第十三話 彼女は本気?
翌日――
「ねえねえ、幸助君。美緒、昨日は新体操部に行ったの」
「新体操部? 桐子ちゃんの所の?」
「うん、佐藤君と一緒に行ってね……」
一時間目が終わった後の休み時間の頃にまた遅刻して美緒ちゃんが教室に入ってくると、楽しそうに幸助に昨日の事を話していく。
昨日の新体操部の体験入部は、美緒ちゃんに取って本当に楽しい一時だったようで何よりだ。
このまま本当に入部しちゃうのかな……二年生だけど、桐子ちゃんなら親身に指導してくれそうだし、美緒ちゃんでも何とかなるかも。
「新体操部に入ったんだ。意外だな」
「まだ入ってないよ。昨日は体験入部だって」
「はは、そっか。桐子ちゃん、新体操に関しては真剣に打ち込んでいるからなあ。てか、宗太も一緒だったんだ?」
「ああ。ちょっと桐子ちゃんに話があったんで、そのついでというか」
最近、美緒ちゃんと一緒にいる時間が多いので、変な誤解をされてないか心配だが、幸助は相変わらず嫉妬している様子もなく、のほほんとしていた。
彼女が友達の男子と仲良くしていても、みんなこんな感じなのか?
あんまり独占欲が強いのもどうかと思うけど、もうちょっと俺の美緒に馴れ馴れしくするなって言ってもおかしくないんじゃないかな……。
「美緒も桐子ちゃんみたいになるよー。綺麗にクルクル踊って、妖精みたいになるの」
「頑張ればきっとなれると思うぞ。美緒は体は柔らかい方だったっけ?」
「桐子ちゃんが頑張れば出来るよって言ってくれてね。それで、佐藤君も応援するって言うから、もっと頑張るよ」
「あ、ああ。めっちゃ応援しているからな」
俺はもちろん応援するけど、幸助は美緒ちゃんが新体操やること、どう思っているんだろう?
反対はしていないみたいだけど、積極的に応援する気もなさそうな淡白な反応が気になってしまったが……彼女がせっかく、やる気を出したんだから、もっと応援してやれば良いのに。
放課後――
「美緒ちゃん、今日も体育館に行くんだよな?」
「うん。行くよー。佐藤君も来ないの?」
「行っても良いけど……幸助はどうしたの?」
「何か今日も用事があるみたいで。美緒ちゃんは新体操部に行くから、応援するって」
「ふーん」
今日は用事があっていけないね。何の用事だか知らないが、意外に素っ気ない奴だな。
「じゃあ、俺が行ってやるよ」
「佐藤君、また来てくれるんだ。佐藤君も新体操部に入ったら?」
「いや、俺は……」
男子で新体操をやるってのはちょっと……。
そもそも俺も興味はないし、無理に入ってもね。
「面白いと思うのになあ。あ、桐子ちゃんだ。こんにちは」
「げ……今日も来たんですか」
体育館に行くと、既に桐子ちゃんはジャージに着替えてきており、一人でストレッチをしていた。
「本当に新体操部に入る気なんですか?」
「ダメー?」
「駄目じゃないですけど……皆川先輩、昨日は体験入部だっていうから、優しく教えましたけど、本気で入るってなら、ビシバシ行きますからね。本当の本当にその覚悟できています?」
「うん!」
と、念を押すように桐子ちゃんは美緒ちゃんに言うが、美緒ちゃんは満面の笑顔で即答する。
「言っておきますけど、先輩、怒られるの嫌いとか泣き言言わないでくださいね。私だって、そこまで優しい人間じゃありませんし、新体操だって本気でやっているんですから、遊びで来られても困るんです」
「き、桐子ちゃん。美緒ちゃんが入りたいって言うんだから……」
「私は今、皆川先輩と話しているんです。じゃあ、今日も一緒に練習しましょう」
「はーい」
俺が入れてやれよとフォローしようとすると、桐子ちゃんに一喝されてしまい、後は任せるしかなかった。
この前、花壇で暴れた時の事があるから、桐子ちゃんは美緒ちゃんの本気度をかなり疑っているみたいだな。
「それでは、足をここまで上げて……もっと、そう。その態勢で十秒我慢してください」
「う、うぎいい……」
美緒ちゃんを壁際に立たせた後、足を思いっきり伸ばさせて、そのまま十秒数える。
結構きつそうな柔軟だな……でも、美緒ちゃん、頑張っているじゃない。
「はい、OK」
「ふわああ……あ、足痛い……」
「その痛いのも慣れてきますから。本気で新体操やりたいんですよね? だったら、もっとキツイトレーニングやらないと、試合に出せるようになれませんからね」
「はうう……」
口調は穏やかだけど、厳しいことを言うなあ。
でも美緒ちゃん、嫌になったらすぐに泣いて、大騒ぎしちゃうかと思ったけど、今回はそういう傾向は見せてない。
桐子ちゃんの指導が上手いのか、それとも美緒ちゃんがそれだけ本気に取り組んでいるのか……。
「ちょっと休憩しますか」
「はうう……」
休憩というと、美緒ちゃんは体育館の端の方に座り込み、足を擦る。
「何をやってるんだろうな、私……」
「桐子ちゃん、お疲れ。美緒ちゃん、思っていた以上に頑張っているじゃない」
「そうですね。すぐに泣いて辞めるかと思っていたんですけど。新体操を本当の本気でやってくれるってなら、私も嬉しいです」
「おお、じゃあ入部を認めたら?」
「…………」
というと、桐子ちゃんは厳しい顔をして、黙り込む。
「ど、どうしたの? そんなに美緒ちゃんが入るの嫌?」
「嫌じゃなくてですね……万が一、新体操を皆川先輩が頑張ったらですね。幸助先輩、どう思うんでしょうか」
「そりゃあ……喜ぶんじゃない?」
「ですよね。それが嫌なんですよ。何で私が二人の仲を深めるような事しなきゃいけないのかって。そこまでする義理あります? 皆川先輩にはこの前の花壇の時と言い、家の掃除を手伝わされたりと、酷い目に遭っているのに」
「義理って……」
幸助の事もあるけど、美緒ちゃんには極力関わりたくない上に、好きだった人の仲を深めさせられる手伝いをするのが嫌らしい。
「くうう……何でこうなるんですか、もう」
「美緒ちゃんがやりたいってなら、応援してやろうよ。幸助も桐子ちゃんが美緒ちゃんを受け入れてくれれば喜ぶかもよ」
「それが気に入らないって言ってるじゃないですか。喜ぶって、何? ああ、桐子ちゃん、美緒を立派に指導してくれてありがとうって、言われて、それでどうなるんです? 幸助先輩と付き合えるんですか? 違いますよね、そうですよね?」
そ、そうかもしれないけど、桐子ちゃん、ちょっと大丈夫か?
前から思っていたけど、情緒不安定な子のような気がして心配になってきたが、美緒ちゃんを入部させてしまって、大丈夫なんだろうか?
「桐子ちゃーん、練習しないの?」
「は……すみません、愚痴を言ってしまって。今、行きます。それじゃ、佐藤先輩。幸助先輩には私は頑張って皆川先輩を指導しているとだけ伝えてください。少しでも印象良くしたいんで」
「わかったよ」
結局、幸助の事、まだ未練ありまくりなんだな。どうすれば吹っ切れてくれるんだろうと思ったが、美緒ちゃんが幸助と別れるのを待っているのか?
往生際が悪い気がするけど、部活は真面目にやっているから、やっぱり憎めないな。
「はああ……体のあちこち、痛い」
「今日はこれくらいにしましょうか。私、残って一人で練習しますので」
「お疲れ様。美緒ちゃん、頑張ったな」
一時間ほどで美緒ちゃんの練習は終わり、美緒ちゃんも昨日以上にグッタリしていた。
「新体操部は楽しい?」
「体痛い。本当に、体柔らかくなるのー?」
「すぐにはなりませんよ。何か月も練習しないと」
「うう……」
桐子ちゃんの話を聞き、美緒ちゃんは更にゲッソリした顔をして俯く。
「頑張れば幸助も喜ぶと思うからさ」
「美緒、頑張るよ。新体操で華麗な舞を出来るようになるもん」
いつになく力強い口調で言ったが、これは遂に本気になったということか?
だったら、もう俺の出る幕はなさそうだけど、美緒ちゃんのことだから、ちょっと不安かも。




