第二十話 なぜ自分がこんな事を?
「マジで何処に行ったんだろう?」
学校の中を探し回ったが、美緒ちゃんは一向に見つからないし、連絡も付かない。
幸助のところにも行ってないってなると、あと美緒ちゃんが行きそうな場所は……うーん。
「何やってんだろうな美緒ちゃん」
悩みが有るなら相談してくれれば良いのに、それもしてくれないんて。
俺達は友達なんだろ?
部活はサボっても、幸助とのデートには恐らく行くだろうから、いつかは出てくるんだろうけど、あの子が連絡が取れない状態ってのは心配だ。
「何処に行ったのか……ん? あれは」
学校近くの川を自転車で押しながら歩いていくと、河川敷のほとりで一人の女子が座っているのが見えた。
あれはまさか……間違いない。
「美緒ちゃん」
「んーー? ソウ君だー。どうしたの?」
「探したよ。どうしたの、こんな所で? 今日は新体操部の練習に行っていたんじゃないの?」
「そうだっけ? それより見て―。猫ちゃんだよ。可愛いでしょう」
新体操部の練習があることを忘れていたのか、それともとぼけているのか知らないが、猫と戯れている姿はどこか寂し気に見えた。
「猫好きなんだ?」
「うん。でも、家では飼えないんだ。ママも世話してくれないし」
「そう。それより、新体操部はどうするの? 桐子ちゃん、心配しているよ。今からでも行ってきたら?」
「ソウ君が探してくれたんだ。でも、どうしようかなー。美緒、新体操部でちゃんと出来ると思う」
「俺は思うよ。もしかして、新体操部で練習するの嫌になった?」
「んーーーー?」
美緒ちゃんが首を傾げながらしばらく考え込む。
本当に嫌になったのか? だったら、無理に行かなくては良いと思うけど、桐子ちゃんには一言、辞めるとは告げないと……。
「行くー」
「あ、行くんだ。じゃあ、行こうか。学校まで送るよ」
「ソウ君は続けて欲しいんでしょう? なら、美緒、新体操部に入るよ」
「いや、俺は美緒ちゃんの好きにして良いと思っているから」
続けて欲しい気持ちもあるけど、別に辞めても良いって言うか。
「本当? えへへ、ありがとう。あ、猫ちゃん、またねー」
俺の説得に応じてくれたのか、美緒ちゃんは抱いていた猫を離し、立ち上がる。
美緒ちゃん、最近は素直になってくれたな……うん、これなら大丈夫だな。
「行くよー。美緒も、新体操部で桐子ちゃんみたいに格好良く新体操やるんだもん」
「はは、頑張って。それじゃ。あのさ、俺、何度かLINEしてたけど、出来ればすぐに返信してほしいなって。何の連絡もないと不安だし」
「うん。じゃね」
学校まで送っていくと、美緒ちゃんは笑顔で手を振って学校の中に入り、体育館へと向かっていく。
練習時間だいぶ過ぎちゃったけど、少しは出来るだろう。
桐子ちゃんも美緒ちゃんが遅刻の常習犯であることを知ったうえで、美緒ちゃんを新体操部に受け入れてやっているんだからな。
数時間後――
「んーー? 誰だよ……幸助? はい」
『宗太? ちょっと良い?』
「何だよ、こんな時間に」
昼飯を食い終わった後、自室で昼寝をしていたところで幸助から電話がかかってきたので何事かと思いながら、起き上がると、
『頼みがあるんだ』
「断る」
『まだ用件言ってねえだろ! 美緒の家に今すぐ来てくれない? な?』
「何でだよ。また家事を手伝えってか? 冗談じゃないよ、お前がやってくれ」
『そ、そうじゃなくて……ああ、すぐに来てくれない? 頼むよ』
「はあ……」
何だか急な用事っぽかったので、溜息を付きながら、美緒ちゃんの家までまた行くことにした。
勘弁してほしいよ。てか、デートなんだから、外で美緒ちゃんと思いっきり楽しめば良いのによ。
「おーい、どうした?」
自転車で美緒ちゃんの家まで行き、呼鈴を押して、玄関の戸を叩く。
幸助と美緒ちゃんもいるんだよな?
「…………」
反応がない。あれ、誰もいないの?
「すみませーん」
玄関から音沙汰がなかったので、庭の居間の方に回り、様子を伺ってみる。
家に誰もいる気配がない?
どういう事だろう? だって、幸助が来いって言ったんだから、あいつは家にいると思ったんだが……。
「すみませーん! 美緒さん、居ますか?」
もう一度大きな声で美緒ちゃんの名前を呼んでみる。
もしかして、イタズラだったのか? 幸助がそんな事をするとは思えないんだが、もしそうだったら、しばき倒してやりたい気分だよ。
「ちっ、しょうがない。帰るか」
行っても誰も出てこないんじゃ、ここに居ても仕方ない。
そう思って帰ろうとすると、
「ガラっ!」
「え?」
玄関の前を通った所で、急に玄関の引き戸が開けられ、美緒ちゃんのおばさんが出てきた。
「えっと、あなたは……」
「君は誰だっけ?」
「は? あ、あの、俺は美緒さんのお友達で佐藤宗太って言います。前に名乗りませんでしたっけ?」
「あらー、そういえばそうだったわね。悪いけど、ちょっと中に入って付き合ってくれない? 美緒も彼氏さんもどっかに行っちゃったの」
「へ? は、はあ……幸助と美緒さん、家に居ないんですか?」
「そうなのー。彼氏さんが美緒を連れて、ついさっきどっかに行っちゃってねえ。代わりに君でいいわ」
「はあ? な、何かあったんですか?」
「いいから、いいから」
美緒ちゃんのお母さんがいきなり俺の手を掴んで、強引に中に入れて行く。
ちょっ、何なのこの人?
何か凄くヤバイ空気を感じてしまったんだが、これはどういう事か……。
「あのー、何か?」
「片付けて」
「はい?」
「ここー、私の部屋の中。あなたが片付けて。このままじゃ、眠れないの」
「…………どうして、俺が? 自分でやれば良いじゃないですか」
「普段は美緒と彼氏さんがやっているんだけどー、何かさっき逃げちゃったのよね。代わりにあなたがやってくれるみたいだから、やってよ」
「…………」
何言っているの、この人?
いきなり自分の部屋に俺を強引に入れておいて、いきなり部屋を片付けろだあ?
頭おかしいんじゃねえか? 普段、美緒ちゃんやその彼氏の幸助にやらせているってのもおかしいけど、この母親、見た目はかなり若くて可愛らしいけど、何かヤバそうな空気がブンブン漂っている。
「ほら、早く。前はやってくれたじゃない」
「あのですね。いきなり言われても困ると言いますか……」
「ああ、お礼が欲しいのね。じゃあ、ちょっとじっとしてて」
「はい? って、何やってるんですか!?」
美緒ちゃんのお母さんが急に衣服を脱いで下着姿になろうとしたので、慌てて目を逸らす。
「何でって、お礼欲しいんでしょうー? じゃあ、ママを抱けばやってくれるのよねー?」
「そ、そんな事、誰も言ってないですよ! わかりました! やりますから、服着てください!」
「何だー、ママを抱きたくないんだあ。私、こう見えても若くて可愛いって言われているのになあ。パパももうずっと帰ってこなくて、連絡もしてこないし、ご無沙汰なんでえ」
こ、この人、本当に大丈夫?
俺の目から見ても明らかにおかしいし、まさか、幸助にも同じことをやっていたりしないだろうな?
「くそ、何で俺がこんな事を……」
美緒ちゃんのおばさんの部屋を片付け、更に他の家の掃除や風呂掃除までやらされることになってしまい、あまりの理不尽な扱いに憤りを抑えることが出来なかった。
まるで俺が奴隷扱いじゃないか。美緒ちゃんはともかく、あの母親はぶっちぎりでおかしい。
それに幸助も何だよ、あいつも俺に押し付けるような真似をしやがって。
「わー、綺麗にしてくれたんだ。どうもありがとうねえ」
「どういたしまして。今度からは自分でやってくださいね」
「親切な子よねえ。ねえ、ママのお世話、これからもしてくれないー? ママの事、抱いてもいいから、ねー?」
「…………お断りします」
「えー、私、可愛いのになあ」
確かに年齢よりは若く見えるけど、そういう問題じゃねえよ。
あんたの非常識さに呆れているのと、幸助と美緒ちゃんにも次第に怒りが湧いてきてしまい、この場に居るのが嫌になってきた。




