第十八話
「いつもこのスーパーで買い物しているの」
美緒ちゃんと一緒に夕飯の食材を買いに、近くのスーパーに行く。
というか、学校帰りに何でこんなことをせにゃならんのか。
まあ、ついでに美緒ちゃん家で夕飯をいただいておくかな。掃除だって手伝ったんだし、そのくらいはしても罰は当たらないだろう。
「美緒ちゃんがいつも夕飯を作っているの?」
「うん。美緒はお料理得意なんだ」
「ふーん」
さっき、美緒ちゃんのおばさんが美緒ちゃんの料理はまずいとか言っていたけど、自分では得意なつもりなのか、それとも単に口に合わないだけなのか。
というか、母親は何やっているの? もしかして、病気で臥せっているとか?
だったら俺があまり踏み込んで良い話ではないんだけど、娘とその彼氏や友達に彼氏をやらせたあげく、またあんなに家を散らかすってちょっと異常過ぎる。
「ソウ君もお料理得意なんだ」
「得意って程じゃ……ウチの両親、今は単身赴任中でさ。俺が家の家事をやらないといけない状況なんだよね」
「へー、偉いね」
別に偉くはないし、そうせざるを得ないからやっているってだけだけどな。
むしろ美緒ちゃんの方が家が複雑そうで大変じゃないか?
「じゃがいもと豚肉と……美緒ちゃん、魚とか好き?」
「好きー」
「そっか。じゃあ、鮭でも焼くかな」
「鮭―。美緒も好きー」
ならよかった。
肉じゃがだけだと味気ないから、他にサラダとかみそ汁も……あ、そこまで凝っちゃう必要あるかな。
「えへへ、ソウ君が作ってくれるんだよね?」
「ああ。今夜だけだよ」
「うん。明日は幸助君に作ってもらうから」
「そ、そう」
俺だけじゃなくて、幸助にも同じようにやらせているのね。
あいつも大変だな……と思ってしまったが、人の世話をするのが好きだから、それも苦ではないのかな。
「んじゃ、ちょっと待っててね。三人分作れば良いのかな」
「ソウ君も食べていくんだー。いいよ、食べてー」
「はいはい。じゃあ、美緒ちゃんはちょっと待っててくれ」
食材を買い出しした後、台所に行って 美緒ちゃんの家の夕食の準備を始める。
取り敢えず、肉じゃがとか魚だな……あ、後、ご飯も炊かないと。
やることが多すぎて、微妙に大変なんだが、何で俺がこんな事をしないといけないんだが。
色々と納得できないことも多いが、今日だけ……今日だけと言い聞かせて、料理を始めていった。
「で、出来た」
「ありがとー。ソウ君、とっても美味しそう」
途中、スマホでレシピを見ながら、どうにか肉じゃがと鮭の塩焼きなんかを作り終え、ようやく一仕事を終えたので、その場にあった椅子に崩れ落ちる。
はあ……何とか形にはなったか。
三人分作ったけど、俺はどうするかな……頂いても良いのか、ちょっと悩んでしまったが、
「ソウ君も食べよう。ママも呼んでくるね」
「あ、うん」
俺が料理をしている間も、美緒ちゃんのおばさんはずっと部屋に籠っていたみたいだけど、一体、どんな人なんだ?
「あらー、お友達が作ったのねー。どうも」
「あ……こんばんは」
美緒ちゃんのおばさんがようやく部屋から出てきて、台所にやってきた。
ちょっと小柄だが、美緒ちゃんに似た感じの幼い雰囲気のする女性で、髪を後ろに束ねており、キャミソールとタンクトップというラフな格好だった。
いかにも美緒ちゃんのお母さんって感じだが、この人、何歳なんだ?
随分と若く見えるが……まあ、どうでも良いか。
「美緒ちゃん、この前の彼氏とは別の男ねえ。この子はお友達?」
「うん。同じクラスのソウ君って言うの」
「そうなのー。じゃあ、この子も良い子そうねえ。じゃあ、いただきまーす。パク……んーー、ちょっとこの肉じゃがしょっぱいわねえ」
「す、すみません」
美緒ちゃんのおばさんは俺への挨拶もそこそこに肉じゃがを食べると、ちょっと微妙そうな顔をして、そう言ったが、もしかしてお口に合わなかった?
醤油を多く入れ過ぎちゃったかなって思ったんだが、味見した限りでは上手く出来たと思ったんだけどな。
「美緒は美味しいと思うよー。ありがとう、作ってくれて」
「ありがとう」
「前の幸助君の方がおいしかったわねー。あの子、まだ来ないの?」
「明日来るみたいだよ。このソウ君も、美緒のお家のお手伝いをしてくれるって言っていたよ」
「そう。良いお友達を盛ったわねえ。これからもよろしくね」
「は、はあ……」
何だこの家族は?
娘の彼氏とその友達にこの家の家事を任せるつもりなの?
何か事情があって出来ないのかもしれないけど……いくら何でも、おかしすぎない?
その割には大して感謝している様子もないっていうか、さも当然のような態度を取られるのはちょっと鼻に付いてしまう。
顔は可愛いのに、やることはえげつないな。
「ご馳走様ー。後片付けもお願いね」
「美緒も手伝う」
「ど、どうも。お粗末さまでした」
美緒ちゃんの母親は食べ終わると、そそくさと台所を後にしてしまい、食器をそのままにして片付けまで俺に任せてしまった。
はあ……何なのこの家族は? 今まで色々な友達の家にお邪魔したけど、家事や炊事を押し付けられたの初めてだよ。
しかも、魚も肉じゃがも三分の一くらい残しているし……そりゃ、上手くは出来なかったかもだけどさ。
「今日はありがとう。ソウ君がお家のお掃除やご飯をやってくれて、美緒、凄く助かったよ」
「ああ、美緒ちゃんにそう言ってくれると嬉しいよ。いつも幸助がやってくれてるのか?」
「最近、生徒会の仕事が忙しいとか言って、あんまり来てくれないの」
「なるほど」
あいつの事だからないかと思ったが、もしかしたら、美緒ちゃんの家の事を手伝うのがもう嫌になったのかもしれない。
そりゃあんな態度を取られたらな……もうちょっと感謝してほしいよ、家事を無償でやったんだから。
「美緒のパパ、もうお仕事で何年も帰ってこないんだ」
「そうなの? 何年も帰ってこないって、どういうこと?」
「稼げるお仕事があるってどこかに行ったきり、帰ってこないんだ。お祖母ちゃんも入院中で、大変なの」
マジかよ。それ、蒸発したってこと?
じゃあ実質美緒ちゃんとお母さんの二人暮らしじゃん。
じゃあ、大変だな……思った以上に複雑な家庭なんじゃないか。
「だから嬉しいなあ。美緒、ママと二人だと寂しいし。もっとお友達いっぱい来てほしいの。でも、美緒の家、みんな一度来たら、行くの嫌がる子多くてえ……」
「ま、まあそれはね。わかった。俺は出来る限り行くようにするから。幸助と一緒にさ」
「ありがとー。美緒ちゃんとソウ君はやっぱりお友達だね!」
「う、うん」
家庭環境が複雑そうだったので、美緒ちゃんの事も不憫になってしまい、思わずまた来ると言ってしまうと、美緒ちゃんも嬉しそうに俺の手を繋いで喜ぶ。
しまった。今日だけと思っていたのに、自分から来るとまた言ってしまったよ。
俺もお人好しだな……だけど、美緒ちゃんの嬉しそうな顔を見てしまうと、とてもじゃないけど、もう二度とこないなんて事は言えなかった。




