第九話 友達の彼女にそこまでやる?
「すみません、愚痴っぽい事を言ってしまって」
「いえ。先輩も災難でしたね」
「まあ、そうですけど、私が余計な事をしたのがきっかけですので」
先輩も反省しているみたいだし、落ち着きを取り戻したようでよかった。
でも、皆川さんに対しては複雑な感情を抱いているんだな……嫌いではないけど、幸助の件だけでなくて、色々と付き合うのが厄介な子だと思っているって事か。
無邪気で可愛い子だと思っていたけど、さっきみたいな癇癪を起されると、やっぱりちょっと関わりたくないって気持ちは出て来ちゃうのも仕方ない気はする。
というか、幸助は皆川さんと付き合ってて、その辺は大丈夫なのか?
今のところ、上手くは行っているみたいだけど、皆川さんと付き合うのは色々と大変そうというか……家もあんなだし、苦労も多いと思うけど、よくやるよな。
何て思いながら、先輩と別れてもう一度、幸助たちの元へ戻ることにした。
「おお、いたいた。皆川さん、どう?」
「落ち着いて来たよ。会長はどうだった?」
「ああ、そっちも大丈夫。先輩も言い過ぎたって、反省していたわ。ただ、参考書は弁償してほしいって」
「だよなあ……」
皆川さんはソフトクリームも食べ終わり、公園のブランコで遊んでいたが、どうやら元気を取り戻したようだった。
「会長の持っていた参考書、何だっけ?」
「あー……確か、これだったかな?」
タイトルは覚えていたので、スマホで検索をかけて探すと、英語の参考書を破かれたようだ。
結構難易度高いの使っているみたいだな……そんなのはどうでも良いけど、これを皆川さんがおとなしく弁償してくれるかどうか。
「明日にでも持ってかないとな。途中の書店で買いに行くか」
「皆川さんに言った方が良いんじゃない?」
「でも、美緒は悪くないの一点張りでさ。おとなしく払ってくれるかな……」
皆川さんは俺達の会話なんぞ聞こえてないのか、呑気にブランコに乗っていたが、自分がした事、まさか理解出来てないのか?
(何というか……やっぱり、子供っぽい)
高校生とは思えないんだよな、彼女の言動も行動も。
正直、定員割れしていたとはいえ、よくウチの学校に入れたなって、今でも思ってしまう。
「まいったな……結構、高いな。宗太、ちょっといい?」
「何?」
「悪いけど、金貸してくれない?」
「は? いきなりなんだよ?」
何を言うかと思ったら、金を貸せって……今までこんな事を言ってきたことはなかったので、ビックリしてしまったが、幸助は気まずそうな顔をしながら、
「今、持ち合わせがないんだ。この参考書を買っちゃうと、美緒とのデート代が足りなくなるんだよ。頼む、半分の千円で良いから」
「…………」
何を言い出すかと思ったら、デート代が足りなくなるから、貸してくれだあ?
「あのさ、皆川さんが参考書を破ったんだから、皆川さんに払わせるべきだろう? 何で俺と幸助が出さないといけない訳?」
「そうだけどさ。美緒がおとなしく払う訳ないじゃん。おまけに美緒、今はそんなお金も持ってないし。今日だって、俺が全部持つから、これから映画行こうって言っちゃったんで……参考書買ったら、足りなくなるんだよ」
そりゃ、彼女が弁償するとは思えないけどよ。
だからって、幸助が……ましてや、何故俺がそこまで責任を持たないといけないのか理解できん。
俺だって別に金を持っている訳じゃないし……幸助、ちょっとおかしくない?
「お願いだよ、こんな事、頼めるのお前だけなんだって。後で美緒にどうにか立て替えさせるから」
それ絶対無理だろ? そんな頭を何度も下げられても……。
「ねーーー、幸助君、まだー? 早く映画観に行こうよー」
「う、うん! 今、行くわ」
「た、頼む」
「…………」
「じゃあ、行ってくるわ。今日は本当にありがとう」
「佐藤君、またねー」
結局、幸助に千円貸すことになってしまい、二人は手を繋いでデートに向かう。
俺は馬鹿なのかも……友達の頼みとはいえ、皆川さんのやった事をなぜ、俺が尻拭いせねばならんのか。
二人のラブラブっぷりを見て、ムカついてきてしまったが、そんな頼みを断れない俺も馬鹿なんだろうな。
何のメリットもねえのに。
「あー、佐藤君だ。おはよー」
「おはよう」
月曜日の朝になり、皆川さんが珍しく遅刻せずに、学校にやってきたので挨拶する。
「今日は時間通りだね」
「うん。美緒も、たまには早起き出来るようにならないとねって、幸助君に言われて。そうすれば、幸助君と一緒に居られる時間長くなって楽しいでしょうって言われてさ」
「へえ。偉いぞ、皆川さん」
「うん。えへへ……あ、そうだ。今日、会長にこれを渡して謝ってきなさいって、幸助君に言われたんだ」
「これは……」
皆川さんがビニール袋に包まれていた本らしきものを出してきたので、何なのかよく見てみる。
本屋の袋っぽいが……ああ、あれかな。
「ゴメン、ちょっと見せてくれる?
「うん」
皆川さんから受け取って、中身を確認してみるが、やっぱり会長が昨日買った参考書と同じ奴だ。
これで間違いない……よな? いかん、自信なくなってきたが、大丈夫だと思う。
「ありがとう。じゃあ、会長の所に行こうか。皆川さんも、あんなに暴れちゃ駄目だよ。会長も言い過ぎたって反省していたけど、皆川さんにもっと可愛くなってほしくて、ああいったんだからさ。だらしない格好をしたら、皆川さんの可愛さも台無しになっちゃうし、幸助にも嫌われるかもしれないだろ」
「あたしにー? うん、そうなんだ」
わかったようなわからないような顔をしていたが、うん……わかってないんだろうな。
もうそう思ったうえで彼女と接した方が良いのかも。
「あ、会長」
「佐藤君に美緒ちゃん」
「ほら、美緒ちゃん」
水谷先輩のクラスまで行き、皆川さんに謝るよう背中を押して促すと、
「昨日はごめんなさいー。これどうぞ」
「あ……み、美緒ちゃん。ありがとう。私の方こそ、ごめんなさい。昨日は言い過ぎちゃったわ。あれじゃ、怒ってもしょうがないですよね」
皆川さんは俺と幸助が金を出した参考書を会長に渡して、棒読みながらも謝ると、先輩もちょっと涙ぐんでそれを受け取って謝る。
うん、これでどうにか二人の仲は修復出来そうだ。
千円の出費は痛いけど……いや、これもいつかは皆川さんに払ってもらえないかなと思ったが、皆川さん、多分、俺も出した事知らないよね?
「美緒ちゃんは可愛いのですから、もっと身だしなみをキチっと出来れば素敵な女の子になれますよ」
「今の美緒は素敵じゃないの?」
「そ、そういう訳では……とにかく昨日はゴメンなさい」
皆川さんも中々、鋭い切り返しをしてきたが、先輩の言う事もわかるんだけどなあ。
せめて靴下とリボンくらいはキチっとしないとね……幸助も何も言わんのおかしい。
「ほ、ほら。皆川さんもそろそろ教室に戻ろう」
「うん。行こう」
と俺の手を取って、皆川さんと教室に戻る。
いや、俺と手を繋いじゃうのまずくない? こんなの幸助に見られたら……。
「み、皆川さん! もう手を離そうか」
「どうしてー? 佐藤君と手を繋ぐの美緒、好きだよ」
「いい? いや、俺は皆川さんの彼女じゃなくてさ……あ」
「…………」
教室の近くまで行き、流石にまずいと思ったので、離すよう促すと、矢口とバッタリ教室の前で遭遇してしまった。
「凪ちゃんだ、おはよー」
「おはよう。随分と仲いいじゃん、お二人とも」
「うん、佐藤君と仲良しだよ」
「こ、これはね……皆川さんがさ……」
ヤバ、これ絶対に幸助に知られちゃうじゃん。
皆川さんももうちょっと考えて欲しいんだけど、こんな手をがっしりと握っちゃってさ!




