第二十一話 訳アリ家庭の彼女
「もう、何でこんなことに……」
モヤモヤした気持ちを抱えながら、やっと美緒ちゃんの家を後にし、自転車に乗って家路に着く。
本当に何をさせられているんだ俺は? というか、何やねんあの母親は?
明らかに頭のネジがぶっ飛んでいるおばさんじゃないか。
美緒ちゃんもあんな母親と一緒じゃ、苦労しているんだなって思ってしまったが、幸助の奴は一体、何で俺を呼び出したんだよ?
全く訳のわからない状況なので、頭を抱えてしまうが、帰ったら幸助と美緒ちゃんに電話をして、事情を聞いておかないとな。
「お……あれは……?」
自転車を走らせ、交差点の所で信号待ちをしていると、向かいの歩道から見覚えのある男女二人組の姿が見えた。
あれは間違いない。
「幸助に美緒ちゃん」
「え? あ、ああ、宗太か」
「ソウ君だー。こんばんはー」
二人に声をかけると、幸助はバツが悪そうな顔をして俺を見たが、美緒ちゃんはいつもと変わらぬ無邪気な笑顔で俺に駆け寄ってきた。
「お前、どういうことだよ? そっちから美緒ちゃんの家に呼び出しておいて、お前はいないって。おかげで大変だったんだぞ」
「ゴメン……その、色々と理由があって」
「美緒ちゃん、ママと喧嘩しちゃったの。それで、ママが暴れちゃってあわてて、二人で家を出ちゃって」
「そ、そんな事があったの?」
美緒ちゃんはあっさりとした口調で事の顛末を説明したが、幸助はその話を聞いて、また視線を逸らしてしまう。
「別に無理に言わなくても良いのに」
「何でー? ソウ君、美緒のお友達だよ。幸助君もそうでしょう」
「そうだけどさ。お前が色々と菜緒さんの世話をしてくれたんだろ」
「菜緒さん? ああ、美緒ちゃんのお母さんの事?」
「そうそう。あはは、俺が本当はやるはずだったのにさ。ゴメンな……でも、やらないと美緒が代わりに扱き使われそうなんで」
「美緒ちゃんが?」
家事を美緒ちゃんがやらされている的な事を言っていたのは覚えているが、美緒ちゃんに負担をかけないために幸助がやっていったって事?
ちょっと家庭事情がグロすぎて、あまり関わらない方が良くないかと思っちゃうけど、幸助も何でここまでするのか。
「今日はすまなかった。出来れば俺が美緒の家の方はやっておきたかったんだけど、お前に余計な負担をかけしまったみたいで。美緒とお母さんがちょっと取っ組み合いになって一触即発になっていたから、俺一人じゃ止めるの厳しいかもって思って、呼んだんだ」
「そう言う事ならしょうがないけどさ……」
美緒ちゃんとあのお母さんが取っ組み合いに近い喧嘩になったから、俺を呼んだのか。
そういう事は早く言って欲しいなと思いつつ、美緒ちゃんはこれからどうするんだろう?
「美緒ちゃん、今夜はこれから家に帰るの?」
「うん、帰るよ」
「大丈夫? また喧嘩したりしない?」
「へーきだよ、美緒は」
と、あっけらかんとした笑顔で言うが、やっぱり不安だ。
でも美緒ちゃんのお母さんの様子も特に変わった感じはなかったと言うか、喧嘩したなんて雰囲気ではなかったから、大丈夫だと思いたい。
「何かあったら、すぐに俺に連絡しなよ」
「わかった。ありがとー、ソウ君」
「じゃあ、俺は家まで美緒を送っていくから。今日は迷惑をかけちまったな。じゃな」
と話して、美緒ちゃんと幸助は俺の元から去っていき、幸助は美緒ちゃんを家に送っていく。
一応、俺も来た方が良いかと思ったが……まあ、何かあったら、幸助か美緒ちゃんのどっちかは連絡してくれるだろう。
そう言い聞かせて、家路に着いたのであった。
数日後――
「それじゃ、出席取るぞ」
月曜日になり、朝のホームルームで担任がいつものように出欠を取っていく。
今日も美緒ちゃんは遅刻か。
彼女の遅刻はいつものことなので、別に不思議な事でもないんだけど、家庭事情がああだとやっぱり心配になるな。
幸助はいつもと変わらない……というか、ちょっと疲れている感じがする。
あいつも大変なのかもしれないが、美緒ちゃんと付き合うって決めたのは幸助自身なので、ちゃんと面倒を……見るのは酷なのかも。
「すみません、佐藤先輩。ちょっといいですか?」
「桐子ちゃん。どうしたの?」
昼休みになり、桐子ちゃんが廊下で俺に話しかけてきたので、何事かと振り向くと、
「美緒ちゃんの事なんですけど、彼女、大丈夫なんですか?」
「どうしたの?」
「何て言うか、さっき中庭で見かけたんですけど、ずーっと上の空というか、変な歌を歌っていて、ちょっと心配になっちゃって」
「美緒ちゃん、時々そういうことあるんだよ。てか、心配なんだ、桐子ちゃん」
「一応、新体操部の部員なので。でも、何で入部を許可しちゃったのかなあ……基本、本人が入りたいって言えば、私に拒否する権限何かないんですけど、それでもねえ……」
「へえ、新体操部に入ったんだ」
桐子ちゃんは内心、乗り気ではなかったみたいだが、それでも新体操部への入部は認めてくれたんだな。
だったら、それをきっかけに美緒ちゃんがまともになってくれることを祈るしかないが、家庭事情はどうにもならない。
「あらー、桐子ちゃんに佐藤君。どうしたの二人して?」
「矢口。それに水谷先輩も?」
「こんにちは。鎌田君はどうしたんですか?」
「あいつは、美緒ちゃんと一緒にお昼みたいで」
「彼女、今日も三時間目になってやっと来たんですよ。そんなに遅刻ばかりして、進級大丈夫なんですか?」
「進級に関しては遅刻はそこまでペナルティーにならないらしくて……それに、そこは生徒会の権限ではありませんから」
美緒ちゃんと幸助は学食に一緒に行ったらしいが、あの二人に亀裂が入っているとか、そんな話ではななさそうだな。
「それより、三人ともよろしいですか? 桐子ちゃんと佐藤君も」
「何でしょう?」
「生徒会室でちょっと話があります。時間は取らせないので……」
水谷先輩に言われて、俺と桐子ちゃん、矢口の三人は生徒会室へと案内される。
何だろう? 俺、別に何も問題になるような事はしてないんだけど。
「どうぞ」
「失礼します。何ですお話って?」
「あの、美緒ちゃんの事なんですけど……彼女の家庭の噂聞きました?」
「家庭の?」
水谷先輩がかなり言いにくそうな顔で、そう切り出すと、美緒ちゃんの家庭の噂って……?
「美緒ちゃんのお母さんが色々と問題を起こしている人みたいで……噂だと地元の店を出禁になっているとか。万引きとか問題行動を起こしていて」
「ええ?」
そんな話、初めて聞いたが、美緒ちゃんのお母さんがそんな人だったの?
確かにまともじゃなさそうだったのでは、この前話してみてわかったけど。
「何ですかそれ? ちょっとヤバ過ぎるでしょう」
「はい。別にそれは家庭の問題なので、私達がどうこう言う事ではないんですけど、鎌田君がですね……彼女の家に出入りしているんですよね?」
「みたいですね。家事を手伝っているとか」
「あのゴミ屋敷を手伝うとかもの好きも良い所よ。私も桐子ちゃんも手伝わされて酷い目にあったし。幸助もさっさとあんなのと縁切れば良いじゃない」
「や、矢口……」
流石にそれは言い過ぎと言いたかったが、あの母親を見ると、それも全否定できないのは辛い。
美緒ちゃんと深い仲になると、あの母親の介護をやらされるってなら、そりゃ幸助も疲れちゃうよな。
「鎌田君も心配なんですよ。最近、元気なさげで」
「わかります。私がラインを送っても返信遅いですよ、最近の先輩」
「そうそう。美緒ちゃんの家の介護係なんて、幸助がやることないのよ。さっさと別れさせた方があいつの為だわ。そう思うわよね?」
「お、思わないよ。あいつの好きにさせれば?」
矢口が断定口調でそう言ってきたが、幸助やあの美緒さんのお母さんの事を思うとそれも考えてしまう。
美緒ちゃんとの仲を応援するのは……別に良いんだよな?




