第十七話 彼女を追いかけていったら
「幸助、お前ちょっと鈍感すぎるだろ」
「鈍感って言われても……」
前々から思っていたが、流石にここまでだとイラついてきたので、問い詰めると本気でわかっていないのか、キョトンとした顔をして首を傾げていた。
「そう言わないでよ。幸助って昔からこんなだし。大体、佐藤君だって美緒ちゃんと二人でよくいるじゃない。だったら、幸助が幼馴染の私と一緒にいてもおかしくないでしょ」
「そ、それはそうだけど……」
矢口が幸助に密着しながら、得意気な口調でそう言ってきたが、最近は俺も幸助の彼女である美緒ちゃんとよく二人でいる気がするので、言葉を詰まらせてしまう。
「それとも、佐藤君って美緒ちゃんとデキてるの?」
「んな訳ないだろ! 美緒ちゃんが新体操部に入るって言うから、応援しているだけだって」
「いや、それがおかしいんだけどさ。普通、友達の彼女相手にそこまでする? どう思う、幸助。佐藤君が最近、美緒ちゃんと仲良いの?」
「どうって言われても……宗太は、美緒と疚しい関係じゃないんだろ。だったら、別に構わないよ。俺も四六時中、あいつを見てやれるわけじゃないんだし、美緒だって友達付き合いだってあるだろ」
幸助はあっさりとした口調でそう言ったが、やっぱりこいつもおかしい。
俺の事を信用しているって事なんだろうけど、いくら何でも美緒ちゃんの気持ちを察しなさすぎるだろ。
「もういいよ。それより、美緒ちゃん心配だから、行ってくる」
「あ、おい」
「またねー、佐藤君。ほら、もう行こうよ。美緒ちゃんのお守は佐藤君に任せれば良いじゃない」
「そ、それは……」
矢口に強引に手を引かれて、幸助はこの場を立ち去ってしまった。
駄目だこいつは。彼氏失格だろ。そこは矢口の手を振りほどいてでも美緒ちゃんを追うべきところだろ。
かといって、俺が美緒ちゃんを奪う気もないけど、二人を無理に仲直りさせてもいいものか、ちょっと考えてしまう。
(そんな事より、美緒ちゃんを追わないと)
幸助が頼りない以上、俺が何とかしないといけない。
美緒ちゃんの支えになれるのはもしかしたら俺だけかもしれないんだ。
「美緒ちゃんは……あ、いた。おーい」
「ソウ君」
「はあ、はあ……やっと追いついた。美緒ちゃん、大丈夫?」
「? うん、平気だよ。ソウ君こそ、どうしたの?」
「いや。美緒ちゃんの事が心配になってさ。幸助がなんていうか……」
どう説明すれば良いのか。
矢口と二人で仲よくしていたのはもちろん軽率ではあると思うけど、俺だってあいつの彼女である美緒ちゃんとこうしているとなると……。
「もう、あいつの事、怒ってない?」
「んーー? 怒ってないよ。幸助君と喧嘩したことないし」
「え? あ、ああ……そうなんだ」
キョトンとしたかおをして、美緒ちゃんはそう答えたが、さっき明らかに怒っていたって言うか落ち込んでいた表情を見せていたんだけど……。
(本当に何も気にしてないのか?)
もしくは俺に気を遣っているとか、強がっているとか?
うーーん……美緒ちゃんの表情からはそれを読み取れない。
「明日は結局、どうするの?」
「美緒の家に来る?」
「俺が?」
「そう。美緒の家、また来てほしいな、ソウ君に」
あのゴミやし……いや、俺達で片付けたから、今はあんなに酷くはないはずだ。
ま、どうせ家に帰っても一人だし、ちょっと上がって行っても良いかもしれない。
「じゃあ、お邪魔しようかな」
「うん。えへへ、ソウ君もお友達だから、美緒の家に招待するのうれしーな」
無邪気な笑顔をして、俺を自宅へと案内していく美緒ちゃん。
待てよ、美緒ちゃんの両親とかいたらどうしよう?
男を連れ込んだら、絶対になんか言われそうだが……友達と言えばいいか。
「ただいまー」
「おじゃまします。げっ!」
美緒ちゃんと一緒に彼女の自宅に入ると、そこは目を覆いたくなるような光景が広がっていた。
前と同じように家の中がグチャグチャになっているじゃねえか……この前よりは少しマシになっているが、それでもどうしてこうなったってくらい、ゴミ袋やら割れた花瓶なんかも散乱していて危ないだろ!
「ねえ、ソウ君。今日も掃除手伝ってくれる? 美緒だけじゃ、掃除するの大変」
「お、俺が? いいけど……」
美緒ちゃんが上目遣いでそう頼んできたので、思わずそう言ってしまったが、トホホ……また俺がやるのかよ。
しかも前は幸助や矢口、桐子ちゃんもいたけど、今回は美緒ちゃんと俺だけだからな。
「ぜえ、はあ……こ、こんな物で良い?」
「うん、ありがとー」
それから家の中をどうにか片付けて掃除機や箒をかけ、それなりに綺麗に出来たが、何であんなに汚れちゃうんだよ。
俺もそんなに掃除を頻繁にしている訳じゃないけど、ここまでゴミ屋敷にしたりしないぞ。
「ママがどんだけ掃除しても散らかしちゃうの。お祖母ちゃんも入院中だし、パパもお仕事でいないしで、美緒が家事をやっているんだ」
「美緒ちゃんのおばさん、どうしているの?」
「部屋にいるよ」
「そう……」
美緒ちゃんが襖が締め切った部屋を指を指すが、そこが美緒ちゃんの母親の部屋か。
というか今いるの?
「美緒ちゃーん。ママのお部屋も掃除して。あと、ご飯も作ってよー」
「…………うん。今、お友達も来ているの」
「そう。お友達にも手伝ってもらってるんだー。その子によろしくね。お腹空いたから、早くご飯作ってね」
「うん。ソウ君も料理得意って言っていた」
「じゃあ、そのソウ君にお料理作ってもらってー。美緒ちゃんの料理まずいからさー」
と、襖越しで美緒ちゃんのおばさんがいうが、ちょっと何なのこのひと?
もおしかして、美緒ちゃんに家事を任せているのか?
ずっと家にいるのに? 何をしているんだよ、この母親は? 病気か何かか
「早くご飯作らないと」
「俺も手伝うよ」
「ありがとー。ソウ君、ご飯作れるの? 幸助君は結構上手だったけど」
「まあ、簡単な料理なら。俺も今、一人暮らしでさ。両親が出張で家にいなくて」
「そうだったんだ。じゃあ、美緒ちゃんのお手伝いしてくれる? 幸助君が前はやってくれたけど、幸助君も毎日は来れないって言って、最近はあまり来てくれないの」
「う、うん」
出来る限りはするけど、女友達の家の家事を俺がやらないといけないの?
いやいや、おかしいよ、それ。
幸助が付き合っているなら、そういう事はやってくれって。
でも折角上がったんだし、今夜だけは……今夜だけはだぞ。
「今日は肉じゃがを作るの。ソウ君、肉じゃが作れる?」
「ああ……何とかやってみるよ。材料はあるよね?」
「うん。ほら、じゃがいもとお肉があれば良いんだよね?」
「あとはタマネギかな……って、冷蔵庫も……」
冷蔵庫も開けてみると、案の定、中が散らかっている。
肉は大丈夫なのか? おおいっ、とっくに消費期限切れてるじゃねえか!
「美緒ちゃん。お金ある?」
「ん?」
「ゴメン、肉じゃがを作りたいなら、今から材料を買いに行こう。後、何か他にもおかずがあった方が良いと思う」
「今から買うの?」
「そうだよ。ああ、このレタスも腐っているじゃないか。駄目だよ、すぐに処分しないと。って、冷蔵庫も片付けないと」
賞味期限切れで明らかに駄目な食材なんかは、もう生ごみとして処分するしかないので、またゴミ袋の中に入れる。
トホホ、何でこんなことをしないといけないのよ。
今まで幸助がこんな事をやっていたのか? それじゃ、嫌になるよなと思いつつ、美緒ちゃんと一緒にスーパーに行き、食材を買いに行ったのであった。




