第三話 私の方が上のはずなのに
「幸助君、幸助君!」
「何?」
「ほら、見てみて! 綺麗なお花が咲いていたの! 幸助君の為に摘んで来たよ」
「おお、ありがとう」
放課後になり、幸助と一緒に歩いていると、皆川さんが中庭にあったらしい、花を摘んで幸助に持ってきた。
こういう無邪気なところは本当に子供っぽい。
見た目もかなり幼いし、正直、女子高生には見えないんだよな。
「この花、どうしたの?」
「んとねー……そこの、か……」
「あーーーっ! ちょっと、何やってんですか!?」
「ん? 桐子ちゃん」
皆川さんの花を幸助が受け取った後、内村桐子ちゃんが血相を変えて駆け寄ってきた。
「先輩! その花、そこの花壇に咲いていた奴ですよね!? 駄目ですよ、勝手に取ったら!」
「え? そうだったの?」
「そうですよ! 私、美化委員で、花壇の世話係なんですか!」
中庭にあった花壇を桐子ちゃんが指さして、そう言ったので、見てみると確かに花壇に咲いている花がむしり取られているのが見えた。
「皆川先輩ですね! この前もやりましたよね!?」
「あ、ああうう……でも、綺麗だったから」
「綺麗だったからじゃありません! 花壇の花は学校のものなんですから、勝手に取ったらダメって、この前も言われていたでしょう! てか、そんなの常識じゃないですか!?」
桐子ちゃんはいつになく怒っており、皆川さんにキツイ口調で詰め寄る。
確かに学校の花壇の花を取ったのは皆川さんが悪いけどさ……。
「うっ、うう……」
「先輩、聞いてるんですかっ!?」
「おい、桐子ちゃん。そろそろ……」
「うわあああああああああああーーーーっ!!」
「っ!?」
皆川さんが泣きそうな顔をしたので、俺も幸助も桐子ちゃんを宥めようとしたところで、皆川さんが急に大きな声で泣き出した。
「うわあああああっ! 私、悪くないもん! 花が綺麗だから、幸助君の為に取っただけだもん! うわあああっ!」
「ちょっ、制服引っ張らないで!」
「落ち着け美緒! 桐子ちゃん、ゴメンね。美緒には俺が良く言っておくから。宗太。悪いけど、あと頼む」
「あ、ああ」
「鎌田先輩、ちょっと!」
泣き喚く皆川さんを宥めながら、幸助が皆川さんを校舎裏に引っ張っていく。
てか、俺がフォローするんかい、この後。
「もう、何なのよ、一体。怒られるのは私なのに」
「お、落ち着いて。俺の方も今度は気を付けるからさ」
「別に佐藤先輩は悪くないですよ。悪いのは皆川先輩じゃないですか」
「そうだけどさ……あんまり、怒らないでやってくれよ。皆川さんも悪気があったわけじゃないからさ」
「先輩達って、皆川さんに凄く甘いですよね。佐藤先輩もまさか、皆川先輩気になっているんですか?」
「ま、まさか。別に甘いって事は……」
単純に友達の彼女だから、二人の仲は応援したいってだけなんだけどな。
というか、桐子ちゃんも皆川さんの事、嫌いっぽいんだよな。
花壇の花を勝手に取ったのは悪い事だから、桐子ちゃんが怒るのはわかるけど。
「はあ……皆川先輩がそんなに可愛いんですかね。ウチのクラスでも結構有名なんですよね。嫌っている子もいるけど、ファンもいるみたいな感じで」
「へえ、皆川さんのファンね」
「変な子だけど、可愛くて明るくて面白いみたいな人もいるみたいで。私、理解できないですけど」
ま、まあ面白い子ではあるんだよ、話してみると。
さっきみたいにかんしゃくを起こす癖もたまにあるんだけど、扱い方を間違えなければ、凄く良い子というか……こういう言い方は良くないんだけどさ。
「見ろ、あの子、超可愛いじゃん」
「一年の新体操部の子だろ。めっちゃ可愛いよなあ。でも、一緒に居るの彼氏か?」
渡り廊下の方で、二人の男子生徒がこっちを見て、ヒソヒソ話しているのが聞こえたが、桐子ちゃん、流石妖精とか言われるだけあって、学内で大人気だな。
でも残念ながら俺は彼氏ではないのだ。というか、今、彼氏はいないよな?
幸助が好きだったのはわかるけど、正直、桐子ちゃんならもっといい男がすぐに見つかりそうだけど。
「桐子ちゃん、これから部活?」
「そうですね。といっても、まともに活動しているの私しかいないんですけど」
新体操部は今、桐子ちゃんしか活動していない。名義上、部員は他にもいるらしいが、本当に名前だけ貸してもらって頭数を埋めている状況なんだと。
これも幸助の計らいでそうなったらしいが……ここで、その話をするのは止めておいたほうが良いか。
「ちょっと話しませんか、先輩?」
「ん? ああ、良いけど、何?」
「まあ、色々と」
桐子ちゃんに連れられて、部室棟の方へ行く。
新体操部の部室へ行くのか? 俺が入って良い場所なんかね。
「どうぞ」
「どうも。結構、綺麗に片付いているね」
「鎌田先輩に手伝って掃除しましたので」
へえ、あいつがね。面倒見の良い奴だな。
「私……そんなに魅力ないですかね?」
「は? いきなりどうしたの?」
部室に入って、一緒に椅子に座ると、いきなり沈痛な表情をして、桐子ちゃんがそう呟く。
「自慢じゃないんですけど、私、結構モテるんですよ。入学してから、もう何人も告られていますし、モデル事務所からスカウトされたりもして、周りから可愛いとか美少女とか言われて。天狗になっていたつもりはないんですけど、そんな気に無意識の内になっていたんですかね」
「桐子ちゃん……」
俯きながらそう力ない声で言い、何とも言えない気持ちになる。
彼女が言いたいことは何となく察しがついた。
何で私じゃなくて、幸助は皆川さんと付き合いだしたのだと。
「あの二人、どういう経緯で付き合ったか知っていますか?」
「えっと……皆川さんがあいつに告白したらしいよ。付き合ってくれって」
「そうですか。鎌田先輩、ずっと皆川先輩の事、好きだったんですかね?」
「どうだろう? 皆川さん、一年の時から、幸助に懐いていたし、仲は良かったよ。彼女と一緒にいると楽しそうではあったかな」
幸助が皆川さんが好きだったどうかはわからんが、前に手がかかる妹みたいで可愛いみたいな事は言っていたのは思い出した。
「ふ、ふふ……私、彼女に劣っていたんですかね。花壇の花を勝手に毟ったりするような女に。私が水をやって、手入れをしていたんですけど、あんな仕打ちするなんて、私への当てつけ? 有り得なくないですか」
「そ、そんな意図はないと思うよ」
「だったら! 謝ってもよくないですか!? 私、容姿も性格も負けてないと思いますし、鎌田先輩の事、好きな気持ちも負けてないんですよ。ほら、見てください」
「え? これは……」
桐子ちゃんはスマホを取り出して、俺に画面を見せる。
「ほら、先輩の写真、こんなにいっぱい。電話はもちろん、LINEだって毎日、何十通も送っていましたし、休みの日はデートだってしたんですよ。そのたびに、鎌田先輩、優しくしてくれて、絶対気があるとか思っていたのに! 何でですか? まだ足りなかったんですか?」
「さ、さあ……」
泣きそうになりながら、俺に幸助が写った写真や、山のようにあいつに送ったLINEのメッセージを見せていく。
一緒に写っているのもあるけど、明らかに盗撮したっぽいアングルの写真が大量にあるんだけど……。
それにLINEも一日に何回送っているんだ?
チラっと見た限り、一日に何十通もすごい勢いで送りまくっているし、授業中も送ってないこれ?
「こんなに想っていたのに、あんな問題児と付き合うなんて。世の中、間違っていると思いませんか? そう思いますよね!?」
「桐子ちゃん、そんなにあいつの事、好きだったんだ……」
「そうですよ!」
恋愛って、どれだけ想ってようが実らない事はあると思うんだけど、この桐子ちゃんも……ちょっと痛い子な気がしてきた。
(何か幸助の奴もちょっと前までやつれている感じあったが、もしかして桐子ちゃんのせいか?)




