一回戦1
19:00を回る。
試合が始まる。
「上角君だよね。」
控え室から出たところで、声を掛けられる。
「お手柔らかに頼むね。」
場違いな明るい声。
蓬田――Q’sの、公園のバウター。
肩まであるウェーブヘアを揺らし、
ストリートファッションを緩く着こなすその男からは、
これから闘り合う殺気など微塵も感じられなかった。
「おぅ。」
とりあえず応えたが、ヤツはもう背を向けていた。
気楽な足取りでケージへ向かう後ろ姿は、まるで緊張感がない。
追うような形で後を追い、ケージをくぐる。
レフリー。
照らしてくる幾色ものライト。
周りを囲む金網。その先で騒ぐ客たち。
いつもとは、全く違う光景。
だが、やることは同じだ。
目の前の野郎を叩きのめす――それだけだ。
対角に立つ蓬田は、にこやかにこちらへ手を振っている。
(……調子狂うな。)
公園の連中というのは、こんなノリなのだろうか。
話に聞いてはいたが、バウト場ごとで大分違うらしい。
レフリーがそれぞれをチェックし、
マイクを取り出した。
一瞬、騒めきが止む。
「赤コーナー。ライデン仕切る高架下の狼、上角空斗---!」
(……。)
何やら勝手に異名を付けられた。
微妙にこっぱずかしいが、マシな方なのだろうか。
「青コーナー。Q’sの旋風、蓬田丈悟---!」
蓬田は両手を振って、アイドルさながらに両手で歓声に応えている。
レフリーはそのまま距離を取り、
「ファイ!!」
開戦を告げた。
対角の先。
蓬田の顔から、あからさまな笑顔が消える。
その目は、不敵な闘志を宿していた。




