第二十二話 彼氏も遂に限界に?
「それじゃ、連絡事項は以上」
帰りのホームルームも終わり、帰り支度や部活に行く準備をみんなが始める。
美緒ちゃんは今日も新体操部に行くのかな?
そう思ってみてみるが、美緒ちゃんは部活に行く準備をしていたので、やっぱり真面目に部活をやる気はあるようだ。
まあ、彼女の事は良いか。
「幸助。今日、暇?」
「え? ああ、えっと……」
「たまには二人でどっか遊びに行こうぜ。カラオケとかどう?」
「今日も生徒会が……」
「あ? 生徒会の集まりって、そんな毎日あるもんじゃなかっただろう? 水谷先輩も今は特に忙しい時期じゃないって言ってたんだし」
「そ、そうだけど……」
何だか目が泳いでいるけど、幸助本当に大丈夫か?
どっか体調悪いなら、無理に誘う事はしないが、だったらさっさと帰って休めば良いのに。
「わかった。ちょっと付き合うよ」
「いいんだな? じゃあ、行こうぜ」
ちょっと考えた後、幸助もようやく誘いに乗ってくれた。
幸助に話があるので、今日はどうしても二人で帰りたかったのだ。
「美緒ちゃんとは最近、どう?」
「別に変わりはないよ。ちゃんと上手くやっているって」
「本当かよ?」
「何でだよ。別に喧嘩したりしてないだろ」
「そうだけどさ」
一緒に通学路をゆっくりと歩きながら、最近の美緒ちゃんとどうなのか聞いてみるが、やっぱりちょっと歯切れが悪い気はする。
しかし、喧嘩をしている様子は実際にないので、美緒ちゃん以外の事で悩んでいるのかもしれない。
「そこのカラオケに行こうぜ」
「あー、その……」
「何だよ? 別に予定はないんだろう? 一時間くらいでいいから……」
「金がないんだよ」
「金? 一時間くらいなら、大した金じゃ……」
「とにかく今は一銭も無駄にしたくないんだ。悪いけど、真っすぐ帰らせてくれ」
幸助とカラオケに行ったことは何度もあったが、こんな理由で断られたのは初めてだったので、やっぱりタダことではない。
「わかった。じゃあ、俺の家に来てくれ。お茶くらいは出すから」
「ああ、それなら」
取り敢えず二人で話したかったので、幸助を俺の家に招くことにした。
今は俺一人で住んでいるのだし、そこならだれも邪魔は入らない筈。
「おじゃまします」
幸助を俺の家に招き、二階の自室へと一緒に入る。
ここに幸助を招くのもいつ以来かな……別にいつ来ても良いとは言ってるんだけどさ。
「あのさ。この前、美緒ちゃんの家に来た時さ。俺が家事をやらされたんだよ」
「あ、ああ……美緒のお母さんだろ」
「そうだよ。あの人、何なんだよ? ちょっとおかしいよな?」
「ああ……」
ストレートに幸助にも言うと、幸助も気まずそうな顔をして、頷く。
こいつが他人の、おまけに彼女の母親をおかしいなんて言われて、何も言わずに頷くってのはよっぽどのことだぞ。
「何か病気なの?」
「病気かどうかは知らないけど……お父さんが蒸発って言うか、家を出てから、どうもおかしくなったとか何とかって噂で。俺も詳しい事は知らないんだ。色々と噂は聞いているけど、確かなものじゃなくてさ」
「へえ……美緒ちゃんには直接聞いた?」
「さり気なく聞いたけどさ。美緒は、ママ大好きだよーって言うだけで。そうかと思ったら、急にママと喧嘩したとか、最近、あまり話していないとか、支離滅裂な事を言ってくるから、俺もどうなっているのかわからないんだよ」
ああ、何となくわかる気はする。
美緒ちゃんの言っている事って、あまり一貫性がないというか、かなり場当たり的なんだよな。
嘘なのかもしれないし、本音なのかもしれない。
「それでどうしたいんだよ? あの人とはもう関わらない方が良いと思うぞ」
「そうはいかないよ。彼女の母親だぞ。しかも、付き合ってすぐの頃さ。美緒が家に上げて、付き合いだした事を報告した時、俺が美緒や家の面倒もちゃんと見ますとか言っちゃってさ……」
ああ、安請け合いしちゃったわけね。
幸助らしいと言えば幸助らしいんだけど、その時は恐らく真剣だったんだろう。
「掃除、洗濯、料理に買い物まで定期的に俺が行ってやっていたんだよ。最初は別に苦ではなかったんだけどさ……掃除しても掃除してもすぐに汚すし、料理も最初は美味しいって言ってくれたけど、段々まずいとか言って残すようになるし、しかもお礼も言わないしで……」
と、沈痛な面持ちで幸助が美緒ちゃんの母親への不満をポツリポツリと呟いていく。
ああ、幸助にここまで言わせる時点で、あの人、ちょっとやべえよ。
ボランティアなんかも積極的にやるような聖人みたいに出来た男なのにさ。
「いや、それは良いんだ。俺の力不足だしさ。たださ……」
「何?」
「あの、買ってきました。これで良いですか?」
「ありがとー。じゃあ、そこに置いておいてね」
「ああ、はい。あのー、これレシートです。代金は……」
「代金? 今、お金ないの。幸助君が代わりに払っておいてよ」
「ええ? さ、流石にそれは困りますと言うか……」
「うーーーん、ないものはないの。美緒の彼氏なんだから、その位出すの普通じゃない。あなたの家、お金持ちなんでしょう?」
「べ、別に金持ちって訳では……わ、わかりました。今回だけは俺が立て替えますから、今後は……」
という事があったのだが、それ以降も幸助に買い物を行かせ、そのたびに幸助に金を払わせていたらしい。
「おい、それ酷すぎるだろ」
「…………」
だから、金がないとか言っていたのか。
「バイトしたいんだけどさ……ウチの学校、バイト禁止だし、俺、生徒会の役員までやっているから、そういうのやっぱりやりにくくて」
バイト禁止の学校といえど、隠れてやっている奴はいるし、何なら矢口だって、去年の夏休みや冬休みはファミレスでバイトをしていたんだ。
だが、幸助は生徒会の役員だからな……学校の先生にも顔が知れてるし、立場上余計に難しいんだろう。
「俺の方からも言ってやるよ。もう美緒ちゃんのお母さんには関わらない方がいいって。美緒ちゃんには言ったのか?」
「あ、それはちょっと……でも、出来れば会う頻度はこれから減らしたいんだ。持ち合わせもないし」
「だよな。それを聞いて安心したよ」
別に美緒ちゃんと別れる必要はないが、あの毒親みたいなヤバイ女とはもうこれ以上、幸助とは関わって欲しくはない。
もちろん俺もだが……問題は美緒ちゃんだよ。
あの母親と美緒ちゃんが上手くやっているとは俺にはとても信じられない。
「ん? 美緒ちゃんからだ……はい」
『ソウ君。今、ちょっといい?』
「え? ああ、いいけど。今、幸助もいるんだ。変わろうか?」
『ううん。ソウ君に頼みたいの。家に来てくれる?』
「え……ど、どうしよう?」
と、目の前にいる幸助に目でどうするか訴えると、会話の内容を聞いていた幸助は、
「行って来れば。お前に用あるんだろ」
と、あっさりとOKを出してくれた。
う、うん。まあ、彼氏が公認なら、別に美緒ちゃんに呼び出されて会いに行っても問題なしだろう。
幸助じゃなくて、俺に言うのが何か嫌な予感しまくりだけどさ。




