第二話 友人の幼馴染の場合
「なあ、幸助」
「何?」
「お前、何で皆川さんと付き合い出したの?」
「前にも話したじゃん。美緒ってさ。純粋で邪気がないんだよ。可愛いのもあるけど、そういう所が良いって言うか」
「純粋で邪気がない?」
そうかなあ? 皆川さんと話してみても、俺はそう感じたことはない。
可愛くて愛嬌のある子ではあるけど、邪気がない子と言えるかな。
「そう思わない? だって……」
「ホームルーム始めるぞ。席に着け」
と、幸助と話していると、担任の教師がやってきて、朝のホームルームが始まる。
邪気がないって言ったら、他の女子も似たようなもんじゃないのかね。
「皆川……皆川はまた遅刻か?」
出欠を取っていくと、皆川さんの返事がなくまた遅刻しているようだった。
「全く、あいつもしょうがないな。今月だけで何度目だよ、ったく」
今月だけで何度目かの遅刻。そう、皆川さんは遅刻の常習犯で、先生からも度々指導されているのだ。
家もそんなに遠くない筈なんだが、朝起きるの苦手なのか、どうなのか知らないが、遅刻も多くてドジな所もある。
おまけに成績も赤点ばかりとって、補習しまくりと、よくウチの学校に入れたもんだよ。
「それじゃ、図書委員は放課後、図書室に集まるように。では、一時間目の授業を……」
「すみません、遅れちゃいました」
担任が連絡事項を伝え終わったころになって、やっと皆川さんは教室に駆け込んできた。
「遅いぞ。何度目の遅刻だと思っている」
「すみません……きゃっ!」
教室に入って、軽く頭を下げた後、皆川さんは足を取られたのかずっこけてしまった。
こういう所、よくあるんだよな。
まあ、可愛らしいっちゃ可愛らしいんだけど、何度言っても遅刻もするし、早退もよくわからん理由でするしで、この子が邪気がないっていうのも俺には信じられん。
不良とはまた違うんだけど、優等生とか普通に良い子って訳でもないんだよな。
キーンコーン……。
「ねえねえ、幸助君。宿題見せてー」
「お前、またやってこなかったの? たまには自分でやらないと駄目だろ」
「でもでも、宿題難しくて、私出来ないの。ね、お願い」
休み時間になり、皆川さんはまた宿題を忘れてしまったのか、彼氏である幸助に見せてくれとおねだりをしてきた。
これもよくある光景なんだよな。彼女、学校の課題もロクにやってこないし、基本、友達に見せてもらってばっかり。
幸助と付き合いだしてからは、完全にあいつに頼るようになっているしでさ……。
「世界史なら、宗太の方が得意だから、あいつに見せてもらえよ」
「え? 俺?」
「そうだよ。美緒に見せてやって」
「佐藤君が見せてくれるのー?」
「い、いいけど……」
「えへへ、ありがとう」
俺に振らないでくれるかなと思いつつ、断る理由もなかったので、皆川さんに日本史の宿題を見せてあげる。
いや、初めてではなかったな、これも。前にも何度かあった。
別に友達の彼女なら無関係ではないんだけどさ……幸助も自分の彼女何だから、自分で面倒見てくれよ。
(それにしても……)
皆川さん、字がちょっと汚い。
俺だって人にどうこう言えるほど、綺麗に字を書いている訳じゃないが、高二とは思えないレベルだ。
そんなんで本当に進級できるのか、皆川さん? てか、よく進級できたな。
「終わった?」
「うん、ありがとう」
満面の笑みで、皆川さんは俺にお礼を言ってくれる。
こういう幼い感じの笑顔は確かに可愛らしいし、一部の男子からも人気があるのはわかる。
だけど、実際に付き合うとなるとね……色々と厄介なこのような気がするよ。
「幸助君、ほら、今日は私がサンドウィッチ作ったのー!」
「おう、前よりは上手く出来ているじゃないか」
昼休みになり、皆川さんは真っ先に幸助の元へ行き、手作りのサンドウィッチを見せていく。
遠目で見た限りでは、あまり出来が良いサンドウィッチとは言えない気がするが、一生懸命作ったってのは伝わってきた。
邪魔しちゃ悪いし、俺は学食にでも行って食ってくるかな。
「はあ、相変わらず混んでいるな、学食も」
学食の方に行っても、ごった返しているので、座れる場所がなさそうだ。
購買も良いパンはなさそうだし、並ぶしかないか。
「きゃっ」
「あ、すみません……って、矢口じゃん」
「佐藤君。佐藤君も学食だったんだ」
「まあ、たまにはと思って」
「うん、私もいつも一緒の友達が部活の大会で公欠で……」
ああ、そういう事ね。
いつも教室でパンとか弁当だった気がするけど、教室だと幸助と皆川さんも居るし、ちょっと居辛いかもな。
「ちょっと、一緒しても良い、佐藤君」
「俺と? 別にいいけど」
珍しく……というより、初めて矢口に誘われたので、一緒に学食のカウンターに並び、ちょうど空きが出来た隅っこにある席に一緒に座って食べることにした。
「どうしたの、急に?」
「いえ、その……幸助、何で美緒ちゃんと付き合っているのかなって思って」
「ああ……何か邪気がないとか、そんな事を言っていたけど」
「嘘。絶対嘘でしょ、そんなの。だって、あの子、宿題だってやってこないし、授業中とかも騒いだりするしさ。愛嬌はあるし、ああいうのが好きな子がいるのはわかるけど、だからって……! おかしいじゃない」
「お、おかしいとか言われても……」
流石に言い過ぎじゃないかと思ったが、そんなに幸助を取られたの悔しかったのか?
矢口は可愛くて、成績も結構良いし、素行も悪くないし、噂じゃ町で芸能事務所だからモデル事務所にスカウトもされたって話もあったが、そこまで幸助のこと、好きだったのか。
「ゴメン、君に愚痴を言ってもしょうがないんだけどさ。美緒ちゃん、あんまり良い噂を私も聞かないんだよね。それなのに、クラスじゃ可愛くて明るくて、人気者ぶっているのが、解せないと言うか」
「解せないって、流石に失礼だろ。皆川さん、俺は良い子だと思っているよ。遅刻も忘れ物も多いけどさ」
「遅刻が多いのが悪いとかそういう話じゃないの。ああ、もう。何て言うかな……美緒ちゃんなんて、成績も素行も良くないし、ウチらの受験した年で定員割れしてなかったら、この学校にも合格出来なかったような子だよ。本当、ムカつくなあ……それなのに、ちょっと面倒見が良いからって、幸助にやたらと纏わりついて、しまいには本当に付き合っちゃうなんて」
「…………」
注文をしたうどんを食べながら、皆川さんに対する悪口を悔しそうに吐いていく矢口。
こういう一面あったんだ。彼女とはそこまで深い付き合いをしてなかったけど、意外な一面を見た気分だ。
「頭悪くても顔が可愛くて、男子に媚びを売れば、ああやって男を手玉に取れるって事よね。あーあ、不公平な世の中。幸助もあんなのにたぶらかされて」
「そこまで言わなくても……」
流石に皆川さんの事を悪く言いすぎだと思ったが、ちょっと言ってやろうかと思ったが、ここで言い争いをしてもしょうがないので、軽く釘を刺すくらいにしておく。
ああ、なるほどね。
幸助が幼馴染の矢口より皆川さんを好きになった理由……ちょっとわかったかも。
こういう『邪気』を矢口から感じ取っていたって事なのかもな。




