという情報です」

「えーと、ますますわからなくなりました。その情報は確かなんですか?」

「はい、ロボットの持ち主からの情報ですから確かです。制御が利かなくなって止められなかったと言っています」

 司会者は困惑してコメンテーターに話を振った。

「金城さん、私、頭が混乱して整理がつかないんですが」

「あれがロボットという事を聞いて思ったんですが、いま聞いた内容から推測すると、たまたま近くで消防のデモをしていたロボットが、火事の警報を感知して自分で、というか人工頭脳が判断して、デモを打ち切って消火に駆けつけた……ということになりますよね」

「そ、そうですよね、だけど――いま、ロボットはすごく進化してると聞いてますけど――そこまで頭いいですかね?」

 スタジオで討論している間にR1とR2がタワーの脚に到達した。

「見て、ロボットがなにか始めた!」

 コメンテーターの声に皆が画面に注目した。

 R1とR2はそれぞれ海側の三メートルの高さのコンクリート構造物の上に消火器をセットした。同時にR4は救命カプセルを持って、建物に入っていった。

「もう一体は水色の大きなものを持って中にはいったぞ」

 すでに、ほとんどのテレビ局の報道カメラがタワーに前に揃っていた。各局は番組を打ち切り、特番に切り替えた。消防は火が見えないことと、ケガ人がいないことから、煙が消えるまで建物への突入は避ける判断を維持している。タワーの前はマスコミ、ヤジ馬が雑然と入り乱れて右往左往している状況だ。

 急にマスコミが一か所に集まり始めた。中心にはあの白さんがいる。

「白さん、タワーで何が起きたんですか? これは事故ですか、事件ですか?」

「白さん、テロだったとしたら、心当たりはありますか?」

「上の方の階に逃げ遅れた人はいないですか、確認はできてるんですか?」

 一斉にマスコミの質問が飛んだ。

「わかりません、私もなにが起きたか全然わかりません」白さんは動揺していつもの勢いがない。

 それを聞いて報道記者から追及が始まった。

「白さん、あなたは支配人でしょう、最高責任者が何も分からないって、ここにいていいんですか?」

「事故の状況の把握をしなければならない立場じゃないんですか?」

「あなたが一番先に逃げ出してきたって聞きましたけど、それって某国の沈没事故と同じに見えますが」

 沈没事故との類似性を持ち出されて、白さんは焦った。

「私は最上階にいました。それだから煙に一番先に気が付いたのよ。それで早く知らせようと思って急いで下におりたのよ」

「白さん、そう言いますけど、火災報知機が押された痕跡がないって消防が言ってました。

私はさっき消防に聞いたんですが」

「ああ、私は押さなかったね、煙がすごいから、だれかが必ず押すと思って」

「それともう一つ消防が言ってたのが、煙感知器も作動していないって事なんですが、それだと設備の不具合ってことになるんですが、それについてはどうでしょう?」

「それは大丈夫よ、ちゃんと消防の検査通ってるはずね」

「それが働かなかったわけですよ」

 マスコミの追及は続いている。

 突然スピーカーの音響が響いた。陽子は商業ビルの五階の窓からアナウンスを始めた。

「みなさん聞いてください! このタワーは一時間以内に倒壊します。危険です。残っている人はすぐに避難してください。繰り返します。このタワーは倒壊します」

「エーッ、」一斉に悲鳴が上がった。タワー下の広場は騒然となった。

 この様子は日本中に放映されていた。テレビはアナウンスする陽子と、インタビューを受ける白さんを同時に映し続けている。

「白さん、これはテロですね。あの女性に心当たりは?」

「知らない、私この女知らないよ。……」

「あっ、わかった。ハリーの仲間ね」

「ハリーがタワー危ないって嘘いってたでしょう。あの女ハリーの仲間よ」

「ハリーの件、蒸し返して、私を脅そうとしてるのね」

「あいつも犯罪者の仲間ね。警察、警察きてるでしょ、すぐ逮捕して、すぐに!」

 白さんが大声で騒ぎ始めた。

「警察も消防も来てますけど、煙が収まるまでだれも入れませんよ。もし有毒な煙だったら危険ですから」

「いまのところケガ人は出てませんから、あわてて突入する必要がないんですよ。逮捕するにしても煙が収まってからで充分ですから」

 陽子のアナウンスが変わった。タワーの危険性について述べ始めた。

「みなさん聞いてください。さきほど申しましたようにこのタワーは一時間以内に倒れます。だけどそれほど心配はいりません。犠牲者を出さないように準備しました。タワーは必ず海側に倒れます。私はこのあと全員の避難を確認するために最上階に戻ります。私はタワーと共に倒れますから、おそらく助からないでしょう。私はこの行動に命をかけています。

 命をかけてタワーを倒す理由は何でしょう? それは、このタワーが明確に欠陥構造であるからです。それはこのタワー倒壊が成功すれば証明されるでしょう。欠陥は太い脚の部分にあります。先日の台風では運よく倒壊を免れましたが、私は脚に亀裂が入っているのを確認しました。このタワーが次の台風で倒壊すれば、米国の同時多発テロを超える被害が出るのは明らかです。その欠陥の事実を明らかにするため、すでに少なくとも三人が命を落としています。山神先生、福田さん、田中さんです。私は四人目になろうとも行動します」

 テレビのコメンテーター全員、および日本中の視聴者すべてが陽子のメッセージに聞き入った。

「おおっ」メッセージの後、タワー下の広場では、大きなどよめきが起こった。

 ワイドショーでは再び討論の応酬が始まった。

『言ってることは筋が通ってる。だけど倒すっていうのがどうか? これは何とも言えないよな』

『これは恐ろしい決断だぞ、倒して、言ってる通りのことが分かれば、超ヒロイン。もし違ってたらテロの大犯罪人になる。……オレには絶対出来ないな。そんな勇気ないよ」

『アナウンスがしっかりしてるから頭に来てるわけじゃなさそうだ。確信をもってやってるのは確かだな』

『その前に、あのタワーをどうやって倒すの? あのロボットが運んだ消火器が実は爆弾?』

『いや、犠牲者を出さないって努力をしているみたいだから爆弾はないだろう」

『この状況で考えられるのはロボットしかないよな、だけどあのロボットの力で倒せる? 絶対無理』

 話が行き詰まったところで、突っ込むターゲットは白さんに戻った。

 現場では白さんが問い詰められていた。

「白さん、あの女性のメッセーはかなり理路整然としているんですが、聞いた感想はいかがですか?」

「いや、全然メチャクチャよ、私、ハリーの時から言ってるね、タワーはとんでもなく頑丈よ。壊せるわけないでしょ。あなた、いまの、この状況よ。どうやって壊すの? ロボット? はっはっは、ハネ返されるね。爆弾? 原爆もってきてもダメって言ってるでしょ。手も足も出ない。煙引いたらあの女、両手挙げて出てくる。これすごく大掛かりな冗談。あいつ気違いね」と、白さんがまた顔を真っ赤にして反論を始めた。

「画面見て! 」画面を見ていたひとりが叫んだ。

 ロボットは酸素とアセチレンのボンベのコックを開けた。

「パシュッ」ガスに火が付いた。

 R1とR2が同時に太い脚とその上のパイプ状の構造材を加熱しはじめた。猛烈な火炎と煙が上がった。

「見ろ! 火が出てる」

「えっ、あれは消火器だろう、逆じゃないか、消すんじゃなくて放火か?」

「いやっ、もしかしてガスで切断するつもりなんじゃないか」

 コメンテーターの意見が錯綜した。

「あんな原始的な方法であの太い脚が切れる? 厚さ二十センチもあるんだぞ、無理だろう」

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