第二十四話 彼女の友達との同居は疲れる?
「ごちそうさま。おいしかったよ」
「えへへ。ありがとー」
美緒ちゃんが作ったすいとんが思いのほか美味しかったので、全部食べてしまった。
意外に料理上手だったんだな。意外と行っては失礼だけど、美緒ちゃんも何も出来ないわけじゃないんだ。
「今夜は泊って良いの?」
「家に帰りにくいんでしょう。しょうがないよ。一応、部屋はあるしさ」
「ありがとー。ソウ君、やっぱり優しい―」
「あはは、それほどでも」
無邪気な笑顔でそんな事を言われると、照れてしまう。
美緒ちゃんはやっぱり笑顔が可愛い。無垢な子供みたいな屈託のない笑顔を見せてくれる。
こんな愛嬌のある子が何で嫌われているのかなって思ってしまうくらいだが、何であんな素行が悪いと思われているのか……。
「でも、いつまでも俺の家にはいられないでしょ。どうするのこれから?」
「うーん……ママは結構忘れっぽいし、機嫌が良い時と悪い時の差が激しいの。だから、何日かすれば、ケロっとしていると思うよ」
「そっか。出来る限り早く仲直りしなよ。あんまり、人の家庭の事に口を出したくはないんだけどさ」
俺はもうがっつり関わっているので、あの美緒ちゃんの母親は正直、どっか病院にでも連れて行った方が良いとすら思っているんだけど、美緒ちゃんの前では流石に言いにくい。
幸助ももうあの人とは関わりたくなさそうだったし、俺も関わりたくはないんだが、美緒ちゃんはどうしても放ってはおけない。
「ソウ君のパパとママはお仕事?」
「うん。出張中で不在。だから、何日かはいても大丈夫だよ」
「一人で寂しくないの?」
「寂しいって言えば寂しいけど、もう慣れちゃったよ。一人暮らししている人なんかいっぱいいるんだしさ」
一人なら気楽でいいなと思ったが、色々と苦労も多い。
家事も全部自分でやらないといけないし、限られた金で生活費を全部賄わないといけないのは、辛いけどな。
「幸助もよく遊びに来るし、美緒ちゃんもいるからさ」
「えへへ、じゃあ、これからは私もソウ君の家に遊びに行って良い?」
「もちろん」
夕飯を食べ終わり、二人でリビングでくつろぎながら、話していくが、何だか不思議な気分だ。
こういうゆったりとした一時はいつ以来だろう。
あんまり記憶にないかもしれないな。
「ありがとー。あ、そうだ。ジュースある?」
「ジュース? 冷蔵庫になんかあったかな」
「ジュース、欲しいっ! 取ってくるねー」
「あ、ちょっとっ!」
美緒ちゃんはそう言うと、さっさとリビングを出てって、キッチンへ行き、冷蔵庫を開けて勝手に中を物色しはじめた。
「ねえー、コーラないの?」
「コーラ? あー、今はないかな」
「つまんない。コーラ飲みたい」
「そ、そう。じゃあ、どうしようか……」
コーラを飲みたいと言われてもないものはないのだが、今からどっかで買ってくるのか?
「コーラ、コーラ!」
「わ、わかった。じゃあ、買ってくるよ。近くに自販機あったはずだから」
「わーい! あ、ついでにアイスも欲しい」
「アイス? 美緒ちゃん、随分と贅沢だね」
「ホッとしたら、色々と食べたくなっちゃった」
まだ夕飯を食べ終わったばかりなのに、アイスだのコーラだの腹のもたれそうな物を好むお姫様だな。
幸助に対してもいつもこんななんだろうな。
可愛い妹みたいではあるんだけど、あいつもちょっと大変なのかも。
「はい、コーラとアイス……あれ、何処に行ったんだ?」
近くのコンビニにまで自転車でひとっ走りをし、ご所望のアイスとコーラを俺が買ってきたのだが、肝心の美緒ちゃんが何処にもいなかった。
「うーん、何処に行ったんだ? 靴はあったから、出てはいないと思うんだけど」
リビングにもいないし、今日は美緒ちゃんを寝泊まりさせようとした一階の和室にもいない。
風呂にでも入っているのかと思ったら、そこにもいないし……何処へ消えたんだろう?
「美緒ちゃーん……あ、どうしたのこんな所で」
「うーん? ちょっと眠くなっちゃった」
二階にある俺の部屋に行くと、美緒ちゃんが何と俺のベッドで寝ていた。
何処に行ったかと思ったら、俺の部屋って……誰かが見たら、誤解されそうなシチュエーションじゃないか。
「あのさ、美緒ちゃんの部屋は一階にある和室って言ったでしょう。ここは俺の部屋だし、俺のベッドなわけでさ」
「ベッドで寝たい。和室いやー」
「嫌って……」
そんなことをいきなり言われても、困ってしまうんだが、我侭な子だな。
「ん? あれ、これは……」
床に俺が買った雑誌や漫画本が散乱していたので、ちょっと拾ってみるが、
「漫画あったから、読んだの」
「そ、そう。美緒ちゃんさ。漫画とか本を読むのは良いんだけど、せめて本棚にしまっておいてくれるかな? 駄目でしょう、こんな床に放りっぱなしにしちゃ」
「何処にあるか忘れちゃった」
と、悪びれる様子もなく、答える美緒ちゃんにちょっとだけイラっと来てしまう。
何だこの子……想像以上にだらしない子だったんだな。
「俺の漫画や雑誌は自由に読んでいいよ。でも、床に放置するのは止めてくれ。だらしない子だと思われちゃうぞ」
「幸助君にも前に言われた、それ。美緒、楽しいと思う事やっているだけなのに、何でいけないのー?」
「な、何でって……」
不満そうに美緒ちゃんが言うのを見て、呆気に取られてしまう。
他人のしかも、男子の部屋に勝手に入ってベッドで寝るのもあれだけど、この子はちょっと社会の常識とかマナーを知らなさすぎるんじゃないか?
「そこに寝られると俺が寝られないから。ベッドで寝たいのはわかるけど、今日は一階の和室で……」
「眠い! ベッドで寝たい! ここ寝心地が良いっ!」
「…………」
今日だけは一階で寝てくれと言ったのに、美緒ちゃんは一向に聞く耳持たず、駄々を捏ねる。
「わかった。じゃあ、今日は俺が一階で寝るからさ。ほら、せめて雑誌と漫画は本棚にちゃんとしまってくれ。俺も手伝うから。あ、コーラとアイス買ってきたよ。冷蔵庫に入れておくから、よかったら、食べてね」
「うん」
憮然とした顔をしながらも、美緒ちゃんは雑誌とほんの片付けは手伝ってくれた。
何だか疲れる子だな……すいとんを作ってくれた時は、思っていた以上にしっかりした子なのかと思ったが、色々とやっぱり足りないところがある気がする。
「はあ、どうしたものか……」
美緒ちゃんを先に風呂に入れ、その後で俺が風呂に入ったが、美緒ちゃんの我侭に振り回されて、ちょっと疲れてしまった。
難しい子なんだな、色々と。幸助は美緒ちゃんといつもこんななのかね……可愛くて愛嬌はあるし、家庭環境は可哀相な所もあるんだけど、この子としばらく寝泊まりするのちょっとね。
「美緒ちゃん、出たよー」
「ジャンプ、ジャンプっ!」
「な、何をやっているの!?」
風呂から出た後、美緒ちゃんがいきなりリビングでジャンプを繰り返して、大声で何か歌を歌っていた。
「今、動画サイトで面白い動画を見つけたのー! その練習」
「そうなんだ。あのさ、もう遅いから、あまり騒がないでくれる? 近所迷惑だし」
「何で?」
「な、何でって近所が迷惑するんだよ、夜中に騒ぐと。明日も早いんだし、もう寝よう。な?」
「ふーーーん……美緒、怒られるの嫌い」
嫌いとか言われても困るんだって。俺が怒られるんだしさ……。
「わかったから、おとなしくしよう。もう疲れたろ。俺のベッドで寝て良いから」
「うん。おやすみー」
やっと美緒ちゃんは俺の言う事を聞いてくれ、二階にある部屋へと小走りで向かっていく。




