第五話 友達の彼女に懐かれる
「結局、昨日は遅くまで生徒会の手伝いをしちまったな」
翌朝になり、昨日の事を思い出しながら、家を出るとちょっと複雑な気分になる。
俺は何をやっているんだろうな……友達のカップルの為に、生徒会の手伝いまでするなんて。
(それにしても、水谷先輩にもあんな一面があったとは)
皆川さんには冴えない男子の方が似合うってさあ……流石に失礼過ぎない?
みんな、皆川さんの事を見下しているというかさ。
成績も悪くて素行も悪いし、何か発達っぽい感じもあるけど、水谷先輩までああいう事を言うってのはちょっとショックかも。
一応、今度会った時に釘は刺しておくかな。
「お、幸助に矢口。おはよう」
「おはよう。昨日は悪かったな」
「いや、いいよ。今日は二人で一緒なんだ」
「まあな。たまたま近くで会って」
学校の校門の近くまで行くと、幸助と矢口が二人で歩いている姿を見たが、そういやこの二人は幼馴染だったな。
「おはよう、佐藤君」
「おはよう。二人って今でも一緒に学校行ったりするんだ」
「悪い?」
「悪くはないけど……」
矢口は憮然とした表情で答えるが、幸助は今、付き合っている彼女が居るっての知っているくせに、こういう事をして大丈夫なのかと。
しかも、妙に幸助と距離が近い……皆川さんに見られても構わないってくらいの態度だ。
「今日は購買で昼飯を奢るからさ」
「あ、ああ……あれから、皆川さんとは……」
「あいつとは帰りにケーキを食べに行ったよ。我侭で困るよな、はは」
と笑いながら言うと、傍にいた矢口はムスっとした表情をしていた。
まだ引きずっているのか、幸助の事。
幼馴染なら二人の仲を表向きでも祝うとか出来ない物かね。
「もう行こう。遅れちゃうよ」
「おい、引っ張るなって」
矢口が幸助の手を引っ張って、そそくさと教室へと向かう。
幸助も大変だな……未だに幼馴染に執着されているみたいで。
他人事ではあるんだけど、皆川さんだって別に悪い子って程でもないんだから。多分。
「というか、皆川さんは今日も遅刻か」
教室に入ると、皆川さんの姿がなかったので、また遅刻しているようだった。
彼女の家は学校からそんなに遠くはないって聞いたけど、それでもこんなに遅刻するってのは、朝起きれない理由があるのか?
「というわけで、この図形のxの値は……」
三時間目の数学の授業に入るが、数学はやっぱりあまり得意じゃない。
受験に必要だからって言うんで、やたらと課題も多いし、大変……。
ガラ!
「ん? 皆川。また遅刻か。今、何時だと思っている」
「すみません」
三時間目の授業が半分も終わったころになって、やっと皆川さんが教室にやってきた。
今日はまた偉く遅くなったな。
皆川さんも何か神妙な顔つきをしながら、席に着いたし、何かあったんだろうか?
(まあ、俺には関係ないんだけどさ)
幸助は朝、迎えに行ったりしないのか?
あいつは特に気にしている様子もなく、その後も淡々と授業を受けていた。
昼休み――
「よう、宗太」
「何だ?」
「ほら、昨日のお礼。昼飯を奢るって言っただろ。お前、カツサンド好きだったよな?」
「あ、ああ。サンキュー」
昨日、代わりに生徒会の仕事を手伝ったことのお礼にカツサンドとあんぱんを奢ってもらった。
昼飯が浮いてラッキーと言いたいところだったが……。
「あれ、皆川さんは?」
「何処に行ったんだろうなあ? あいつ、急にフラフラと居なくなることあるし」
「そうなの? 今日、もしかして体調悪かったりする? 何か顔色良くなかった気がするけど」
「うーーん……どうだろうな?」
どうだろうって、お前の彼女だろうに、もう少し心配してやったらどうなの?
「ラインを送っても、既読付かないこと多いんだよね」
「お前、避けられてたりしない、それ?」
「まさか。送ってくるときは、もう何通も送ってくるしさ。既読付く時は、速攻で返信も来るんだ。まあ、どっかで昼寝でもしているんだろうな、あいつの事だし。この前も、保健室で寝ていたからさ。今日は一緒に食おうぜ」
「ああ……」
気のせいか、幸助もあんまり皆川さんを心配していないというか、淡白な態度な気がした。
いや、こう言う所はあるんだけどさ、結構。俺に対しても、他のクラスメイトとか友達に対しても。
でも彼女が見当たらないのに、こういう態度を取られると……うん、あんまり深入りしなくていいか。
しかし、その後、皆川さんは午後の授業にも出席せず、姿を見せる事は無かった。
「じゃあ、俺は生徒会の仕事あるから」
「おう。じゃあな」
ホームルームも終わり、幸助は生徒会室に行ってしまった。
俺は帰るか。六時間目体育で、長距離走やったんで疲れてしまった。
「ねえねえ、さっき見た?」
「見た見た。あれって、美緒ちゃんだよね? 本当、ヤバイよね、あの子」
ん? 美緒ちゃんって、皆川さんの事だよな?
という事は学校にまだいるの?
(気になるな……)
「ねえ、ちょっと良いかな?」
「はい?」
今の子達を追いかけて、皆川さんを何処で見たか聞き出す。
やっぱり、気になっちゃうんだよな、彼女の事。
「えっと、確かここに……」
「どんぐりころころどんぶりこー♪」
第二校舎の裏手の方に行くと、大きな声で童謡を歌っている女子の声が聞こえてきたが、これはほぼ間違いなく皆川さんだ。
「皆川さん?」
「お池に……あーー、佐藤君だ。どうしたの?」
皆川さんは校舎の裏で、座って歌を歌っていたので声をかける。
「どうしたのって、午後の授業で急にいなくなったから、気になって。もしかして、ここでサボリ?」
「えへへ、サボリじゃないよ。ちょっとだけ、気分が悪くなったから、りょーよー中」
療養中って、要するにサボリって事じゃん。
気分が悪いなら、保健室に行けば良いのにな。
「心配したよ、急にいなくなるから。今日も遅刻していたし、どうしたの?」
「遅刻……お寝坊しちゃったのかな」
「しちゃったのかなって……朝、弱いの?」
「そんなことないよ。美緒ちゃん、ちゃんと早寝早起き出来るもん」
「はは、そう。でも、あんまり遅刻多いとまずいんじゃない? 先生にも注意されるでしょう」
「幸助君も遅刻多くても、欠席扱いにならないからへーきって言っていたよ」
マジか? あいつ、皆川さんにそんな事吹き込んでいたのかよ。
真面目な奴だと思っていたが、そういう事を彼女に言って、大丈夫なのか?
「幸助とは朝、一緒に行かないの?」
「前は来ていたけど、最近は好きにして良いって言ってくれてるよ」
「ふーん……ねえ、皆川さん」
「なに?」
「幸助とは上手く行ってるんだよね?」
「ラブラブだよ。どうして?」
「ああ、なら良いんだけどさ」
さっきの幸助の態度を見て、ちょっと心配になったが、いつもの満面の笑みで皆川さんがそう言ってくれたので、一先ずホッとする。
まあ、何かあったら、いつでも相談に乗るとはこっちも言っているしな。
喧嘩をしている様子もないし、実際二人の間で何かやっているとかないんだろう。
「佐藤君って、優しいよね」
「え? そうかな?」
「うん、いつも私の事、心配してくれてる。今日も探しに来てくれたんでしょう」
「あ……いや、まあ……友達の彼女だし」
驚いたな。皆川さんにも思いっきり見破られていたのか。
「へへへ、ありがとー。佐藤君と一緒にいると、安心するー」
「こ、こら。あんまりくっつくなって。幸助が見たら、怒るだろ」
「怒るかなー? 幸助君、佐藤君の事、いつも良い奴だって言っているし」
マジか?
だったらちょっと嬉しいかも。
「佐藤君、私のことバカな女って思ってるでしょ」
「思ってないよ。何で?」
「みんな美緒ちゃんのこと、馬鹿にするからさ。幸助君も多分そう思ってるよ。私を子供みたいとか言うし。でも佐藤君は違うのかなあ? いつも優しいしね」
「はは……嬉しいな」
皆川さんは俺に無邪気な笑顔を見せながら、そう言ったので、照れてしまう。
まずい。皆川さん、やっぱり可愛いかも。邪気がないってこういうことなんかなと思ってしまった。
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