第六話 友達の彼女は訳あり?
「美緒ー、待ったか?」
「幸助君。早かったねー」
その後、皆川さんと一緒に昇降口まで行って、幸助が生徒会の仕事を終えたのか、皆川さんと俺の元へやってきた。
「お前もいたんだ」
「ああ、ちょっと皆川さんを探していてな」
「うん。佐藤君、私の事、心配してくれていたんだってー」
「へえ……」
皆川さんが満面の笑みでそう幸助に言うと、幸助は何処か乾いた笑顔で相槌を打つ。
やば、勘違いされている? 皆川さんとは別に疚しい関係じゃないからな。
「だって、午後の授業もサボっていただろ。どうしたのかなって思って、ちょっと探していただけだよ。そこの校舎裏にいたんだけどさ」
「授業休んで歌の練習していたのっ! 私の歌、凄く上手だって、佐藤君も言ってくれたよ」
「はは、そうか。そりゃよかった。宗太が面倒見てくれたんだな。美緒も授業サボっちゃだめだぞ。あんまり赤点を取ると、本当に進級できなくなっちまうからな」
「うん、大丈夫だよ。美緒、本当は頭いいんだから」
「だったら、赤点を取らないようにしないとな。美緒も頑張って東大受かるくらいの勢いで一緒に勉強頑張ろうな」
「うん!」
東大って、ウチの学校からじゃ何年も合格者出してないし、何より幸助だって無理なレベルだと思うが……。
ましてや学年でも成績が最下位クラスの皆川さんじゃなあ。
実は学校の成績は悪いけど、模試の成績はめっちゃいいとか? 流石にないか。
「というわけで、美緒の面倒見てくれてありがとう。じゃな」
「またねー、佐藤君」
「ああ……」
皆川さんは幸助の腕にがっしりしがみつきながら、二人で学校を後にしていく。
こうして見ると痛々しいバカップルにしか見えんが、鈍感な幸助もあんなに皆川さんに熱をあげるとはな。
「なーにが、東大よ。バッカみたい」
「ん? 矢口。いつの間に」
二人が去っていくのを見届けた後、矢口凪が不愉快そうな顔をして幸助と皆川さんを眺めながら、俺の元へやってきた。
「美緒ちゃん、本当滑稽よね。成績最悪レベルのくせして」
「う……幸助も皆川さんのやる気を出させてるんだろう」
「やる気ねえ……でも、あんなの真に受けている時点で、美緒ちゃん、かなりおかしいと思うけど」
矢口は本当に皆川さんの事、嫌いなんだな。
別に悪い子ではないと思うんだけど、好きな人を取られたからって、そこまで言う事ないじゃん。
「本当ですよね。鎌田先輩、もしかして女子の趣味悪いんでしょうか」
「桐子ちゃん。もう練習終わったんだ」
「今日は体育館がもう使えないって言われてしまったので」
桐子ちゃんも早めに部活を切り上げ、あからさまに不快そうな顔をして、一緒に帰る幸助と皆川さんのカップルを見ていた。
学校でも評判の美少女が二人で並んでいるのは絵になるが、そんな嫉妬に狂った顔をしていると、その可愛い顔も台無しだよ。
「…………鎌田先輩、彼女に弱味とか握られているんでしょうか? きっとそうですよね」
「弱味って。あいつにそんなのないと思うけど」
成績もそれなりに良いし、運動も結構出来る奴だし、面倒見も良いし、ルックスも良いとナイスな奴じゃないか。
弱味を握られている様子なんか、二人を見ていても何もないって。
「そんなの幸助にないわよ。でもさ。皆川さんの良い所って、私、よくわからないのよね」
「明るくて良い子じゃないか」
「良い子は花壇の花を勝手に毟ったりしませんよ。しかも、授業もしょっちゅうサボっているし、よく騒いだりしていますし。何が良いのか私もわかりませんよ。問題児じゃないですか」
「問題児って……って、桐子ちゃん、何処行くの?」
「ブツブツ、何で私じゃなくて、あんな女と……」
桐子ちゃんの家は確かそっちじゃなかったはずだが……いや、まさか幸助と皆川さんの後を付ける気か?
「ムムム……」
「やっぱり……桐子ちゃん、二人の後を付けてどうするの?」
「静かにしてください。気づかれちゃうじゃないですか」
皆川さんと幸助の後を付けている桐子ちゃんに止めるよう言うが、桐子ちゃんは近くの路地裏や電柱の陰に隠れながら、二人の後をストーカーのごとく付けて行った。
「それで、どうして矢口まで付いてきているの?」
「別に良いじゃない。付いて来たって。というか、二人とも何処に行くつもりなの? この先、お店とかもないけど」
「さ、さあ……」
二人が歩いているのは、住宅街の方で幸助の家とも違う方向だ。
皆川さんの家は……この近くだった気がするが、まさか、皆川さんの家まで行くつもり?
付き合っているんだから、彼女の家に遊びに行くくらいは普通だろうけど、だとしたら、学校帰りにしかも平日に彼女の家に出入りするとか随分と大胆な事をしやがるな。
「ねー、幸助君」
「何だ?」
「美緒とちゅーしたくない?」
「あはは、美緒は大胆だなあ。ここは、ちょっと人通りが多いから、恥ずかしいかな」
「むーー……幸助君、恥ずかしがり屋なんだ」
「そうそう。俺、シャイなんだよ。ところで、美緒の家、もうすぐだよね」
「うん。あー、そこの家だよ」
と、二人が話していると、皆川さんが二階建ての塀に囲まれたちょっと古い木造の家を指差す。
へえ、ここが皆川さんの。話には聞いていたけど、見るのは初めてだな。
「ま、まさか、皆川先輩の家に……な、何てはしたない。信じられない」
「べ、別に良いじゃん。付き合っているんだし」
「でも、今日平日ですよ。親とか家族の目もありそうなのに」
そういや、皆川さんの家族ってどうなっているんだろうな。
彼女から母親の事は聞いたことあるけど、具体的な家庭の事情まではよく聞いてないし、そもそもこっちも興味があんまりないから、聞いてなかったな。
「美緒の家に来て―。幸助君にも来てほしいの」
「そう。 じゃあ、上がらせて……あ」
「あ」
俺が路地裏からつい出て、顔を出すと、人の気配に気づいた幸助と目が合ってしまった。
「もう、何やっているんですか、先輩!」
「わ、悪い。はは、どうも御二方」
「お前、こんな所で何やってるの? しかも、桐子ちゃんと凪まで……」
「いやー、二人の事、見ちゃって、どうしてるのかなって?」
無理がある言い訳だったが、完全に尾行しているのバレちゃったじゃない。
「あ、佐藤君と桐子ちゃんと凪ちゃんだー! もしかして、美緒の家に遊びに来たの!? 三人とも来て来て!」
「え? そ、そういう訳じゃ……」
三人に気づいた皆川さんは怒るどころか、大はしゃぎしながら、俺達の元に駆け寄ってきた。
「い、いいのかな?」
「うん! 私の家、遊びに来てくれたのうれしー! 上がって! 幸助君も良いでしょう?」
「そうだな。人手は多い方が良いし」
「は?」
「まあ、折角だし、上がってくれ」
何を言っているのかと思ったが、皆川さんに背中を押されて、彼女に家にみんなで上がることになってしまった。
「おじゃましまーす。うわああ、随分と散らかっているなあ」
「うええ……」
彼女に家に上がると、あちこちにゴミが散乱して散らかっており、ゴミ屋敷寸前みたいな惨状が玄関先から、広がっていた。
「何よ、この家……汚いわね」
「ちょっと、家庭の事情らしくてさ。悪いけど、三人とも。この家の掃除、手伝って。俺一人じゃ、流石にしんどいし、三人がかりなら、すぐ終わるはず」
「は、はあ?」
幸助がバッグからゴミ袋を取り出して、俺達に手渡し、思いもよらぬ事を言ってきたが、掃除ってここを?
「何で私達がこんな事を……」
「そう言うなよ、俺とお前の仲じゃん」
「私、皆川さんと友達じゃないんだけど……」
「ああ、もう何ですか、これ! どうなっているんです、こんなに散らかって!?」
矢口と桐子ちゃんは文句を言いながらも、これじゃ足の踏み場もないのでゴミや散乱していた家の物を片付ける。
「どうなってるのこれ?」
「美緒の家、家族が片付けられない性格みたいでさ。彼氏の俺が掃除を手伝ってるわけ」
なんじゃそりゃ!?
そんなことまでやってるのこいつ?




