第四話 友達カップルの我侭
「それじゃ、先輩。私は練習に行きますので」
「うん、頑張ってね」
その後、しばらく桐子ちゃんと部室で話し込み、新体操部の練習時間になったので、彼女と部室を出て別れる。
凄く可愛い子ではあるんだけど、ちょっと執着心が強いって事なのかね。
あんな子に好かれていた幸助には少し同情もしてしまうが、傍から見たらそれでも羨ましい状況なのかも。
俺だったらどうするかな……考えても仕方ないか。あいつほど、イケメンでも良い男でもないし。
「あ、幸助、まだいたのか。おーい」
「おお、宗太か。さっきは悪かったな」
昇降口の方に行くと、幸助が皆川さんと一緒にいたので声をかける。
「佐藤君、桐子ちゃんと何話していたの?」
「何って……まあ、大したことじゃないよ。皆川さん、もう落ち着いた?」
「? 美緒ちゃん、いつも落ち着いてるよ」
「そ、そう……」
ついさっき、あんなに癇癪起こして泣き喚いていたの、もう忘れたのか?
やっぱりちょっと変な子だな……あんまり、これは口にしたくないけど、皆川さん発達障害とかか?
「悪いな、面倒なこと頼んじゃって」
「いや、いいよ。皆川さん、花壇の花は勝手に取っちゃダメなんだ。今度やったら、先生にも叱られちゃうからさ」
「むー? 勝手に取っちゃいけないの?」
何だか理解出来てないようだが、この娘と普通の感覚で付き合ってはいけないというのは俺でもよくわかっている。
まあ、こういうところも可愛いのかもな。
「じゃあ、俺たちはこれで……」
「あ、鎌田君、探しましたよ」
「ん? 会長。どうしたんですか?」
今度こそ、帰ろうとすると、校門の近くで生徒会長の水谷先輩が駆け寄ってきた。
「あ、会長だー。こんにちは」
「こんにちは。美緒ちゃん、鎌田君と話があるんだけど、少し良いかな?」
「何でしょう?」
「ちょっと手伝ってほしい仕事があるんです。この前の、生徒総会で使った資料なんですけど……」
水谷先輩は、幸助をちょっと俺と皆川さんの元から引き離し、用件を小声で伝える。
どうやら、生徒会の急な仕事が入ったようだな。
「なので、ちょっと手伝ってほしいんですけど」
「は、はい。わかりました。美緒、ちょっと良い? 生徒会の手伝いをしないといけなくなったからさ」
「えーーー? 今日は美緒ちゃんと一緒にケーキ食べに行く約束したよ」
「ゴメン、ゴメン。埋め合わせは後でするから」
「う、ううう……」
皆川さんに幸助がそう言うと、皆川さんもまた泣きそうになる。
やば、これまた泣いちゃいそうじゃないか。
「明日! 明日は絶対に一緒に行こうな」
「私の方が先だったのにーー! 酷いよ、幸助君も会長も!」
「ご、ゴメン……泣かないでくれ、美緒ちゃん。ああ、まいったな……」
また皆川さんが泣きじゃくったので、幸助も俺も傍で見ていた先輩も困ってしまう。
もう高校生なんだから、流石に気に入らないことがあると、すぐに泣き喚く癖はいい加減、治さないとな……。
「し、仕方ない。宗太、ちょっと頼みがあるんだが?」
「え? 何?」
幸助が俺を呼び寄せて、何かと奴の所に行ってみる。
「佐藤君、そこの資料はここに置いてください」
「はい」
生徒会室まで行き、会長の指示のもと、生徒会の資料や備品の整理を行う。
何故、生徒会の役員でもない俺がこんな事を……というと、
「悪い、今度、何か奢るから、お前が代わりに行ってきてくれ。今のままだと美緒が納得しそうにないから」
「おい、そんな事を言われても……」
皆川さんとデートしたいから、生徒会の仕事を代わってくれって、流石に身勝手すぎやしないかと断ろうとしたが、ふと皆川さんの方を見ると、
「う……デート楽しみにしていたのに……うう……」
と、校門の前でポツンと立ちながら泣きそうに俯いていたので、皆川さんが可哀相になってきてしまった。
くそ、あんな姿を見られてしまうとな……本当はもう嫌で仕方ないんだけど。
「すみません、佐藤君にお手伝いをさせてしまって」
「いえ……どうせ暇ですし」
水谷先輩が悪く思う事は無いんだが、友達とその彼女の我侭を聞いちゃうなんて、俺もお人好しが過ぎるな。
「本当は鎌田君に来てほしかったのですけどね。彼の方がよくわかっていますし」
「ですよね。はは、あいつもしょうがない奴ですよね。彼女が出来たからって、のぼせているんですよ」
「そう……でしょうか」
あ……これは地雷を踏んじゃったかな?
(水谷先輩もあいつのこと、好きだったっぽいしな……)
なんせ映画に誘うくらいだし、しかも結構鎌田とも仲良くやっていたみたいだからな。
俺も幸助は会長とは付き合っているのかと、疑ったことあるけど、実際は本当にただの生徒会の会長と役員でしかなかった訳か。
「皆川さんと仲良くやっているんですね、鎌田君は」
「え? ああ、みたいですね」
「生徒会の仕事をあんな理由で断る人ではなかったはずですが……皆川さん、彼に何かしているんですか?」
「何かとは?」
「へ……変な薬でも盛っているのではないかと疑っているのですが」
書類をチェックしながら、先輩がさり気なくとんでもない事を言って、思わず吹き出しそうになったが、いくら皆川さんでもそこまでする訳ないだろう。
「ないんじゃないですかね。皆川さん、結構人気あるんですよ。クラスのムードメーカー的な愛されキャラと言いますか」
「愛されキャラ……ああいう、可愛くて明るい子が人気なんですね。私みたいな堅物でつまらない女より」
「水谷先輩は別につまらなくは……」
また思いもよらない事が会長の口から出てきたが、堅物でつまらないって、そんな事を先輩は自分で思っていたのか?
「良いんですよ。私の実家、実は日本舞踊の教室をやっているんです。結構古くから。それでですかね……礼儀作法とか武道や華道なんかも幼いころからやっていて。それが嫌だったわけではないんですが、周囲からお堅いとか真面目過ぎるとか言われることがありまして」
と、書類をファイルに閉じながら、先輩はポツリポツリと自分の悩みを呟いていく。
そんな家庭で育っていたのか……良い所のお嬢様だって噂は聞いたことあるんだけど、文武両道の美人で完璧だと思っていた生徒会長も悩みを抱えていたんだな。
「だからでしょうかね。ああいう、明るい子がたまに羨ましくはなるんです。でも、皆川さんはちょっと問題があり過ぎませんか? さっきだってあんな我侭を言って……」
「で、ですよね……俺も困ったものです」
「そう思うでしょう。鎌田君はどうして、彼女と付き合っているんでしょうか……皆川さんにはもっと、オタクっぽい男子の方が似合うと思うんです。そう思いませんか?」
「は?」
オタクっぽい男子が似合う? そんな事思ったこともないけど、何で?
「だって、そうじゃないですか。鎌田君みたいな良い人、彼女じゃ不釣り合いだと思います。あんな彼氏を平気で困らせるような我侭で、素行も良くないような子。どうせなら、もっと冴えない男子とかの方が彼女にお似合いだと思いません?」
「…………」
えっと、本気で言っているの、この会長さん?
そりゃ俺も幸助が何であの子と付き合っているのか、いまだに理解は出来ないけど、そういう言い方はちょっと……。
「こ、幸助は皆川さんの事、無邪気な所が良いって言っていましたから」
「無邪気……ふふ、高校生にもなってですか。私みたいな真面目で、面白みのない女は好きじゃないって事ですね。可愛い女子はお得っていうのは、本当なんですね」
俯きながら、病んだような口調で水谷先輩はそう言い、ファイルを閉じていく。
何て言うか、この人も……うん、ちょっと難がある人なのかも。




