第二十三話 彼女とお泊り?
「お前は来ないの?」
「呼んだのは宗太だろ。だったら、一人で行って来ればいいじゃん。おれはもう家に帰るから。何かあったら、呼んでくれ。すぐに駆け付けるから」
「あ、ああ……」
幸助がそう言うなら、美緒ちゃんの家に一人で行くことにするが、本当にいいのか?
美緒ちゃんが困っているなら、彼氏のお前が一番しっかりしないといけないんじゃないのと思いつつ、美緒ちゃんの家に行く準備を始めた。
「はあ、はあ……何があったんだか」
幸助と自宅の前で別れた後、自転車をダッシュで走らせて、また美緒ちゃんの家に着く。
ここに来るのも何回目かな。
もう来たくないと誓ったはずなのに、何で来ちゃうんだろうな。
ピンポーン。
「美緒さん、いますかー?」
「ソウ君? 来てくれたんだ」
呼鈴を鳴らすと、珍しく美緒ちゃんがすぐに来てくれたので、一先ずホッとする。
「どうしたの、今日は?」
「ううん。ちょっとね。家に入る?」
「あ……また、掃除の手伝いとかやるようかな?」
「もうやりたくない」
といつになく元気がないというか、沈痛な表情をしているので、もしかして喧嘩でもしたのか?
「どうしよう? ちょっと外を散歩でもするか」
「うん」
美緒ちゃんが明らかにおかしかったので、一先ず外に連れ出して、近くを一緒に散歩することにした。
あの母親と喧嘩したのか? だったら、俺が言えることはあまりないんだけど、美緒ちゃんを元気づけることが第一に考えないと。
「美緒、ママと喧嘩しちゃったんだ、また」
「またってことはよくするの?」
「うん。今日は殴り合いの喧嘩になっちゃってね」
「な、殴り合い……」
さらっととんでもない事を言ってきたが、美緒ちゃん、可愛い顔をして、やることが結構過激なんだな。
「怪我しなかった? 大丈夫?」
「大丈夫。でもお家にはしばらくいたくないかも」
「そっか……じゃあ、何処に行くの?」
あの母親はハッキリ言って頭おかしそうなので、美緒ちゃんも苦労が絶えないんだろうが、殴り合いの喧嘩までしたというなら、しばらく美緒ちゃんと引き離した方が良いかもしれない。
「友達の家も幸助君の家も頼れない。みんなパパやママや他の家族も一緒にいるし、美緒は変な子扱いされているのも知っている」
「じゃあ、どうすれば……あ」
確かにもう遅い時間になっているし、幸助や他の友達だって、いきなり来た美緒ちゃんを泊めるのは難しいだろう。
ということは……俺の家に泊めるってのは?
(まずいだろ、色々と)
美緒ちゃんは幸助の彼女だぞ。
そんな子を男子だけが住んでいる家に泊めるとか、それは非常識すぎるし、幸助だって怒るだろうよ。
いや、あいつの事だから、話したらすんなりOKしてくれるかもしれないが……。
「ちょっと、待っててね、美緒ちゃん」
「うん」
不安になったので、幸助にお伺いを立ててみることにする。
別にあいつの許可は必要ないんだが、話をしておかないと、絶対にややこしい事になっちゃうし、あいつには変な隠し子事はしたくない。
『はい。どうしたの、宗太?』
「実は今、美緒ちゃんと一緒にいるんだけどさ。美緒ちゃん、お母さんと喧嘩しちゃったらしいんだよ」
『ああ、またか』
「また? よくするんだ」
『うん。あのお母さん、ちょっとね……俺も色々と手を焼いているお方なんだよ』
幸助に金をたかるくらいだから、まともな女じゃないのはわかるが、幸助も頭を悩ませているんだな。
「ちょっと家に居辛いらしくて。お前の家に美緒ちゃん、泊められない?」
『ウチは両親も弟もいるんだよ。おまけに、祖母ちゃんが今夜泊っていてな……とてもじゃないけど、美緒を泊めるのはちょっと』
「あ、そうなの。じゃあ、どうする?」
幸助の家はダメっぽいので、そうなると、他に泊めてくれそうな友達を当たるしかないか。
「矢口とか桐子ちゃんは……」
『無理に決まっているじゃん。二人とも、美緒をあまり良く思ってないんだし』
「う、じゃあ……俺の家とかでもいい? 今、両親居ないし」
恐る恐る切り出してみるが、正直、幸助の反応が怖い。
普通に考えたら、駄目って言うだろう。
『あー、お前、今、一人なんだっけ。じゃあ、お願いできる?』
「いいの?」
『しょうがないだろ。美緒をその辺の公園で寝かせるつもりか? そっちの方が危ないじゃん』
「そ、そう。じゃあ、美緒ちゃんに話してみるよ」
『ああ。まあ、変な事はしないでくれよ。お前の事は信頼はしているけど、一応な』
「わかっているよ。明日、ウチに来てくれ。美緒ちゃんの様子、気になるだろ?」
『わかった。じゃあ、今晩はよろしく頼むわ』
とあっさりOKが出てしまったので、一先ずホッとする。
よし、彼氏の許可が出たなら、まずは大丈夫だろう。あいつの所有物って訳でもないんだけど、筋は通しておかないとな。
「美緒ちゃん」
「なーに?」
「今晩、俺の家に泊まる?」
「ソウ君の? いいの?」
「他に行くところ、ないんでしょう? 取り敢えず、ウチに寝泊まりするくらいなら、構わないから。幸助にも話してあるし」
と話をしてみると、美緒ちゃんも少し明るい顔をし、
「行くー! ソウ君のお家でお泊りしたい!」
「そ、そっか」
そんなに喜ばれると、俺も反応に困ってしまうが、早速、俺の家に案内しよう。
「どうぞ」
「わああーー、ここがソウ君のお家なんだ」
美緒ちゃんを俺の家に案内すると、美緒ちゃんは目を輝かせながら、俺の家に上がる。
玄関を見たら、靴を揃えないまま、上がってしまったが、こんな所も美緒ちゃんらしいな。
「えへへ、男の子の家にお泊りするの初めて―」
「そ、そうなんだ。幸助の家に泊まった事もないんだね?」
「うん!」
彼氏を差し置いて、美緒ちゃんの初めてを奪ってしまったってことか。
誤解を招くような言い方だけど、俺は今、ものすごく危うい事をしているんだよな。
一応、彼氏である幸助の許可は取ってあるんだ。不義理ではないはずだ、うん。
「夕飯はまだだよね? 何か食べたい物がある?」
「コロッケ食べたい」
「コロッケ? ああ、そっかあ……」
コロッケは意外に作るの難しいんだよな。というか、手間がかかるんだよあれ。
「ご、御免。すぐには作れないから、ちょっとスーパーまで買いに行くよ」
「いいよ、そんな事しないで。美緒が作るから」
「美緒ちゃんが?」
「うん。美緒、料理得意なの~~。だから、ソウ君にも作ってあげられるよー」
美緒ちゃんは得意気な顔をして、そう言ってきたが、美緒ちゃんの手料理か。
どんなのか楽しみかも。
「わかった。じゃあ、お願いしようかな。何を作るの?」
「すいとん!」
「す、すいとんですか」
「うん。美緒、得意なの」
意外というか、随分と渋いチョイスをしてきたが、まあ、たまにはそういう料理も良いか。
「じゃあ、材料買ってくるか」
「うん」
すいとんの材料を買いに、美緒ちゃんと一緒に近くのスーパーに行く。
楽しみだなあ、
「ふんふーん♪」
スーパーで食材を買いに行ったあと、美緒ちゃんは家にあるエプロンを付けて、キッチンですいとんを作っていく。
生地まで捏ねるとはなかなか本格的だな。
「えへへ、すいとんを家族以外に作ってあげるの初めてかもー」
「ふーん。幸助にも作ってあげたら」
「すいとん、作る機会がなくてー。はい、出来たよー」
「おお……」
暗くなったころに、美緒ちゃんのお手製のすいとんが完成し、俺に大きめのお椀にすいとんと野菜、豚肉がたっぷり入り、ほんのりと味噌の香りがするすいとんがテーブルに置かれる。
「いただきます。おお……美味いじゃん」
「ありがとー。美緒の得意料理だよ♪ ソウ君の為に頑張ったの。いっぱい食べてね」
「ああ」
美緒ちゃんは満面の笑みで、そう言い、俺も彼女の手料理を食べていく。
何か凄く後ろめたい気分もあるが……いや、あまったのは幸助にお裾分けすればいいか。




