第八話 悪くないもん
「いいですか、美緒ちゃん! 普段の生活は身だしなみから始まるのです。あなたは、遅刻が多くて、授業もサボリがちだと聞きましたが、そういう格好をしているから、普段の生活がだらけてしまうんです! わかりましたか?」
「う……」
「ちょっ、会長。そんなに強く言わなくても……」
水谷先輩はなおも皆川さんに説教をしていくが、皆川さんが早くも泣きそうになっていた。
まずい……皆川さんまた泣きそうだぞ。
「聞いていますか!?」
「先輩、もうその辺で。皆川さん、そろそろ行こうか。今度は気を付け……」
「うわああああああーーーーーーーーーっ!! 美緒ちゃん、いやだいやだいやだっ! 美緒、会長のこと、いやあああっ!」
「きゃああっ!」
慌てて、なだめようとすると皆川さんは遂に泣き出してしまい、下げていたポーチを思いっきり、先輩の顔面に投げつける。
「お、落ち着いて、美緒! も、もう会長も言いすぎですよ! 俺の方から言っておきますから……ほら、美緒。ソフトクリーム買ってあげるから、こんな所でなくなって」
「美緒、悪くない、悪くないもん! 怒られるの嫌!」
「きゃっ! ちょっと、何を……止めてください!」
「うわああああっ!」
皆川さんはさっき先輩が買った参考書を取り上げて、その場で破り捨てた後、思いっきり踏みつける。
こ、これはやべえ……マジでかんしゃく起こしているじゃないか。
「く……おい、幸助、取り敢えずどっか人気のない場所に……」
「ああ。会長、それじゃまた。美緒、ほら行こう」
「わあああああーーーーーーーっ!」
二人がかりで暴れる皆川さんをどうにか連れ出し、会長から引き離す。
トホホ……どうして、こうなるんだか。先輩も気持ちはわかるけど、言い過ぎだって。
「はあ、はあ……ほら、皆川さん、もう落ち着いた?」
「う、ううう……」
近くの公園にまで皆川さんを連れていき、必死に宥めるとやっと落ち着いてきた。
まさかこんなことになるとはな……先輩も言い方キツかったけど、皆川さんもあそこまで暴れなくても良いだろうに。
「おーい、美緒。はい、ソフトクリーム」
「ありがとう」
幸助は近くのコンビニでソフトクリームを買ってきて、皆川さんに渡すと彼女も泣きじゃくりながら、そのソフトクリームを食べていく。
この姿、もう高校生じゃなくて、幼稚園児みたいじゃん……幸助も手のかかる妹をあやす兄貴にしか見えない。
「はあ……会長もちょっと困ったもんだな」
「そうだけどさ。皆川さんも、先輩の参考書を破っちゃ駄目だって」
「美緒、悪くないもん。会長が馬鹿にしたからだもん」
別に馬鹿にした訳じゃないと思うんだけど、まあ言い方はきつかったが、一応、皆川さんの為を思って注意したんだろう。
多分だけど……
「ふう……しかし、まいったな。明日も生徒会の集まりあるんだよな。会長に合わす顔が……」
「そうだ。水谷先輩、大丈夫かな?」
皆川さんを宥める事で精いっぱいだったが、先輩も結構酷い目に遭っていたので、心配になってきた。
まだ近くにいるかな……。
「ちょっと、俺、先輩を探してくるわ」
「ああ、悪いな」
恐らくまだ遠くへは行ってないと思われるので、水谷先輩を急いで追いかけることにした。
何でこんな事を俺がやっているんだろうな……もう訳がわからんけど、先輩も放ってはおけないしな。
「何処かな……あ、あれは先輩か。水谷先輩」
「佐藤君」
元いた書店まで急いで戻り、近くを走って先輩を探すと、案の定、まだ遠くは行っておらず、すぐに水谷先輩に追いつけた。
「大丈夫ですか、先輩?」
「ええ、大丈夫です。はあ……またやってしまいました」
「何をですか?」
先輩に声をかけると、すぐに溜息を付いて後悔に満ちた顔を見せる。
「悪い癖が出てしまいました。ああいう格好を見ると、何故か我慢できなくなって、つい余計な小言を。だらしない服装を知り合いがしていると、つい言ってしまうんですよね。今回は美緒ちゃんだったから、特にでしょうか」
「あ、ああ……そうだったんですか」
怒っているだろうなと思っていたが、水谷先輩もさっきのは言い過ぎたと後悔していたようだったので、一先ず安堵する。
水谷先輩も明らかに感情的にはなっていたもんな。
「何でしょうかね。最近、美緒ちゃんを見ているとイライラしてしまうんですよ。普段、素行が悪い彼女というのもあるんですが、今日も鎌田君とデートだっていうのに、あんな格好をしているのを見て、無性に我慢できなくなってしまって」
「先輩も皆川さんにキチっとした格好をしてほしかっただけなんですよね。だったら、悪くはないですよ」
「そうですか。確かに言い過ぎましたね。でも、それでも美緒ちゃんが私の参考書を破ったのはひどくないですか? あれは彼女に弁償してもらいたいです」
ですよねー……まあ、あれは美緒ちゃんも明らかにやり過ぎだろう。
弁償するにしてもおとなしく払ってくれるだろうか。
「あの、先輩って皆川さんが……好きじゃないんですか?」
「……嫌いではないんです。最初の頃は、無邪気で可愛い子だなとは思っていましたから。去年でしょうか。図書室で試験勉強をしていた時、美緒ちゃんが一生懸命勉強しているのを見て……彼女、良い噂は効いてなかったんですが、ああ、足りないところもあるけど、頑張っているんだなって素直に感心して、彼女に勉強教えたりしていたんです」
足りない所って……うん、確かにそうだけどさ。何か先輩もちょっと言い方が何気にキツイところがあるというか、この辺は無自覚なのかな。
でも、一応、ウチの高校受かっているんだから、全く勉強出来ない訳じゃないんだよな。
この辺の地域じゃ有数の進学校とか言われていたけど、最近は少子化で定員割れも珍しくなくて、俺の受験時には定員割れで全員合格だったんだが、それでも足切り点はあるので、それは最低限はクリアしているはずだ。
「でもですね。勉強を教えてあげても……」
「美緒ちゃん、そこの図形問題の解き方はそうじゃないですよ。さっきも説明した通り……」
「ううう……わああああっ! 美緒、間違ってないもん! 言う通りにやったもんっ!」
「きゃあっ!」
「美緒ちゃん、駄目ですよ、遅刻ばかりしては。そんなだらしない事では勉強も遅れちゃいますし……」
「遅刻したのはだらしないからじゃないもん。起きれないのはだらしないからじゃないもん」
「で、ですから……」
「という感じで……」
ああ、色々と会長なりに気にかけていたのに、皆川さんのあんまりな態度にうんざりしてしまったのか。
何となくその気持ちはわかる気がする。矢口も似たような事、言っていたんだよな。
最初は明るくて良い子かと思ったけど、何か変な所が多いってんで、あんまり関わらないようにしていたら、幼馴染の幸助と皆川さんが付き合いだしちゃったのだ。
「皆川さんには俺の方からもよく言っておきますので。彼女、別に悪きがあったわけじゃないと思うんですよ。先輩の事も普段は悪くは言っていませんし」
「佐藤君、皆川さんには随分と優しいんですね」
「え? そうですか?」
「そうですよ。だ、男子って皆川さんみたいな子、好きなんですか?」
「俺は嫌いじゃないですけど……みんな好きかはどうでしょう」
男子からは陰口を叩く奴もいるけど、そんなに嫌われてはいない……じゃないかな。
「鎌田君も、どうして彼女と付き合っているのか……




