第十話 幼馴染の嫉妬?
「あのだな、これは……」
「別に二人が仲良いのはどうでもいいし。じゃね。もうホームルーム始まっちゃう」
「あ、おい」
矢口にどうにか言い訳しようとしたが、そんなの聞きたくないとばかりの素っ気ない態度で教室に入ってしまった。
「凪ちゃんどうしたのー?」
「どうしたっていうか……ほ、ほら、皆川さん。そろそろ手を離そう。俺もちょっと恥ずかしいと言うか、幸助が見たら、怒るんじゃない?」
「んーー?」
と言って、慌てて手を振りほどいたが、皆川さんは相変わらずわかったような、わからないようなキョトンとした表情をして首を傾げるだけだった。
高校生にもなって、俺の言っている事が理解できないのか?
まさかね……恋人が自分以外の異性と手を繋いで歩くとか、普通に浮気でしかないわけだけど、いくら皆川さんだって、それがわからないはずはない。
そう思いながら、教室に入って行ったが、幸助も矢口も既に自分の席に着いており、その日は特に何事もなく放課後まで過ぎていった。
放課後――
「はあ……疲れた」
あの後、朝の事が幸助にバレやしないかとビクビクしながら過ごしていたが、幸助は本当に見ていなかったのか、そのことを俺に問い詰める事もなかったので、矢口もあいつには言ってないようだ。今のところは。
「ねえ、幸助君。今日は美緒と……」
「ああ、ゴメンな。これから、生徒会の集まりがあるんだよ。美緒、ちゃんと会長に謝ったか?」
「うん、佐藤君と一緒に謝ったよー」
「へえ、宗太と一緒にね」
「佐藤君、美緒と超仲良しだもんね! ね!?」
「あ、ああ……」
皆川さんに大声で念を押される様に言われてしまったが、だから彼氏の前でそういう事は言わない方が……。
「ははは、良かったな美緒。宗太は良い奴だから、困った事があったら、あいつにも遠慮なく相談しろよ。な、宗太?」
「うん……俺にできる事なら力になるよ」
「いや、助かるよ。昨日もサンキューな。それじゃ、俺は生徒会室行くから」
「また明日ねー」
昨日の参考書のお金、結局、皆川さんが払って……くれそうにないと思った方が良いか。
今回だけならともかく、この先も同じような事があるとちょっと困っちゃうけど、皆川さんと幸助の為だと思っておこう。
「ねえ、美緒ちゃん。久しぶりに一緒に帰らない?」
「凪ちゃんと? うん、帰ろう」
何て思っていると、矢口が皆川さんに声をかけてきて、一緒に帰ろうと誘ってきた。
「珍しいな、矢口が皆川さんを誘うなんて」
「ちょっと話があるの。佐藤君も来て。三人で一緒に帰りたい」
「俺も?」
「そう。佐藤君にも話があるから」
俺に話って何だろう? ああ、さっき皆川さんと手を繋いじゃっていた事か?
荒れに関しては皆川さんが勝手に俺の手を掴んだだけって言い訳するしかないんだけどな……。
「凪ちゃんと一緒に帰るの久しぶりだね」
「そうね」
「久しぶりって事は、前はよく帰っていたの?」
「一年の頃はちょくちょくね」
と、ルンルン気分の皆川さんとは対照的に矢口はぶっきらぼうな態度で答える。
へえ、二人って仲良かったんだ。
「それで話って何?」
「話って言うかさ……美緒ちゃんさ。幸助と付き合っているんだよね?」
「うん」
「それなのに、どうして佐藤君と手を繋いでいたの? おかしいよね? そういうの浮気って言うんじゃないの?」
「浮気なんかしてないよ。佐藤君とはお友達だもん。ね?」
「そ、そうだよ。おれと皆川さんがそんな関係なわけねえじゃん」
案の定、疑われているみたいだが、実際そうじゃないんだし、違うと言うしかない。
皆川さんも俺の事はちゃんと『友達』として認識しているんだな。
ちょっとホッとした。
「別にさ。幸助や佐藤君が美緒ちゃんとどうなろうが、私の知った事ではないんだけどさ。美緒ちゃん、本当に幸助の事、好きなの?」
「好きだよ」
「本当に本当にそう言える? その幸助の友達とあんな思わせぶりな態度取ったりとかありえないんだけど。幸助の気持ち、ちゃんと考えている?」
「考えているもん」
と、矢口は厳しい顔をしながら、皆川さんにそう問い詰めていく。
これは……嫉妬しているというより、幸助の事を心配しているようすだった。
「皆川さんと幸助は上手くやっているだろ。矢口だって、幸助から何か皆川さんの事、言われているのか?」
「言われてないけど! 幸助って、ああいう性格じゃん。鈍感って言うか、人の事を悪く言う奴じゃないから……」
確かにあいつが誰かの悪口を言っているところは俺も見たことが無いし、それが幸助の良い所なんだと思う。
でもな……だからと言って、皆川さんの世話をし過ぎじゃないのかってのは俺も思うけど、嫌いだったらあんな事はしないはずだ。
「佐藤君もさ。美緒ちゃんに甘いよね。そういうの変な勘違いさせるから、止めておいた方が良いと思うけど」
「変な勘違いって何だよ? 俺は、ただ二人の仲を応援しているだけだって。そんなにおかしいか?」
「おかしいね。佐藤君も幸助も、美緒ちゃん以上に」
俺と幸助が美緒ちゃん以上に?
ちょっと引っかかる言い方だが、何が言いたいんだ?
「凪ちゃん、何が言いたいの?」
「わからないの? 言っておくけど、私、幸助と美緒ちゃんを別れさせたいとかそう言う事を言いたいんじゃないからね。本当に二人とも好きで付き合っているのか、凄い疑問に思っているってだけだから。それじゃ」
「あ、おい」
と吐き捨てるように言って、矢口は俺達の元から足早に去っていった。
「んーーー? 凪ちゃん、変なの」
「だな……」
幸助と皆川さんが本当に好きで付き合っているのかか……。
流石にお互い嫌っているとそんな感じはしないけど、幸助の態度を見ていると、彼氏というか、保護者とか兄貴みたいな感じは俺もする。
それか趣味がちょっと悪いとか?
皆川さんには悪いけど……いや、彼女はどう思っているんだ?
「ねえ、皆川さん」
「美緒!」
「へ?」
「凄く気になっていたんだけど、佐藤君も美緒って呼んで。佐藤君と美緒、もうお友達じゃん」
「あ、ああ……そうだな」
いきなり何かと思ったら、名前で呼んでくれって事か。
しかし、友達の彼女を下の名前で呼び捨てってのは……抵抗があるな。
矢口は今でも幸助って呼んでいるけど、それは幼馴染って関係があるからだが、俺と幸助はそこまで付き合いが深い訳じゃないし、ましてや皆川さんとは少し前までは同級生でしかなかったんだ。
「じゃあ、美緒ちゃん」
「うん。えへへ、佐藤君ともこれで友達。あ、佐藤君の名前って宗太だっけ? じゃあ、ソウ君って呼ぶ」
「お好きにどうぞ」
流石に呼び捨ては憚れるので、ちゃんを付けることにしたが、美緒ちゃんは嬉しそうだったから良いとするか。
というか、皆から美緒ちゃんって呼ばれているからな、美緒ちゃんは。
「あのさ、美緒ちゃんはどうして幸助と付き合う事になったの?」
「幸助君、優しいし、格好いいじゃん」
「……それだけ?」
「? 悪いの?」
いや、悪くはない。しごく、単純な理由だったな。
「美緒にあんなに優しくしてくれたの幸助君が初めてだよ。だから付き合ってるの」
「へえ。まあお人好しだからな」
「でもソウ君も同じくらい優しいよね。幸助君と同じくらい」
「お、俺も?」
「うん!」
そんな嬉しいことを満面の笑みで言ってくれた美緒ちゃんだが……幸助のこと、本当に恋愛的な意味で好きなのか確かに俺も疑問に思っちゃうよ。




