第十五話 二人は別れたの?
「それでさー、この前行った店で……」
「へえ、そうなんだ」
次の日、休み時間になると、矢口がまた幸助に話しかけてきていた。
美緒ちゃんは既に来ているんだが、隅っこの方でおとなしそうな女子の友達と話しており、今日は幸助と会話をしている様子もなかった。
(大丈夫か、あの二人?)
何だか傍から見ると、段々と疎遠になってきている気がするんだが、美緒ちゃんもあんまり幸助に話しかける頻度が少なくなっている気がする。
まあ、幸助と美緒ちゃんの問題なので、俺がどうこう言える立場でもないんだけどさ。
美緒ちゃんの面倒を色々と見てきた身としては、やっぱり他人事とは言えない。
なんせ美緒ちゃんの家の掃除もしたし、先輩の参考書の弁償も肩代わりしてるんだからね。
「ソウ君、今日も新体操部に顔を出すの?」
「え? 行かないつもりだけど、俺が来た方が良いの?」
「美緒もソウ君が来てくれると、安心するよー」
「う、うーん……おれ、部員じゃないしさ。桐子ちゃんはどう思っているかなって思って」
あくまでも部外者なうえに、俺は一応男子なので、あんまり顔を出されると、桐子ちゃんだって嫌なんじゃないかな。
「ダメー?」
「桐子ちゃんが何て言うかだな。部長は彼女なんだろ? それに、俺が見てなくても、もうしっかり練習できるようになったんなら、別に俺が行かなくても良いんじゃない?」
「むうう……ソウ君が見てくれると、美緒も練習に身が入るのに」
俺だって、美緒ちゃんを応援したい気持ちはあるけど、部員でもマネージャーでもない俺が用もないのに体育館にしょっちゅう出入りすると、他の部の部員からも変な目で見られそうだし、何より美緒ちゃんにとっても良くない気がする。
「ま、まあ体育館までは一緒に行こうか。そこで桐子ちゃんに聞いてみるか」
「うん」
美緒ちゃんがどうしてもと言わんばかりの上目遣いで俺に来てくれとせがんできたので、その目に負けてしまい、一先ず体育館までは一緒に行くことにした。
幸助はもう矢口と帰ってしまったみたいだな。
幼馴染だから、一緒に帰っても不思議ではないんだけど、彼女持ちの男子な訳で、よく一緒に帰れるなと感心してしまう。
美緒ちゃんも何とも思ってないのかね……やっぱり、二人になんかあったのか心配になる。
「ちょっと佐藤君、良いですか?」
「はい? 水谷先輩、どうしたんですか?」
「お話が……美緒ちゃん、ちょっとだけ、佐藤君とお話があるから、いいかな?」
「うん」
体育館に着いたところで、水谷先輩が俺に声をかけてきたので、彼女の元へ行く。
何だろう? ちょっと深刻そうな顔をしているけど、何かあった?
「それで、お話とは?」
「あ、あのですね……幸助君なんですけど……彼、美緒ちゃんと別れたりしてません?」
「は? いえ、別れてはいないと思いますけど」
「そうなんですか……さっき、矢口さんと一緒に帰っている所を見たんですか、もしかしてと思いまして」
ああ、矢口と二人でいるところを見たんだ。
それで幸助と美緒ちゃんが別れたんで……とか。
「はあ……矢口さんも大胆ですね。美緒ちゃんという彼女がいてもお構いなしなんですか」
「はは、彼女は幼馴染なんで」
「む……幼馴染ってのはやっぱり良いですね。幸助君が彼女がいても、二人でいて不自然はない関係なんですね」
と、ちょっと悔しそうに水谷先輩が言うが、幼馴染だとしても、彼女が居るなら少しは遠慮するものじゃないのかな。
「あ、すみません。変なお話をしてしまって。そこだけ確認したかったんです。せ、生徒会長として役員が不純異性交遊していては、示しがつきませんから」
「で、ですよね」
と、苦しい言い訳をして、水谷先輩は俺の元を去っていったが、まだ幸助の事、気になっているんだな。
まあ、美緒ちゃんと幸助の関係が怪しくなってしまったなら、ワンチャンあるかもって思っても不思議じゃないんだろう。
「美緒ちゃん、お待たせ。あ、桐子ちゃんもこんにちは」
「こんにちは佐藤先輩。今日も来たんですね」
体育館に行くと、桐子ちゃんと美緒ちゃんは既に一緒にストレッチをしていた。
すっかり、美緒ちゃんも新体操部の部員として馴染んでいるみたいだな。
「うん。あのー、俺が来るとやっぱり迷惑だったりする?」
「いえ? 別に迷惑だなんて思ってませんけど?」
「あはは、俺、部員じゃないしさ。しかも、男子でしょう? 二人の邪魔にならないかなって」
「佐藤先輩が私達の練習の邪魔をするような人ではないってのはわかっていますから。それに、美緒ちゃんも先輩がいると、結構練習に気合が入るみたいですよ」
「そうなの?」
「うん。佐藤君の応援があると励みになるよ」
と、柔軟をしながら、美緒ちゃんも笑顔でそう言ったが、どうやら俺が見学をすること自体は二人とも問題にしてないようだ。
(それにしても、俺が見学をすると練習に気合が入る見たいって……)
美緒ちゃん、よくそんな事を他人に、しかも桐子ちゃんに言えるな。
これも幸助に聞かれたら、かなりマズイ発言だと思うんだけど、やっぱり二人の間になんかあったりする?
疑心暗鬼になっているかもしれないが、二人の様子はどうしても違和感を感じてしまう。
「佐藤先輩がいれば、美緒ちゃんも変なことをしないと思いますし、いざって時は頼りになりますから。あ、エロイ目では見ないでくださいね」
「そんな目で見ないよ。じゃあ、桐子ちゃんは本当に良いんだね?」
「はい。ああ、すみません。先輩にも話があるので、この後、少し良いですか?」
「俺に? いいけど」
水谷先輩に続いて、桐子ちゃんも俺に話があるのか。
何だろう? また幸助の事だったりする?
「美緒ちゃん、その態勢です。しばらく、そのままで居てください」
「う、うん」
美緒ちゃんを壁際に立たせて、右足を思いっきり上げた状態で、そのままの体勢でしばらく固定させる。
こうやって、体を柔らかくさせているんだな。
よく見ると、美緒ちゃんも徐々に体が足が開くようになってきている気はする。
「先輩、良いですか?」
「何?」
「美緒ちゃん、幸助先輩と別れたんですか?」
「はい? 何で?」
「何でって、最近、幸助先輩、凪先輩と仲良いじゃないですか。もしかして、二人の関係が破綻したのかなって」
「…………」
桐子ちゃんまで、先輩と同じことを聞いてくるとは。
二人とも幸助と美緒ちゃんの関係に違和感を感じているって事なのか。
「今度、デートする約束があるって言っていたから、別れてはいないと思うよ」
「ふーーん……でも、あれですかね。このまま新体操に美緒ちゃんが打ち込んでくれれば、二人の関係が疎遠になって、自然消滅とか有り得るんじゃないですかね。今の状態だと」
「そ、そういう事は言わない方が良いよ」
桐子ちゃんも真剣な顔をしながら、とんでもない事を呟くが、やっぱり根はちょっと黒い子なんだな。
「桐子ちゃん、まだー?」
「ああ、ごめんなさい。もういいですよ。はい、お疲れ様。美緒ちゃん、だいぶ足が開くようになっているじゃないですか。もう少し頑張れば、本格的な練習に入れますよ」
「本当? 美緒、凄い?」
「すごいすごい」
「えへへ、じゃあ頑張るね」
桐子ちゃんが褒めると、美緒ちゃんも更に気合が入ったのか、練習に身が入ったようだ。
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