前夜の電話
ビルの一室。
煙草の煙が、蛍光灯の光を曇らせていた。
夜の喧騒が、窓越しにかすかに聞こえる。
携帯が震える。
画面の番号を見て、薄く息を吐いた。
煙草を灰皿に押しつけ、手に取る。
「――紀藤です。」
受話口の向こうから、低くしゃがれた声が響く。
『明日の段取り、問題ないか?』
「はい。進行は予定どおりです。
三チームとも了承済み、動員も確保してます。」
『金は、回収できるんだろうな。』
「分かっています。大丈夫ですよ。」
わずかな沈黙。
『……例の“補助”は、大丈夫なのか?』
「……あぁ、そちらですか。」
まぁ、そこは気になるだろう。
そりゃそうだ。
自分らのシノギに火がつくのは避けたいだろう。
「数回試しましたが問題ありません。
効果は確かです。」
『副作用は?』
「多少、情緒に変化はあるようですが、大したことはありません。
アルコールと変わりませんよ。」
『……だがな、リスクは最小に抑えたい。』
「ええ、承知してます。
小さなものです。
でも、何事にもリスクはつきものですよ。」
背もたれに体を預け、ゆっくりと椅子を窓に向ける。
夜がネオンに照らされている。
「勝てばいいんです。
勝者にしか目はいきませんよ。」
沈黙。
受話口の向こうで、男が短く鼻を鳴らした。
『……お前、怖い奴だよ。』
「褒めていただいて光栄です。」
相手が、かすかに笑った気配。
通話が切れた。
携帯を伏せると、部屋の空気が急に静かになる。
灰皿の火が、わずかに赤く光っていた。
「――全部、予定どおりだ。」
その火を、指で潰す。
音もなく、灰が弾けた。
以降、隔日投稿になります。




